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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 闇魔法師の女の子
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✤ 第3話(前編):異質な存在たち







「ぜぇっ、っはぁ……初日から、遅刻するかと思った……!」



 普段から筋トレしまくってて本当に良かったよ。お陰で早く走れたし、やっぱり運動は素晴らしい。学園の校門を目の前に達成感を覚えながら、私はほっと胸を撫で下ろした。

 魔法学園の入口にはとても広い門があって、洋風の建物が沢山立ち並んでいる。小学4年生から高校3年生まで居るんだから、そりゃ全部大きいよね。文化祭で一度見たとは言え、この風景にはまだ慣れそうにない。それに毎日暮らすなんて、私からすると〝テーマパークに毎日お泊まりする〟のと同じような感覚だ。



「おはようございます、新入生の方ですか?」

「そーなんです、クラス分けするってスマホで見てて……」



 校門に立っていた高校生っぽい先輩が、私に優しく声を掛けてくれた。

 支給されたスマホはすごくありがたくて、入ってた学園専用アプリでは色々な連絡を通知してくれた。他にもSNSみたいに色んな人の呟きや動画があったり、こっちの人しか見れない物が他にもある。とにかく便利な機能だらけだ。



「最初は魔法の適性検査があるからね。あそこの合同体育館に行けば大丈夫だよ」

「なるほど、ありがとうございます!」



 優しく笑う先輩にお辞儀をして、私は指を刺された方向に足を進めた。歩いている道の左右には既に花弁(はなびら)が散っていて、緑が付き始めた桜が並木になっている。そう言えば、魔法駅では時期外れなのに満開の桜が咲いてたっけ。本当ならこっちの方が自然なんだろうな、家の近所にある桜も少し緑だったから。

 少し歩くと、直ぐに体育館らしき建物が見えてきた。ここら辺は文化祭の時にはあまり見なかった場所だ。しかし、近づく程に私は悶々とした感情が湧き上がって来た。



「……体育館って、本当にこれの事?」



 思わず、そこで立ち止まってしまった。だって私の知ってる体育館と規模が違いすぎるんだもん!

 テレビで見るスポーツの試合会場みたいに広くて、ピカピカに磨かれた床がどこまでも続いている。そう言えば、さっき先輩が「合同体育館」って言ってたけど……もしかして、全学年用って事なのかな。テレビで見たオーケストラの会場みたい。


 私が入口の近くに行くと、先生らしき大人が沢山並んでいる。館内を覗くと、私と同じくらいの背丈をした私服の子たちが椅子に座っていた。魔法使いは毎年100人から200人くらい生まれるらしいから、多分私の同級生もその位の人数だ。

 中に居る人たちはソワソワとしていて、みんな落ち着かない様子。だけど、ここに居る私もそれは同じだ。そんな様子を察したのか、入口にいた先生らしき人が穏やかに話しかけてくれた。



「入学おめでとう、春風菜乃花(はるかぜなのか)さん」

「えっ、どうして私の名前?」

「体育館に入室した生徒の魔力を検知して、この魔道具(まどうぐ)が自動で名前を書き込んでくれるの。使用許可の降りる場所が少ない、とても貴重な魔道具よ」

「はぇ~すごい……」



 そのテーブルには紙とペンが置いてあって、なんとペンはひとりでに動いているのだ。

 私はその様子が不思議で、ついじーっと眺めてしまった。スマホの時からそうだけど、さっきから魔法の事で驚きずくめな気がする。家からここまで、辞書を一気読みして来てる気分だ。



「後ろの一番右側にある席が空いてるから、そこに座ってね。もうすぐ始まるから」

「分かりました」



 5列に分けられた椅子は殆どが埋まっていて、一番後ろの列だけは椅子が半分残っていた。時間もギリギリだったから、きっと私が最後なんだろう。人が居ない椅子の上には透明な石がぽつんと置かれていて、周りを見ると手に持ってる人も居る。みんなと同じようにその石を掴んで、私は空いていた席に腰を下ろした。

 すると、直後に体育館へアナウンスが鳴り響く。ザワザワとしていた同級生たちはその瞬間口を閉じたみたいで、一瞬で空気は静かになった。正面に注目してみると、コツコツと鳴り響くヒールの音と共に、1人の女性が壇上でマイクを手に取った。



「皆様、この度はご入学おめでとうございます。副学園長の若宮(わかみや)恵美(めぐみ)です。まずは寮へとご案内したい所ですが……その前に、魔法適性ごとに4つのクラス分けをさせて頂きます」



 その言葉に、周りから楽しげな声が溢れた。みんなにとって、適性検査は楽しみなイベントなのかもしれない。



「透明な石があるかと思いますが、これは皆様の魔力を取り込む特殊な宝石。これに触れると皆様の魔力を吸収し、適性魔力の固有色を示してくれます」



 魔力が全くないのが普通の人間で、魔力がある人間が〝魔法使い〟って呼ばれる……って魔法省の人に聞いた。適性はここで調べておかないと生活も大変なんだとか。そう言えば、適性がない属性を使おうとすると体に良くないんだっけ。ぶっ倒れたり、全然動けなくなったり。



『えーっと、火と水は光属性・土と風は闇属性?』

『はい、正解です!』

『光と闇の二大魔法は、使える人があんま居なくて……もうダメだ、頭爆発する!』



 あの時の私は〝劇で手軽に覚えられないかな〟とか、どうにか運動に絡められないかなとか、そればっかり考えていた。小学生2年生の私は限界すぎて、九九を筋トレしながら暗記しようとしてたぐらいだから。

 

 

『大丈夫バッチリ合ってますから! もしコレが分からなくなったら、その人の制服を見れば大丈夫です。学園のブレザーやネクタイの色は、寮や適性の色に対応していますからね』

『うぅ、分かりました〜……』



 懐かしい記憶。魔法は仕組みが難しくて、全然覚えられなかったんだよね。その時は、聞いた事を頭の中で復唱しまくってなんとかしてた。代償に、テストの点数が地獄の沙汰になってたけど。



「ではその宝石を持って、椅子の一番左側に居る先生の所へ並んで下さい。教師がそれを確認・記録して、制服や杖などをお渡しします」



 そう言われると、みんなが宝石を持って席を立ち始めた。私も慌てて宝石と一緒に並ぶけれど、元々の席順的に並ぶのも後ろだ。と言っても、列の長さは私の所が短いみたいだけど。



「渡された生徒から、クラスごとに体育館の後ろで集まって下さい。全員終えたらそれぞれの寮へご案内します」



 前にいる子たちはワイワイ喋りながら並んでいて、先頭の子たちなんて、もう制服を貰い始めている。白と黒……それと4色のネクタイ。確かに制服を見ただけで、なんの魔力が多い人なのか一発で分かる。

 周りも先生に見せる前に見ているし、私も先に宝石の色も見ちゃおうかな? でも、あの淡黄色が広がってるのを見るのはちょっと……やっぱり、自分では見たくないや。むしろ壊したくなって来たかも――



「紫!?」



 その大きな声が弾けた瞬間、体育館の空気が割れた。まるで、体育館全体が凍りついたように。

 静まり返る空間で声の先に目線をやると、そこにはさっきスマホを拾ってくれた女の子が立っていた。その目の前で宝石を見てる先生は、まるで空飛ぶ猫でも見つけたみたいな表情。館内に居るみんなの視線が、彼女へと集中していた。



「え……あれって咲来(さくら)さんだよね?」

「紫って、なんで?!」

(ひかる)さんは、家族と同じ適性じゃん!」



 紫は確か闇魔法の色……じゃあ、私みたいな珍しい人が同じ学年にいるんだ。珍しいって持ち上げてる割に同じ学年に居るなんて、案外光と闇の魔法ってそんなすごい事じゃ無かったりして。

 そんな事をぼけーっと考えていると、コソコソと話す声が私の耳へ勝手に入り込んだ。



「闇魔法って、マジか」

「えー、流石におかしくない?」

「うちの親、花柳(はなやぎ)家は光属性の人としか結婚しない〝完璧な光の家門〟だって言ってたけど」

「じゃあ実は血も繋がってないとか」

「あんなに似ててそれは無いって」



 聞こえた言葉から察するに、あの子は光の家門ってお家の人らしい。でも、何でそんなに噂話をする様に言うのかまでは、全然分からない。前の列で囁く声も、後ろの席で笑う声も、どれも少しだけ冷たくて。分かるのは、親の遺伝的にあの子の適性も珍しいって事だけだ。

 ついでに、彼女の名字が〝花柳〟だと言う事も知った訳だけど、その名前はとても聞き覚えがある。私が魔法使いだと分かった日、そして入学の手紙を渡す為に来た日……人生で初めて見た本物の魔法使いと、全く同じ名字だ。



『こんにちは。魔法省・文化教育部所属の、花柳慧斗けいとと申します』

『私の子どもと菜乃花さんが、実は同い年なんです。どうか、良き出逢いになる事を祈って――花柳慧斗』


 

 って事は、あの子が付せんに書いてあった同い年の子だったんだ。名前も書いてなかったけど、まさか本当に直ぐ会えるなんて。しかも名前を知る前だったのに。



「黄色も緑も非常に多いですが、これは風のクラブ()クラスで良いでしょう」

「分かりました。お手数おかけしてすみません」

「いえ……僕も初めて見たもので、大人がこんな事に驚いてしまって申し訳ない」

「私もすごく驚きましたよ。私は大丈夫なので、先生も気にしないで下さい」



 彼女は宝石を先生に差し出して、そのまま一礼する。でも、私の目には一瞬だけ指先が震えているように見えた。なのにあの子は、何事も無かったように友達と話してる。驚いたなんて言葉も嘘だったみたいに冷静だ。周囲のざわつきに一切反応せず淡々と会話する姿は……まるで、この状況へ既に慣れてしまった人のよう。

 あの子の周りに居る友達も普通そうにしているけど、周りの同級生たちはそうじゃない。みんな、どこか距離を置いたような視線を送っていた。段々増えていくのは、驚き・不安……そして一部では明らかな拒絶。


 さっきまでみんなが楽しそうに話してたのに、紫色の石一つでそんなに態度が変わる? そういう感覚は魔法使いにとっては普通なのかもしれないけど、私には全然わかんないよ。

 なんだか、胸の奥がザラザラとした感じがする。こういう空気はすごく嫌……はやく、抜け出したい。



「……あの、大丈夫?」

「ハッはい! 大丈夫でふっ!!」



 周りの様子に気を取られて、いつの間にか自分の番になっていた事に気がついていなかった。勢いに任せて噛んだのが恥ずかしい。

 その流れで慌てて先生に宝石を見せると、その体は氷漬けにされたみたいに固まっている。じわりと暖かい自分の手のひらを見てみると、淡い黄色の光が私の手のひらを照らしていた。こんなに元気になれそうな色なのに、私の視界には灰に映る。


 それは聖女様の……普通じゃない色だったから。




 




 

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