✿ 第32話(前編):ハッピーハロウィン
10月31日。今日はハロウィン&魔法学園の創立記念日だ。
「なぁ、今日は街に行くよな?」
「もちろんだろ!」
「何の仮装して行こっかな~」
そんな和気あいあいとした声は、黒寮の中を少し歩くだけで耳の中へ飛んでくる。
魔法世界のハロウィンで、子どもたちは「トリック・オア・トリート」という言葉と共に、大人たちとお菓子を分け合い練り歩く。そして魔法使いは仮装をして、死者の魂や日本妖怪と友情を確かめ合う……私たちにとって、すごく大切な行事だ。
昔からある言い伝えで『その昔、魔法使い達が彼らとお友達になりたいと考えて、見た目を真似して仮装をするようになった』という物がある。それを記した絵本は小さい頃に母から聞いた、大人気の作品だ。
私たちは、どちらかと言えば人間に仮装される側の存在。だからこそ、ご先祖様も死者の魂や日本妖怪達と「お友達になりたい」なんて思ったのかもしれない。
幼いながら私の心に深く響いたのを、今でも覚えている。
「私も早く行かないと……」
そんなハロウィン一色な金曜日のお昼過ぎ、私は春風に呼び出されて第1棟へと足を運んでいた。昨日見た嫌な夢を思い出して憂鬱になるこの気持ちを、周りの明るい雰囲気と一緒に誤魔化しながら。
*
「あ、花柳やっと来た! 聞いて聞いて、君とのミッションをついに達成したんだよ!」
「……いや、話は聞くんだけど……その頭のやつは何?」
教室に入るやいなや私の目に飛び込んできたのは、悪魔の羽がついたカチューシャを頭に付けた相棒の姿だった。思わず口をついて出た言葉に、春風はニヤーっと笑いながら、手に持っていた箱の中をがさごそと漁り始める。
「はいどうぞ。トリック・イェット・トリート~」
そう言うと、私の頭に何かをポンッと乗せ来る。何かわからず自分の手を頭に乗せてみると、何か固い感触が髪の毛の上に乗っかっているのを感じた。
「トリックオア……じゃないの?」
「フッフッフ、これは〝お菓子は要らないからイタズラさせて〟って意味なんだよ♪ 花柳も知らない事ってあるんだね~?」
「顔と態度が凄くムカつく」
「急に悪口!」
どうやら彼女は、私にもカチューシャを付けてきたらしい。スマホの画面に映る反射した自分を見ると、春風とは反対の方向に天使の羽がついたカチューシャが乗っかっている。イタズラがこれって、なんて優しい悪魔様なんだろうか。
まぁ、それは別に良い。問題は他にある。
私はスマホをポケットにしまうと、そのまま彼女に向かって手を差し出した。
「じゃあ、はい。トリック・オア・トリート」
「え?」
「いや、私にイタズラしたいなら、まずはお菓子を山盛り渡す方が先ですよ。聖女様」
「君って、ホントいつでも甘党発揮するんだね……」
「ハロウィンは、甘党がバレンタインの次に張り切る行事なの。この呪文を唱えるだけで、沢山お菓子が貰えるんだから」
その言葉に少し笑った後、仕方ないと言わんばかりに軽く笑う。私からすると、お肉やご飯にすぐお腹を鳴らして「全部食べよう」なんて言う春風にそんな顔をされるのは心外だ。
「はいはい。お嬢様、私のお菓子をどうぞ受け取ってくださ〜い」
そう言うと彼女は、手に持った箱をそのまま私に手渡してきた。しかし、私はその中を見て思わず「うわ」と嫌な声が漏れる。箱の中には、沢山のお菓子が詰まっていたのだ。
「辛党なのに甘いお菓子の宝庫を持ってるって、どんな苦行」
「いやそれが『聖女様、お菓子をあげるよ!』って渡されまくってさ……申し訳ないけど甘いの食べれないし、花柳だったら美味しいかなって」
「あ〜……」
この激辛大好き聖女様を神様みたいに崇めるのなら、神様は激甘が苦手な事すら把握していないと。天敵の闇魔法師の方が、よっぽど好みを知っている。
当の本人は、私が箱を漁る様子を見て不思議そうに首を傾げた。
「……これは甘くないお菓子だから、春風も食べられるでしょ。他にも少しあるし」
「あれ、ホントだ。量が多すぎてわかんなかった……ありがとう! ん~おいひ~!」
「食べるのはや」
「だって、ずっと見てたらお腹空いて来ちゃったんだもん。でも、貰い物なのに食べられないの申し訳なかったから、食べれて良かったよ!」
袋の中をパクパクと口に放り込んでゴクリと飲み込むと、目をキラキラと輝かせながら本来の目的の話を始めた。
その話を詳しく聞いてみると、どうやら課していたミッションについて先生2人から意見を聞けたらしく、やけに興奮した様子で私に教えてくれた。
「へぇ、二代目聖君様が魂と対話した……その魂が魔力だったのかもしれないし、春風の話す魔力が魂かもしれないって事ね。確かに、2人の状況は似てるかも」
「そうなんだよ。私的には、これが自分だけじゃ無かったのかなって少しホッとしたんだけどさ」
春風は普通じゃない自分を嫌っているから、謎が増えるばかりの状況も嫌気がさしているんだろう。解決の道が見える事は、互いにとって大きな利点だ。
「しかも『魔力は個性だ、不安になるなら私はカッコイイ個性を持っているって堂々と胸を張ればいい!』って先生に言われてぇ……カッコよすぎない?!」
大人の見本みたいな事を言うんだな……と、私は2人の魔法科教師を頭に思い浮かばせた。
魔法省だけにある情報を春風に教えてくれた上、1人にだけ話していいかと言う確証もない言葉を、あっさり承諾するなんて。それほど春風を信頼しているのかもしれないけど、本当に大丈夫なんだろうか。
幼い頃、父から「守秘義務があるから話せないんだ」と言われて、質問の答えを教えて貰えなかった事がある。家族ですらそんな感じなのに、学園の生徒に言うって事は……誰かから、聖女様に協力しろって言われてるとか?
魔法省の内部の事は、私は何も分からないけど。
「でも、それを聞いて余計に思った。昨日本を読んだ時に思ったんだけど、私たちは学園長に話を聞くべきだと思うの」
「学園長……って、入学式とかで喋ってた人だよね。式とか行事以外ではあんまり見た事無いかも。でもなんで?」
そう言われて、私はカバンにしまっていた本を取り出す。彼女に読んだ本を見せるのは、もう何度目だろうか。
これは昨日寮に戻った時に読んだ、図書館で安藤さんが渡してくれた一冊だ。私は本のページをめくりながら、彼女に問いかける。
「春風は、私と一緒に魔法使ってる時に『何か調子良く使えるな』って思った事はある?」
「あぁ~……どうだろう、私君と居る時しか魔法使わないし……あっでも魔道具壊した時は一緒に居なかったよね」
その言葉を聞いて、私は静かに頷きながら本のページを彼女に見せた。
「私も何となく感じる事があるの。この本は個人差のある魔法能力を〝魔力の波長〟って表現していて、波長の噛み合う相手に出会うと魔法能力が上がるんじゃないかって書いてあった」
「へぇ~……じゃあ調子が良いって言うのは、うちらの波長が合ってるって事?」
「私はそうかもって思ったけど、実際どうだか分からない。だからこの人に、話を聞きたくて」
その本の裏表紙を顔の前にやると、彼女は少し唸ってからハッとした表情になる。どうやらその本の監修が一体誰なのか、春風にも分かったようだ。
「柴崎って……もしかしてこれが学園長!?」
「そう。だから一度お話してみたいと思ってたんだけど……学園長は忙しい人だから話す機会なんて無くて。何か方法があれば良いんだけど」
私がはぁとため息を着くと、春風は曲げていた膝に手をグッと押し当てて立ち上がった。
「部屋の中でうだうだ考えててもしょうがないよね。よし、とりあえず一緒に駅前行こう!」
「一緒にって、変装するってこと? 寮に戻らないとウィッグとか無いけど」
「待って下さいよお嬢様!」
彼女は寮に帰ろうとする私の手を握り、制服のスカートに付けていた魔法の杖を手に取った。
「ちゃんと作戦を考えて来たんだから……〝闇の目眩し!〟」
紫色の煌めきに包まれて、私たちの姿は隠される。このままこっそり行こうって事だろうか。
でも、この魔法は他人から触れられたら、勝手に解除されて他人からも見えてしまうようになる。今日のようなすごい人混みではあまり向いていない魔法だ。
「それでこの大きな布を2人で被ると……ほら、布製お化けが完成~!」
春風は嬉しそうにそう言って、目のところに穴の空いた布を被せる。こんな不格好な姿になったのは、多分生まれて初めてだ。てか、布被ったらカチューシャつけた意味もないし。
「これならお化けとも友達になれるよね! 私、お化けとお話してみたいと思ってるんだ!」
「はぁ!? いやいや、何でお化けとお話なんか……」
確かに私は、死者の魂と友達になりたいと言うご先祖さまのお話が好きだった。でも、それとお化けが好きじゃないのは個人的には別問題。だって本物に会うなんて、そんなの出張版お化け屋敷みたいなもんだ。
「あれ~。もしかしてお化け怖いの?」
「………………別にそんな事ないですけど」
あぁ、私はなんでこんな馬鹿なことを……やっぱり帰ってればよかった。
そんなことを考えた所でもう遅くて、春風はやる気満々だ。こうなった聖女様を止められる人は居ない。
「それじゃあいざ、街へとシュッパーツ!」
こうなったら仕方が無い。彼女の初・魔法世界ハロウィンに付き合おう。




