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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✿ 第31話(前編):魔力の波長






「嫌っだって、言って、るでしょ!」

「大丈夫だって咲来(さくら)、お兄様のお願いじゃん~!」

「だから、こういう時だけっお兄様面しないでよね、所詮同時に生まれた、双子の癖に……っ!!」



 文化祭の2日目。太陽の登りきった昼下がり。私たちは太陽の光に照らされながら、周囲の賑わいの中でも一際大きい声を響かせていた。



『きゃぁぁっ!』

『うわぁ!?』


「ほら、さっき中に入って行った鈴音とりんの雄叫びが聞こえる。よし、早く離れよう」

「お化け屋敷なんだから、叫ぶのなんて普通でしょ。それに、折角りんのお姉さんがやってる出し物なのに~」

「……うた(お姉さん)さんには、申し訳ないと言う気持ちだけ教室に送る」



 この双子は、にっこりとした笑顔を浮かべて、あろう事かこの私をお化け屋敷に連れて行こうとしている。しかも、1番怖いと昨日噂になっていたクラスだ。


 私が抗議している間も、(ひかる)はまるで楽しんでいるかのように、余裕の表情を崩さない。こんな事をしていたら、ただでさえ目立ちやすい私たちが余計に目立ってしまうけれど、それでこちらが折れるのを待っているのが丸見えだから、私は絶対に譲らなかった。



「おー、久しぶりの双子喧嘩だな!」



 その時、お手洗いから戻ってきた陽太(ようた)が、私たちのやり取りを見て一言投げた。彼を視界に入れた瞬間、私はまるで救いの手が差し伸べられたような気持ちになる。ハンカチで手を拭いて歩いているだけなのに、後光が差して見える。

 

 幼馴染も双子も強者揃いだが、陽太は4人の中で一番意見や感覚が被る。そのおかげか、私の味方になってくれることが多い。



「陽太、この酷いお兄様を今すぐ引き剥がしてくれない? 私は寮に戻って休むから」

「えー、せっかく1日中みんな一緒なのに~?」

「昨日もずっと一緒に回ったでしょ。と言うか、お化け屋敷に連れて行きたいだけなのバレバレ。私が行くわけないんだから諦めてよ」



 そう言うと、輝はえへへと笑いながら頭をかく。



「ちぇ~、バレてたかぁ」

「いやいや……冷静に考えたら、咲来がお化け屋敷に行くなんて、地球がひっくり返っても有り得ないぞ」

「どうやら、お兄様より幼馴染の方が理解があるみたいだね。今度から陽太の事をお兄様扱いしようかな」

「それは、花柳家全体を敵に回しそうで嫌だな……」



 そんな話をしていると、輝はぷくっと拗ねた表情を浮かべた。しかし、私はその表情には動じない。彼がどんなに悲しそうにしても、この気持ちは揺るがないのだから。

 

 それに、私が帰りたい理由はお化け屋敷を回避したいからってだけじゃない。


 文化祭の2日目は、一般客もやって来る。周囲の視線が集まることの疲れも、私の心をより一層重くさせていた。有名な光の家門(花柳家)の子どもが闇魔法師とあらば、そこら辺にいる大人たちの視線を集めないわけが無い。このままじゃ、体育祭の空気をまた味わって生活することになる。

 今日は運動もしていないのに、まるで体育終わりの様な倦怠感がまとわりついていた。



 陽太(ようた)(ひかる)を引き剥がすと、私は直ぐに後ろへ歩いて「じゃあ、私は先に戻ってるから」と2人に別れを告げる。そのまま私は、中学棟から寮の方へとひたすら廊下を歩き続けた。

 

 周りの大人は私を気にして見ていても、迂闊(うかつ)に話しかけようとしない。私は一応近寄り難い立場の家門の人間……闇魔法師への恐怖心が、その感情をより一層高めているんだろう。

 でも、そうしてくれる方が私にも好都合だ。話した途端に闇魔法が暴走して呪いになりました〜、なんて洒落(しゃれ)にならないんだから。



「あら、咲来(さくら)さん!」

大庭(おおにわ)先生……こんにちは」



 廊下でばったり出会ったのは、担任の大庭先生だ。腕に腕章を付けているから、恐らく校内パトロール的な事をしていたのだろう。その手には、美味しそうなドーナツが握られていた。



「今日は寮へ帰るの?」

「そうですね……取り敢えず戻ろうかと」

「人も多いし疲れるよね、ゆっくり休むのよ。そうだ、ドーナツ1つあげる。量が多くてクラスの子に会えたら渡してたの」

「あ、ありがとうございます……」

「うふふ。じゃあまたね」



 そう言って、先生は優しくてを振って見送ってくれた。

 渡されたドーナツは出来たてなのか、少しホカホカで暖かい。ひと口頬張ると、中はふわふわモチモチで甘さ控えめ。舌から伝わるその味は、とても美味しいものだった。




 *




 この前、落ちていたブローチを渡しに行った時に図書館で会った安藤さん。彼女が渡してくれた本はどれも興味深い内容で、全てが面白いものだった。物語調の物も、初心者でもわかりやすい内容だ。

 

 その中でとても気になった物がある。それは〝魔力の波長〟と言う考え方だ。


 この本は個人差のある魔法能力を〝魔力の波長〟と表現している。中には「魔力の真価は、共鳴する相手と共にある。波長の噛み合う相手と出会えれば、特定の人物との相互作用で活性化するのではないか」と記述されていた。

 波長と言うのは聞いたことが無い。一般的な考え方では無いか、検証出来るレベルに自覚してる人は少ないんだろう。

 

 でも、私には何となく分かる。春風と居る時に魔法を使うと、とても調子が良い気がするから。治癒魔法を一発で成功させた時も彼女と居たし、何より一緒に居る時は右手が微かに温かく感じる。

 本当に相互作用があるのなら、彼女と一緒に練習をしてる日々は理にかなっていると言う事だ。



「波長の噛み合う相手が具体的にどんな条件なのか、それが知りたい所だけど」



 その条件までは本には記述されていないようだ。

 文字を読むのに目が疲れてきた私は本を栞でパタリと閉じる。そして、なんとなく本の裏側を見つめた。そこに書いてあるのは、軽い本の内容説明。それから――



「……この、名前って」



 その本の監修は、柴崎(しばさき)(じん)。魔法学園の学園長の名前だった。

 つまり、この考え方は彼が提唱していた? そう言えば、学園長をやる前は研究か何かをしながら放浪していたとか聞いた事があった気がする。あの人と直接お話する機会を得る事が出来れば、何か知る事が出来るかもしれない。

 この人なら、何か……。



「……学園長と話す方法とか知らないし……部屋に行ったら意外と喋ってくれるのかな」



 その本をぱたりと机に置いて、窓からぼんやりと空を眺めた。透き通る美しい青が、自然と心を穏やかにしてくれそうだ。

 少し遠くの方では、装飾の施された校舎と賑やかな声が響いてる。そこで行われているのは、水魔法と風魔法のパフォーマンス。煌びやかに輝く魔法が私の部屋からも良く見えた。


 昨日も思ったけれど、やっぱり先輩や先生の魔法は素晴らしい。彼らが繰り出す魔法は、まるで空を舞う鳥のように自由で美しい物ばかり。機械的な私の魔法とは全然違って、個々の気持ちが乗せられているような……そんな魔法ばかりだった。

 やっぱり、実技の授業を何度もこなしたり自主練をするのが、上達への一番の近道なんだろうか。

 


 魔法は理論だけじゃどうにもならない。実際に手を動かして、体で感じることが大切。私の頭に図書館のように広い知識があったとしても、それを生かす技術がなければ何も意味がない。私にはまだ、それが足りてないんだ。



「そう言えば、今週はまだ会ってないんだっけ」



 魔法の事をずっと考えていたせいか、何となく頭の中に春風(はるかぜ)の顔が思い浮かんだ。

 

 春風の魔法能力は、さすが光魔法師と言ったところだ。普通なら数回の練習で使い方を学ぶものだけど、彼女はほぼ一発で魔法を成功させてしまう。それほど魔法の才能があるという事だ。私ですら中々一発で成功させられないし、出来たのは精々光の治癒を使った時ぐらい。

 

 本人に力量があれば、万物を作る能力があると言われている二大魔法(光・闇)。春風なら、新しい魔法も簡単に作れるのかもしれない。



「私もそんな風になれたら、今頃は……」



 そんな事、考えても仕方がないか。

 今はただ自分に出来ることをやるしか無いんだから。



「……?」



 無音の空間に、ふとなにかの音が響く。後ろを振り向くと、机の上に置いてあったスマホの画面が光り、ピコッと小さな通知音が鳴っていた。

 窓の方から机へ移動し、スマホをゆっくり手に取る。再度暗くなった画面をタップすると、そこには「明日暇なら、お昼くらいに会わない?」というメッセージが表示されていた。

 その相手は、ちょうど今考えていた私の相棒だった。



「あした……明日って……」



 明日は金曜日だけど、休校日だから授業はない。しかし、ハロウィンの影響で街は賑わっているだろう。


 何を考えているのかは分からないけど、言い方からして勉強したい訳でも魔法の練習をしたいわけでも無さそうだ。正直、嫌な予感しかしない。でも、今週は文化祭もあって一度も会っていないし、元々明日は会う予定の日。つまり断る理由が無い。

 私は素直に「分かった」と一言返信してから、そのまま自分のベッドにボブっと寝転がった。

 


 窓から差し込む、温かな光を感じる。その光に包まれていると、少しずつ眠気が襲ってきた。ゆっくりと目を閉じると、その視界は暗くなる。

 でも、窓から指す太陽の光があるからか、瞼の裏に広がる暗闇も今はすごしだけ明るく感じた。







 

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