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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✧ 第28.5話(前編):捜査部のバディ (八雲ちえり)







 職員室から分けられている、特別な空間。

 1年生の初回授業を終えた私たちは、放課後その部屋に訪れた。目の前に立ち、ドアを3回ノックする。



「はい、どうぞ」



 承諾の言葉がドア越しに響くと、私は【学園長室】と書かれた扉をカララと開いた。その瞬間ふわりと香る匂いは、ほんのりと甘い紅茶の香り。芝崎(しばさき)学園長は紅茶好きで有名な人だ。

 中に入ると、壁には歴代学園長の顔が飾られた額縁があり、職員室とは全く違う雰囲気が漂っている。机に置かれた書類を手に取りながら、学園長は「いらっしゃい」と優しい眼差しで言葉を投げた。



「失礼します、学園長」

「1年生の魔法授業が開始した為、ご報告に上がりました」

「OK、そこのソファに座って良いよ。紅茶でも飲むかな?」

「ありがとうございます、是非」

「いただきます!」



 お言葉に甘えて、そのソファに腰を下ろした。革製の上質な素材で出来て居る様で、座った瞬間自分の体が深く沈むのは毎度の事だ。和泉(いずみ)も隣に座るが、私より体重が重いであろう彼の体はこちらよりずっと下に沈んでいる。

 学園長はティーセットを持って来ると、ガラス造りのテーブルにそれを置いた。同じようにテーブルの上に置かれた花瓶は、学園長の趣味だろうか。ここを訪れる度に、その花の種類は移り変っている。



「それじゃあ、報告を聞こうかな」

「はい」



 基本的に報告の際に会話をするのは私だ。

 いつも通り、ありのままあった事や感じた事を報告するのが我々の義務。魔法省から派遣されている私たちには、学園に雇われた教師陣とは違った事が求められているのだ。



「今年の新入生の授業を担当致しましたが、初回では特に問題はありません。それぞれのクラスで特色はありながら、魔法を学ぶ事への姿勢は例年通りと見て取れました」

「そっかそっか。安心したよ」

「……ですが、やはり今年の入学生の雰囲気は他学年と明らかに異なっています」



 私がそう言葉を放つと、学園長は真っ直ぐと私たちを見つめる。何も言わずとも『どうして異なるのか』なんて伝わった様で、その瞳は静かに感情を震わせていた。



「それは、特別な子たちが居るから?」

「1番の理由は、それが大きいです」



 私が断言すると、学園長は少しだけ眉をひそめた。



「光の子の魔力には特殊な性質がある事も確認出来ましたが、我々の力ではそれを解読する事も難しいでしょう。闇の子は今の所、そのような兆候は無さそうですが……まだ詳しい事は分かりません。しかし、現在は魔法の授業を行う上で支障はないと思われます」


「ふむ……」



 むしろ、ハート()クラスの授業では「聖女様や聖君様レベルを目指して頑張ろう!」と言う覇気を感じだくらいだ。

 目の前に教科書に出るようなモデルが居ると、良くも悪くもみんな意識してしまうのだろう。本人の意思は関係なく。



「和泉君は、授業で思った事は何かある? 良かったら教えてくれるかな」



 学園長に促されて、隣に座る彼は一瞬肩を震わせた。意識していないのかもしれないが、それぐらい学園長は覇気のあるお方。要するに圧が強いのだ。



「はい……個人的な意見ですが、魔法を学ぶ事に対しての意欲が学年全体で高いように感じます。本人たちがそれを望んでいる訳では無さそうですが、結果的には『2人のおかげで魔法に興味のある人が多い』のかと」


「なるほどね」



 そう言うと、学園長はカップの中の紅茶をゴクリと飲み干して、白い陶器で出来たティーポットを手に取る。

 


「私はね、この学園は平等であるべきと考えているんだ。皆の個性を尊重し、認め合える場所であって欲しい……なんて、子どもからしたら大人のエゴかもしれないね」



 カップに紅茶が注がれると、学園長は今まで手をつけていなかったミルクを垂らす。カップの赤のに白が混ざると、それは柔らかいベージュ色へと変わって行った。



「大人には、子どもを守る義務がある。私からしたら2人も教え子だけど、今は共に生徒を守る仲間だからね。かと言って、何もしてないのに学園長の私が出てきたら、子どもは怖がるだろう? だから何かあった時は、生徒たちをよろしくね」

 

「はい、任せて下さい!」

 

「もちろんです」


 


 *




「先輩。あれ、どう言う意味だと思いますか?」

「私は直接関与出来ない可能性が多いから、何かと気にかけてやってくれ。なんなら事前に対処してくれ……って意味だな」

「やっぱりそうですよね!?」



 あの人は、遠回しに言うのが癖なのか、ストレートに伝えたい事を言わない節がある。学園長は魔法使いでもトップクラスの地位だから、立場的な問題もあるのかもしれないが。



「魔法省からも注視される様に言われているし、学園長もその事を気にされて居るんだろう。大人の都合で子どもを振り回すのがお嫌いだからな」


「それは、俺も同意です。自分が今その立場になったらと思うと、普通に嫌な気持ちになりますからね。子どもは大人に守られるべきだ」


「……みんなが和泉みたいな考えなら、世間はもっと平和だろうな」



 末端の派遣教師である我々に『光と闇の対立の種』を事前に摘む事が出来るのかは分からない。しかし、魔法学園の秩序維持は我々(魔法省職員)がすべき1番の仕事。

 とは言え、大人はあくまで子どもの行く先を照らし導く事しか出来ない。寄り道するも先を行くもその子次第。結局最後は生徒任せになってしまう。せめて、その道を阻む障害を取り除くぐらいは出来たら良いのだが。



「それにしても、相変わらず無茶言ますよね、学園長」


「まぁ良いじゃないか。学園派遣の捜査部員なんて、とても名誉あるポジションだぞ?」


「やりがいは勿論ありますよ。でも……先輩はともかく、俺に学園派遣なんて務まるのかなって思っちゃって。去年までと今じゃ状況も違いますし」


「そんな事言うが、務まりまくって無事に3年目じゃないか。和泉は毎度、物事を深く考え過ぎなんだ。もっと私の様に気楽に過ごす方がいいぞ?」


「先輩と違って、俺は慎重派なんですよ~!」



 2人で学園長室から職員室に戻ると、雰囲気は明るく一変する。しかし、担当する学年を持って居ない私たちは、職員室より魔法科室に居る事が多い。一応席はある物の、我々は魔法省からの派遣職員。校内の教員の中では一番曖昧な立ち位置だ。

 

 そもそも、捜査部から学園への派遣は毎年2人で、引き継ぎ年のみ3人か4人。しかし魔法教師は他にもおり、全員で10人程度は居る。中学に上がるとクラス毎に、適性が同じ先生が学年にずつ1人付く。それでより専門的な指導を受けられるようになる訳だ。

 小学生の指導は基礎に限られるため、教員が1人ずつ付くことは無い。結果、我々派遣職員が担当する習わしになっていた。



「あっ」

「なんだ、どうした?」

「小学棟の保健室に渡す書類忘れてて……さっきついでに持って行けば良かったですね。俺、ちょっと行ってきます」



 しまった、私もすっかり忘れていた。確か、提出期限は明後日までだっただろうか。こう言うのはさっさと渡してしまった方が良い。今を逃すと、期限後までは忘れそうだ。



「それなら私も行こうと思ってたから、ついでにどちらも渡して来よう」

「え、いいんですか!?」

「あぁ。代わりに捜査部への連絡事項、色々まとめておいてくれ」

「了解です、任せて下さい! なんなら、先輩の分も俺がまとめて報告しておきます!」

「そうか。じゃあそっちは頼む」



 和泉の顔を見送って、私は2枚の書類を持って職員室を後にした。







 


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