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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 魔法学園1年生 ✧ 小4
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✤ 第20話(前編):光中のささやき








『――か――……よ』


 

 だれ?

 知らない人の声がする。

 


『……なの――さ――』


 

 なんて言ってるか分からない。

 ピカって何かが光ってるけど、コレが喋ってるの?

 よく見ると、周りも自分の服も真っ白だ。

 ねぇ、もっと近くで喋ってくれなーい!?


 

『――えっ、私の声が聞こえるの?』



 うわっ、ビックリした!

 急に近くで喋られると、結構びっくりするなぁ。

 と言うか、これって夢?

 そもそも君は誰なの、夢の住民?



『お話出来るなんて思わなかったわ。菜乃花(なのか)ちゃん、この数ヶ月で相当魔力が増えたのね!』



 私の名前まで知ってる。

 って、私の夢なら当たり前なのか。

 このピカピカが喋ってるんだもんね。

 薄い黄色って事は、私の魔力が喋ってるとか?



『貴女にはそう見えてるのね! それなら、今はそういう事にしておきましょうか。でもね、私貴女に伝えたい事があって話しかけていたのよ』



 伝えたい事?



『えぇ、少し気をつけた方が良いかもしれないわ……何だか、嫌な予感がするの』



 嫌な予感って……。

 もしかして、テストの点数が過去最悪とか!?



『うふふ、そういうのじゃないわよ。気をつけるのは、他人の魔法……って言えば良いのかしら。私の勘はよく当たるのよ』



 そんな、魔法って言われても。

 全然分かんないよ。

 もっとちゃんと教えて貰えないと!

 

 

『大変かもしれないけど、貴女の傍には素敵な仲間が居る。手を取り合えば……きっ……大丈、から……』



 え、ちょっと待って!

 どうして離れて行っちゃうの!?

 

 私まだ、君の話を全然聞けてない――




 




「ぅ痛ったァッ!」



 ゴッと鳴る鈍い音で、私の目は覚めた。

 私の頭が、地面と見事にハイタッチをしていたのだ。



「うへぇ~、痛そー……」

「すごく痛いですっ! 千鶴(ちづる)は寝ぼけて頭から落ちちゃダメだからね!」

「うわ、菜乃花(なのか)すんごい涙目! 絶対やらないようにする!」



 頭に響くじわじわとした痛みに、私の目には涙が浮かび上がる。それに、今日は全身に成長痛のような痛みまで起きていた。これは、ピアスを付けないと現れていた魔力の痛み……学園に来てから痛みが出るのは久しぶりだ。


 でも、痛いだけで涙が出てるんじゃ無いような。

 何だったっけ……すっごく大事な夢を見てた気がするのに、内容も全然思い出せない。



「頭の痛み収まんない? あんまり痛いなら、保健室でも寄る?」

「ううん、もうほぼ治ったし大丈夫。ありがとう!」



 まぁ……分からないものは仕方がないか。




 *




 私から見た花柳(はなやぎ)咲来(さくら)は、完璧という文字をそのまま人間にしたような存在だ。


 半袖を着ても良くなったと言うのに、こうして今も首元のボタンを1番上まで閉じ、リボンも綺麗に結んでる。品行方正みたいな言葉がピッタリで、勉強も怠らない努力家。成績は1位だし、超苦手なのは体育ぐらいで、他は大体得意寄り。

 礼儀正しい言葉使いで誰に対しても常に敬語。実家は魔法使いでのトップ家門のお嬢様!

 

 普通の家庭で魔法のない世界に生まれて、ボタンも開けててリボンも緩く、ピアスまで付けてる私が隣に立つと……うん。全然違う。私たちは、全部が真逆みたいな物だ。この人は本当に、ドラマとかでよく見る〝優等生なお嬢様〟ってやつなのだから。


 まぁそんなお嬢様も、私を目の前にすると――



「ちょっと、もしかしてこの授業寝てた? まだ小学生だからって基礎を疎かにしてると、中学高校に上がった時に痛い目見るんだから辞めなよ。後悔しても知らないからね」



 正論パンチをかます、鬼教官になるんですけど。



「待って待って、話を聞いてよ花柳先生! プールの後の国語の授業って、本当に眠くなるものなんだよ! 君の双子だって、それはもうスヤスヤと眠ってたんだから!」



 この国語のテストは、プールの次の授業だった。

 ハート()クラスの時間割を設定した人は、鬼畜だと思う。ただの体育でも眠くなるのに、プールの後に日本語を見るなんて……こんなの「寝てください」って言われているようなもんだ。



「それは私に言われても……でも、(ひかる)は寝ててもこんな点数にはならない」

「理不尽だ〜!!」

「じゃあ、寝てても良いから高い点数を取ってみなよ。勉強を教えてって言ったのはそっちなんだから、やるならちゃんと完璧にしないと」



 実は、また親にこの前のようなことを言われてしまった。前回は算数で、今回は国語。算数は彼女のおかげか、私とは思えない結構な高得点を取れた。なので今回も彼女に先生をお願いしたんだけど……。

 算数の時は教え方が優しいんだな~とか思ってたのに、この人今回はめっちゃスパルタだよ!



「うぅ~。君って、どうしてそんなに完璧が好きなの?」



 彼女はいつも完璧で居たがる。私は完璧を押し付けられて適当で居たくなってるから、花柳は嫌にならないのかなって、時々思ってしまうほど。彼女はまるで、何かに脅されてるみたいだから。

 突然投げかけた私の質問に、彼女は少し考える。



「……いや、別にスゴく好きってわけじゃないけど……魔法の才能以外では、自分の事で家族に迷惑をかけたくないだけ」

「あぁ~」



 その言葉を聞いた瞬間、妙に納得してしまった。

 

 魔法使いの適性魔力は、両親の影響を強く受けるものらしい。だから、千鶴のみたいに『両親とも魔法使いでない家庭』から魔法使いが生まれるのは、実は珍しい事だ。私は千鶴よりも数倍レア度が高いみたいだけど。


 でも、花柳の家は魔法世界で1番有名で色んな事をして来た家門。話聞いてると、多分聖君様とか聖女様と同じレベルで色々やってるお家だ。

 体育祭の時に感じた、大人に囲まれた時の感覚。彼女はあんな重圧の中で生きて来たんだ。私と出逢うずっと前から。



「なるほど、だから完璧にこだわってるんだ」

「こだわってると言うか……そうじゃないとダメだと思ってる」

「ふぅーん……まぁ花柳って、優等生でお嬢様なのに変な所でめっちゃ変だしアホになるもんね! そこまで完璧になるのは中々難しいよ!」

「喧嘩売ってるの、それは?」



 でも、それだけでこんなに熱心になれるもんかな。


 花柳は普通の勉強以上に、魔法の事を調べてる。相棒契約をする前からずっとだ。私みたいな「自分の事を知りたい」って理由も無さそうなのに。

 本当はその理由を知りたいし、君を手伝いたいって思う。だけど、今それを聞いたところで、この人は適当にはぐらかす。前よりは仲良くなったからって、きっとそれは変わらない。


 だから、今の私にはその理由を知る事は出来ないんだ。



「花柳先生~。もう疲れたから、魔法の練習しようよ~」

「えぇ……そっちの方が疲れるでしょ」

「魔法使うのは結構楽しいから大丈夫。日本語を読むのは、めっちゃ苦痛だったから!」

「それは、日本人としてどうなの?」



 あはは、と私は笑いながら言うと、彼女は「仕方ないな……」と呟きながら教科書を閉じ、魔法の本を開き始めた。


 私たちは色々な魔法を試しているけれど、今のところ自分たちに関する事での新しい情報はほとんど無い。分かっているのは、闇魔法を私は使えて、彼女も光魔法を使えちゃうって事だけ。

 光の魔法と言えば、代表は治癒魔法らしいけど……



「そういえば私、治癒魔法やったことがないや」

「あれ、そうだっけ。じゃあやってみる?」

「いいの?」

「代表的な光魔法だし、今のうちに慣れておいた方が、後々楽になるんじゃない?」



 そう言いながらペラペラと本をめくっていると、やがてその指が止まる。その本は、私が彼女と森で出会ったときに使っていたもの。そしてこの魔法は、私が開いたページで初めて見た魔法だ。

 森で会った時の思い出がふと蘇る。あの淡黄色キラキラとした煌めき……花柳が自然を祝福しているみたいな、とっても素敵な魔法。思い出すだけで、幸せな気持ちになって来る。

 


「治癒魔法っていうのは、人や植物なんかの生命が宿っているものに使えるんだけど……この魔法は、自分自身には使えないの」

「えっ、そうなの?!」



 嘘だ、だってこれポーションとかヒーラーみたいなやつじゃないの!?

 てっきりゲームのキャラクターのみたいに、自分を含めて回復することができるものだと思ってた。私の思い描いていた治癒魔法のイメージが、一瞬にして崩れ落ちていく音がする。



「なんで無理なの!?」

「魔法は他者を守る為に貰った力だから、自分を癒すことはできない……って言われてる。魔法の起源に出でくる話に合わせてる、一番有力な説」

「えぇ~そうなんだぁ……」



 確かに、魔法が誰かを守る力なら、自分を癒せないというのも納得できる。

 でも……守るのが大切でなのは理解できるけど、まず何よりも守るべきなのは自分自身じゃないのかな。自分を犠牲にしてしまうような魔法の在り方には、どこか疑問を感じてしまう。



「自分のことも癒せたらいいのになぁ」

「仕様だと思って納得するしかないでしょ」

「そーいうもんかぁ」

「そう言う物」



 自分のことを癒せない理由を考えようと頭を巡らせても、おバカな私じゃ何も分からない。

 だからこそ、まず魔法にしっかり慣れていく必要がある。焦らずじっくりと向き合うことが、魔法を理解する第一歩……って、前に花柳が言ってた。

 その言葉を思い出した私は本に視線を戻し、書かれている文字をひとつずつ丁寧に読み進めた。



「え~……『光の治癒魔法は、対象の状態を回復させる効果がある高難度の光魔法。しかし、重篤(じゅうとく)な状態を回復することは極めて難しい。能力は使用者によって変わる』……何となく他の魔法と同じ感じだね」

「魔法のルールは全部基本同じだから」



 前に花柳に聞いた話によると、魔法の能力は使う人の資質・経験・才能なんかで、すごく変わるらしい。

 四元素魔法(火・水・風・土)は殆どが努力でどうにかなる魔法だけど、全体的に難しくて適性が居ない二大(光・闇)魔法ほど、生まれ持った才能に左右されるんだって。

 


「ここには森の植物も無いし、とりあえず私にやってみてよ」

「わ、わかった! じゃあやってみる!!」



 今までの練習とはまったく違くて緊張する。だって私、闇の目眩し以外で人に魔法をかけるの初めてだもん。あれは自分に使う前提だけど、これは他人にかける前提だし……!

 私はスーハーとゆっくり深呼吸をして、ドキドキと鳴り響く心臓の音を落ち着かせた。



「〝光の治癒〟」



 その言葉を唱えた瞬間、私の周囲に光が広がる。

 でも、前に花柳が使った時に見た光とは、なんか違う違和感があった。私たちの視界を、ピカピカとした輝きが包み込んだんだ。

 花柳の治癒魔法は、ふわっと美しく煌めいてる感じだったけど……今私が放った治癒魔法は、大きくて眩しくて鋭く感じる。電気がパチパチするみたいな、そんな光だった。



「花柳……どう……?」



 私が不安になりながら聞くと、彼女は眉間に皺を寄せて、何とも言えない困惑の表情を浮かべる。

 そんな顔、私全然見た事ない。余計不安になって来た。



「何か、春風の治癒魔法……痛い……?」







 


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