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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✧ 第23.5話:いつか、ココで一緒に (四葉千鶴)








千鶴(ちづる)、やっほ~!」



 元気な声が店の前に響いた。顔を上げてその声がした方を見ると、相手はよく知っている私の友達だった。



「わーっ、菜乃花(なのか)久しぶり!」

「いらっしゃい」

「店員さんもこんにちは~!」



 太陽が登る11時。開店から少し時間が経った店内は、ゆったりとした空気が流れていた。お客さんの数も、お昼前なこの時間帯は落ち着いている。



「これと、これと、後これと、うーん……悩むけど、これ! 全部2個ずつお願いしまーす!」

「そんなに食べたら流石にお腹が破裂するよ!?」



 菜乃花はいつも、沢山ご飯を食べてる。確かに私たちは成長期だけど、男子と変わらない量を平然と食べても全然太ったりしていない。 その分毎日筋トレや運動を欠かさないから、むしろ沢山食べている方が体に良いのかな。でも、それにしたってパン8個は食べ過ぎじゃない?

 すると菜乃花は、全然違うと言わんばかりに声を上げた。



「ちょっとちょっと、私の事どんだけ食いしん坊だと思ってるのさ千鶴ちゃん。これは家族と一緒に食べるの~」

「あぁ、なんだ~そういう事か」



 そう言えば、菜乃花は5人家族なんだっけ……お姉ちゃんと弟が居るって前に聞いた気がする。それなら8個は食べ切れる量だ。



「は~い、詰め終わったよ。お会計ですね」

「わお、いつもよりめっちゃ高い!」



 おばあちゃんが指さす値段にそんな事を言うものだから、私は思わず笑ってしまった。



「さっき悩んでいたやつ、私が奢ってあげるよ。店の中で千鶴と一緒に食べて、少しお話してったらどうだい?」

「いいの? おばあちゃん」

「せっかく千鶴のお友達が来たからね。菜乃花ちゃんが良ければだけど……」

「ホントに~!? わーい食べます食べまーす!」



 菜乃花が飛び跳ねるように喜ぶと、おばあちゃんはパンとジュースをおぼんに乗せて、私たちに手渡してくれた。ふわっと漂うパンの香りと冷たいジュースの感触が、私たちの心をより一層ワクワクさせてくれる。

 おばあちゃんに「ありがとう!」と言って、そのまま店内の椅子へと腰掛けた。店員の洋服を着たまま席で食べるのは、ちょっと新鮮だ。



「で、7月も明日で終わりますが……千鶴さんは宿題をどのくらいやってるんですかね?」

「いやだな~、全部やってないに決まってるじゃん!」

「だよね、良かった仲間!」



 菜乃花はそう言うと、安心した様に笑った。

 

 私は勉強が好きじゃない。苦手というより、大嫌いだ。多分、好きなことに夢中になったら本領を発揮できるタイプなんだと思う。実際好きな事には直ぐに全力で熱を上げてしまう。

 興味があるのは魔法だけどその授業はまだないし、正直一学期はモチベーションがあんまり無かった。そんな私が宿題を進めているなんて……天地がひっくり返ってもあり得ない。


 菜乃花も、多分面倒な気持ちが勝っているんだろうな。結果的に、私と同じ状況になっているみたいだ。



「昨日ね、あのお嬢様にメッセージ送ったら『もう日記と読書感想文以外は殆ど終わらせた。春風も早く終わらせたら?』とか言ってくるんだよー!?」

「それは勉強好きの国から来た妖精だけが許される行為だよ! 私たちをあの子と同じ感覚に当てはめちゃいけない!」

「千鶴もそう思うよね!?」



 私たちはそう言って2人で目を合わせながら、パチパチと瞬きをした。ついじーっと見つめ合っていると、なんだか面白さが込み上げて来る。 口から弾けた声は明るくて、心地よく店内に響いた。


 こんなくだらない話をしていても、ウチのパンはやっぱり美味しくて、ふわふわのパンをひと口ほおばると、思わず「美味し~」と声が出る。ほっぺたが落ちると言うのは、まさにこの事だ。そんな大好きなパンを、大好きな友達と一緒に食べられるなんて、本当に嬉しいことだと、心の底からそう思う。



「そうそう、私なんて補習があってさ~」

「わざわざ学校行ったんだ、千鶴も大変だなぁ」



 菜乃花とお喋りしているうちに、もう進んでいない宿題のことなんて、すっかり忘れてしまっていた。







「ご馳走様でした~。千鶴もまたね、後で一緒にオンラインでゲームやろーう!」

「うん!」



 大きく笑う菜乃花に手を振ると、彼女は改札の方に向かって歩いて行く。段々と遠くなってやがて豆粒サイズになった彼女を、私はボケっと見つめていた。



「……千鶴」

「ん?」



 ふと、柔らかな声が耳に届く。

 顔を上げて私が「どうしたの?」と返事をすると、おばあちゃんは静かに微笑んだ。



「私は聖女様(せいじょさま)に救われたから、どうしても光魔法師(ひかりまほうし)を神様みたいに感じる部分があるんだ。息子たち程ではないけどね。でも……あの子は、あの人(先代聖女様)とは違う。千鶴と同じで、可愛い孫みたいなもんだ!」

「おばあちゃん……」



 驚きが胸に広がる。おばあちゃんがそんな風に言うなんて、私は全く予想していなかったから。

 おばあちゃんは過去に呪使いに襲われて、その時に聖女様に実際に救われた。本当だったら、私の親より盲信者でだったとしてもおかしくない。神様みたいに感じる気持ちも、私にはよく分かる。

 でも、そんな名前だけで菜乃花を測るなんて、すごくもったいない事だと、今なら声を大きくして言える。



「……うん」



 確かにあの子は聖女様だけど、聖女様だから好きになったんじゃない。春風菜乃花だったから大好きになったし、友達になれた。それに……私にはもう1つ、願っていることがある。



「私ね、いつか花柳さんとも友達になりたいんだ。そんで名前で呼んじゃったりして!」

「おお、そりゃデッカーくでたね! 友達作らないことで有名な子じゃないか」

「四葉千鶴は奇跡の子なので、そんな子と友達にもなれるのですよ〜おばあちゃん」



 花柳家は魔法世界では有名人だ。私だって小さい時に見た事あるし、お互い顔を合わせて会話をした事だってある。だけど彼女は、周りにいる3人と双子以外の同級生とは親しげに話しているのを見た事がない。全員に敬語だし、どこか線を引いた態度を取る。

 それが崩れた相手は、きっと学園じゃ菜乃花だけなんだ。



『もしも許してくれるなら、私も普通に接したい……友達だって、胸を張って言えるぐらいに……』

『……そうですね、貴女さえ良ければ。これからも宜しくお願いします』



「友達って言えるくらいに仲良くなったら、みんなでココに来て、一緒にパンを食べるんだ!」



 木から降りれなくなって困っていたところを、魔法で助けてくれた花柳さん。今までの過ちを怒ることなく許してくれて、その後も普通に接してくれた……そんな優しい女の子。


 

 いつだか廊下で会った時、菜乃花と廊下で喧嘩し始めたのは驚いた。しかも、カレーの辛口甘口とか言う最強に意味の無い内容で。彼女にそんな一面があるなんて、今まで全く知らなかった。静かに怒る印象はあったけど、あんな感情的にズケズケと釘を指していく姿は新鮮で、すごく面白くて。

 あの日から私は、いつか一緒にここのパンを食べてみたいな~、なんて思うようになったんだ。



 聖女様とも闇魔法師、どちらとも友達なんて……みんなには夢物語の贅沢者だと思うかもしれない。でも、私にとってはそんなことはないんだ。

 だって私からしたら、あの子たちの肩書きなんて結局関係ない。2人とも、ただの同級生でしかないんだから。







 

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