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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✤ 第28話(後編):生徒と先生








  初めての授業はあっという間で、いつの間にか終業のチャイムが教室に鳴り響いていた。魔法学園でようやく魔法らしい授業を出来たクラスメイトは、興奮の冷めない様子で私に話しかけてくる。

 ……私にと言うよりは〝聖女様〟に、だけど。



「聖女様って、本当にすごいですね!」

「授業で聞くと改めて実感するよな」

「国ぐらいの広さに魔法を使えて、その魔法で私たちの生活を作り上げたなんて……」

「えぇ、でも私の話じゃないし~」

「でも同じ〝光魔法師〟じゃないですか!」

「うんうん!」



 八雲(やくも)先生、どうしてあんな私が目立つ様な言葉を……。

 

 聖女様だと注目される度に、やる気がどんどん地の底に沈んでいく気がする。みんなが持つ期待や憧れは冷たい波みたいで、体の芯まで冷えてしまいそう。みんなの事は嫌いじゃないと思うけど、嫌いだと錯覚しそうなくらい……使える魔法だけで特別扱いされるのは、嫌だと思っている。


 でも1番嫌気が差すのは、こうやって頭の中で嫌だとばかり嘆いて終わる今の私。嫌われるのを恐れている……小1の頃に窓ガラスが割れた時の事をずっと引きずり続けてる、自分の事だ。



「あはは……」



 つい笑って誤魔化していると、ザワザワとした教室の中に紛れていた千鶴(ちづる)が、私の目の前にドンと現れた。いつもは穏やかなその眉毛を、キッと吊り上げながら。

 思わず「うわっ」と声を出すと、彼女は大きな声をあげる。



菜乃花(なのか)ちょっと来て、今すぐ緊急なのーっ!」

「え? なに、何事なの千鶴!?」



 その瞬間、千鶴は私を立ち上がらせて、教室から飛び出していく。こんなに勢いよく走っていたら、先生に怒られちゃいそうだ。腕を引っ張る千鶴へどうしたのかと聞く前に、彼女は「はぁ~っ」と大きくため息をついて、静かに私へ向き直った。



「魔法の適性でとやかく言われるの、やっぱり嫌だよね。変な話の流れになってたから、つい引っ張って来ちゃった!」

「あ……」



 そこで初めて気がついた。千鶴は、私を助けてくれたんだ。わざわざ教室の外へ連れ出して。その行動は、ザワザワとした私の心を一瞬でほっとさせてくれる。



「ありがとう、千鶴。本当は自分でどうにかしたいのに、全然ダメでさ……」

「良いんだよ、何かあった時は私にドーンと頼って。私たち、友達なんだから」



 えへへ、うふふ……と、変な照れくささに包まれていると、静まり返った廊下の中で扉がガラッと開いた。突然響いたその音に、私たちは思わず「ウギャッッ!?」と意味のわからない叫び声を放つ。

 しかし目の前に現れたのは、さっき私たちの教室にいた八雲(やくも)先生だった。



「春風と四葉? さっきぶりだな」

 

「びっくりした、八雲先生だったんだ。こんにち……」

 

「ちょっと先生、さっきの授業で聖君様とか聖女様のお話したじゃないですか! あんな風に話したら、菜乃花が盲信者から変に注目されちゃうんだから、絶対ダメでしょー!!」


「どわぁーっ! 千鶴さーん!?」



 こっちの言いかけた言葉を遮るように話す千鶴に、私の目は飛び出しそうになった。そんな事を言ってしまったら「何言ってんだ!」とか「敬語使いなさい!」とか怒られかねない。



「ちょちょ、流石の千鶴も先生にそんな言い方したら良くないんじゃ……」

「ダメだよ菜乃花。嫌な事は先生だろうと誰だろうとガツンと言わないと。ほら、私と喧嘩した時みたいにさ!」

「あ、あれは、ノリと勢いとテンションでどうにかなっただけだからぁ!」

「ふぎゅっ」



 体中からダラダラと汗が吹きまふるのを肌で感じながら、また変な事を言いそうな千鶴の口に、急いで手を当てて声を封じ込んだ。千鶴は「もごふが」と変な声を出している。



「……ぷッ、アハハハっ!」



 その瞬間、八雲先生は何かが弾けたみたいに笑い始めた。何があって笑っているのか分からなくて、私たちは目をぱちぱちとさせていた。



「2人は、本当に良い関係を築いているな。とても素晴らしい事だ。それに、私は魔法適性だけで人を判断する文化を好いていない。だからあまり気にするな」

「ありがとうございます……」

「ふぐあごが」



 あ、千鶴の口塞いでるの忘れてた。



「申し訳ないけれど、さっきのは教科書に載っている必修内容なんだ。春風には不快な思いをさせてしまったな」

 

「いやいや、全然先生のせいじゃナイデスッ!」

 

「アハハ、そんなに怯えなくていいんだぞ。これでも一応先生だからな、今後も不満や魔法の相談があればいつでも聞かせてくれ。私は専門家みたいな者だから、魔法の事なら色々教えられるんだ」


「……っぷは! 先生、何かの専門家なの?」



 口から手を離すと、千鶴はまた声を放ち始めた。先生はその言葉に、ゆっくりと頷く。



「私は魔法省にある捜査部の人間だからな。黒寮クラスの担当とはバディで、本来は呪使いや魔法犯罪への対応が主な仕事なんだよ。だから私は、魔法や呪いに対しての専門家みたいな感じかな」


「そーなんですか!?」


「あぁ。ココにも派遣依頼で来ていて、教師の合間に捜査部の仕事もしている。私たちの任務は、主に先生として学園生の保護をする事なんだ」


「すごーい、カッコイイね先生! 魔法省の人って事は、魔法の成績も上位だったの!?」


「……うーん、座学は苦手だったかな。でも、フィジカルでは誰にも負けなかったぞ。火魔法は勿論、水魔法と光魔法も随分修行した」



 なんだろう、言葉の節々から私と同じ香りがするのは。先生も、魔法は実技で頑張ろうとするタイプだったと聞いて、すごく親近感が湧いてきた。



「ごめんなさい先生、さっきは嫌な言い方しちゃって……」


「春風があの言い方で不快だったのは事実だし、それを伝える勇気を持っているのは素晴らしい事だ。だから、あまり気にしないで欲しい……四葉は、とても友達想いなんだな」


「や、八雲せんせぇ!」



 わぁ、千鶴の目がめっちゃキラキラしてる。分かるよ、先生めちゃカッコイイもんね。花柳(はなやぎ)たちのクラスに居るバディって人も、大人っぽくてカッコ良かったりするのかな?

 私も早く、先生みたいな理想の大人に――



「ところで……もうすぐ始業のチャイムが鳴るけど、大丈夫か?」



 その言葉を聞いた瞬間、私たちは背筋が凍りついた。



「全然大丈夫じゃないじゃん!? てゆーか私、八雲先生に聞きたい事もあったのにぃ!」

「これから何回も顔を合わせるんだ、またいつでも聞きに来れば良いさ」

「そっか、確かに!」



 私がそう言うと、先生は少し口を緩ませながら右手をフリフリと振ってくれた。千鶴と一緒に手を振り返しながら走り出すと、ツルツルとした廊下に滑って少しだけ転びそうになって「いたぁっ!」と、つい情けない声をあげてしまった。

 少し小さくなった先生が、私たちに向かって叫んでいる。



「廊下は走ると危ないぞー!」

「はぁーい!」

「分かりましたっ!」



 やばい、チャイムが鳴る前に戻らないと!


 私たちの足取りは自然と速くなり、心臓の鼓動もドキドキと高まっていく。教室の中で待つ友達の顔を思い浮かべながら、千鶴とともに走り出した。

 

 せめて、私を教室から連れ出してくれた優しい千鶴だけはチャイムに間に合わせて下さい、光の魔力さん! そしてついでに、是非私にYOTSUBAPAN(よつばパン)を買い占められる魔法を伝授してください! それか、買う為のお金を無限に出せちゃう魔法とか!



「おーい、2人とも遅刻だぞー。少し減点だからな?」

「間に合わんかった~……」

「えーっ! 先生おねがーい許してー!」

「ダメだ~」



 ……なるほどね。これはさっき私が魔法で悪い事をしようとしたから、光の魔力さんが天罰を下した訳ですね。光の魔力さん、良くない行いをしようとして申し訳ございませんでした。

 そんな事を頭の中で呟くと、グルグルとした思考が千鶴の声で一瞬クリアになる。



「ほら、早く席に行こう!」



 キンコンと鳴り響くチャイムと一緒にクラスメイトに笑われて、担任の先生には呆れられて。それなのに、前髪をボサボサにさせながらゼーハーと肩を揺らす千鶴は、太陽みたいに明るい表情をしていた。



「うん!」



 それに釣られるように、私も頬の緊張が緩む。ドキドキと高鳴る心臓に、答えるみたいに暑い魔力が体中を巡ってる。私は少し、おかしなテンションになっていたんだ。朝から、ずっとそうだったのかもしれない。

 だから早起きして、ランニングなんてしちゃったのかなぁ。



「どうしたの菜乃花、席行かないと……って、菜乃花ッ!?」

「あ、あれ……?」



 自分の体調なんて、分からなくなるくらいに。







 

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