✿ 第19話(中編):私が本を読む理由
授業が終わり、私は寮へ帰っていた。今日は火曜日だから、空き教室に行く用事はない。正直なところ、春風に対して「なんで話しかけたのか」と言う言葉を投げたい気持ちは有る。でも、わざわざその為だけに会おうとは思わなかった。
他のクラスは知らないけれど、うちのクラスは人数の関係上私たちが3人部屋。だから部屋も他より少し広いけど、その分3人のお風呂は時間がかかる。
でも、りんと鈴音は大浴場に行く事が多いから、大体部屋のお風呂は私が使っている。どうやら大浴場は「日常の疲れを癒す魔法がかかってる!」なんて言い出すほど素晴らしいようで、先生の中にはそれを目当てに黒寮監を志願する人も居るんだとか。
『じゃあ、行ってくるね〜!』
『すぐ戻って来るよっ!』
今日も2人は大浴場。私は1人部屋のお風呂で済ませてしまって、本読み時間と言ったところだろうか。
私は図書館から借りていた本たちを眺め、その中の一冊に目を留めた。表紙は古びていて、色あせた金の文字がかろうじて読み取れる。図書館で見た時「二大魔法の起源」の文字を見て、つい期待してしまったのだ。
静かな部屋の中で、ページをめくる音が響く。雨音と重なるその音は、少し心地いいBGMだ。湿気は嫌いだけど、この雨粒の音はそこまで嫌いじゃない。
「あった。えー……〝光魔法は人々の希望から……〟」
魔法学園の図書館には、魔法の全てが詰まっている。それなのに、基本は学園生以外が入れない……というのは、本当に不便だ。入学前から見たいと思うほど、学園に眠る本は魅力的なんだから。
私は総じて本と言っているけれど、図書館にあるのはただの本だけではない。凄く昔の、学園生かそこら辺の魔法使いなのか……その誰かの日記とか、歴史的な書物とか……普通に学級新聞のストックがあったり。
そういうものを読むのは、プライバシーを侵害している気持ちにもなるけれど、それほど古い歴史のものが残っているのは凄い。流石、1000年の歴史を誇る学園。
「〝光と闇の魔法使いが同時代・近しい世代に存在した記録はあるが、同学年と言う記録は無いとされている〟」
魔法の歴史を1番知れるのは、魔法省や研究所じゃなく学園の図書館。だからこそ学園の図書館にある膨大な書物と知識は、私たちの魔法の謎を解き明かす重要な鍵だ。膨大すぎるが故に、図書館を全て把握している魔法使いが存在しないというのは、少し厄介だけど。
私より先に知った人がいれば、魔法も直ぐに消せるかもしれないのに。
「……はぁ、他の本と言ってる事は大体同じだ」
色々と調べてはいると、やはり今代の光と闇の魔法使いは、歴史的に見ても異質なんだと実感する。魔法練習をしながら本を読んだり、様々なことを試みているけど、結局のところ真相は未だ何一つ分からないままだ。
分かっているのは、春風が光と火・私が闇と風の適性を持っていて、歴史上初めての同い年でありながら、互いに適性が無いはずの二大魔法を使えるって事だけだ。
まぁ、こうしたことを不用意に他人に話すとろくな事にならない。魔法研究員である母は目を輝かせて食いつきそうな気もするけれど……身内はともかく、知らない人から迫られてもただ不快なだけだ。
未成年は保護されていて研究対象にはならないとは言え、学園内ではこれ以上肩身を狭くしたくない。だから、二大魔法の件は2人だけの秘密にしている。相棒契約を知っている人にも教えていない。
「そもそも光魔法が使えるなら、何でクラス分けの時に宝石に色が浮かばないわけ……もうほんとおかしすぎ、頭痛くなる」
頭を抱えながら、机に置いてあったチョコをパクッと頬張る。ふわりとろける優しい甘みが鼻に抜けると、熱の溜まる頭も少し落ち着いた。
彼女との相棒契約は「自分の存在証明」も含まれている。ようは、自分の謎めいた部分に対して答えが欲しいわけだ。私の闇魔法を消す方法も、それを探すことで発見できるかもしれない。だから、私は本を沢山読む。古い書物や日記、魔法の理論に関する資料など、手に入るものは何でも目を通すんだ。
また新しい本を掴むと、その1ページ目には新しい文章が書かれていた。
「〝魔法使いは、魔力の枯渇が起こると体力が落ちる。しかし魔力の器を壊す事は不可能。それを失った場合は――〟」
光と闇の魔法はただでさえ不透明な部分が多くて、どこにも同じような事しか書いてない。それでも探すしか方法は無いけれど……それもたまには嫌になる。
「私は早く消したいのに、この魔法……」
私がそう呟いた瞬間、突然スマホがブーブーと鳴り出した。何かと思い画面を覗き込むと、そこには「なのか」という名前が表示されている。珍しいなと思いつつ通話ボタンをタップすると、瞬時に彼女の声が響いてきた。
『あー出た! 花柳、今何してた?』
「お風呂から出て、本読んでたけど」
私がそう答えると、彼女は嬉しそうに続けた。
『私もお風呂入ってた! 今は千鶴が入ってるんだけど……あっ、通話かけても大丈夫だった?』
「大丈夫、2人は今大浴場だから。私も1人」
『そっか~、じゃあ一緒だね!』
そう告げると、彼女はほっと一息ついた。その声には安心感が滲んでいる。
私の耳から入る声は、いつもの春風の声色とは違う響きに聞こえる。通話越しなだけなのに、こうも感覚が変わるなんて……やっぱり通話って不思議な気分だ。でも、どうして急に通話をかけて来たんだろう。その理由を考えているうちに、1つの理由が思い浮かんだ。




