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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 魔法学園1年生 ✧ 小4
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✿ 第16話(中編):陽の光







 





「それでは、準備体操を終えたところで……いよいよ〝1001期魔法学園体育祭・小学生の部〟開始で~す!」



 周囲の盛り上がりに、私は控えめにぱちぱちと拍手を送る。いえーいという歓声が校庭に響く中、私は照りつける日差しで肌がヒリヒリとして来ていた。今すぐにココへ、日傘を設置したい。どれだけ魔法で涼しくっても、紫外線は除去出来ないし。



「まずは各学年の150メートル走でーす! 最初に走るのは魔法学園の1年生っ! この前入学したばかりのピチピチな小学4年せ〜い♪」



 と言うか……さっきから何だろう、このおちゃらけたナレーション。一体誰がこんな……あぁ、蒼空(そら)と同じ学年の先輩だった。それなら流石に何も文句は言えない。


 私は走る競技にもちろん参加しないため、最初のうちはただの見物人だ。競技中にクラスメイトたちの声に合わせて「フレフレ風組(かぜぐみ)~」と応援するしかやる事がない。

 うちのクラスにも足の速い子が集まっているけれど、2クラスも離れているのに、「火組(ひのくみ)~!」「聖女様~!!」という黄色い歓声は耳へ飛び込んでくる。どうやらあの子も、150メートル走に参加するらしい。


 

『花柳は体育祭で敵だけど、走らないんならその時くらいは私のことを応援してくれても良いんだよ? 私の相棒頑張れ~って!』

『私は私のクラスを応援します。応援なら私の双子に頼んでよ』

『君、結構何でも(ひかる)に押し付けようとするよね……』


 

 そんな会話をこの前したっけ。


 準備場所から皆に手を振る彼女は、相変わらず仮面を貼り付けたような表情を浮かべている。他人に対してそうなる事は、今も変わっていないようだ。それは染み付いた彼女の癖で、すぐに治すのは難しいんだと思う。


 それでも彼女は、出逢った頃と違ってすぐに流されたりすることは減った気がする。親しい関係の人には、少しずつ自然な表情を見せるようになってるみたいだし……それは彼女にとって、とても良い傾向だろう。



「スタートしました!」


 

 四葉さんと彼女が喧嘩した時……なんで助けてくれるのかと尋ねられて、私は「相棒だから」というありきたりな返事しかできなかった。その言葉がどれほど空虚なものだったか、今になって思い返すと痛感する。

 

 私だって、どうしてそんな……校則違反をしてまで彼女を助けるような〝自分らしくないこと〟をしているのか、よく分からなかった。

 ただ、何となく今考えると……あの時の私は、春風(はるかぜ)さんに過去の私と同じ気持ちにさせたく無かったんだと思う。あんな悲しい思い、彼女には味わって欲しくなかったのだ。本当は無邪気な笑顔を浮かべられる人が、辛い思いを抱えることなく笑顔で居て欲しい……と、心のどこかで願っていたんだ。



水組(みずぐみ)駆け抜ける、速い速い! しかし、火組(ひのくみ)がココで追い上げる~!」

「キャー!」

「いっけー!」



 春風菜乃花《聖女様》は、本当に眩しい。眩しくて……直接目を向けることが出来ない。彼女の姿を見れば見るほど、自分が真っ暗で、全てが空っぽであることを痛感させられる。


 彼女は未来を見据えている。


 過去を受け止めて、恐れずに他者へ踏み出していける。自分がどんな存在であるかを探求し、疑問が生まれればそれをすぐに聞ける。その姿は、キラキラと煌めく太陽のよう。どんな所までも光を届けてしまう、圧倒的な善性だ。

 彼女が自分は善人じゃないと言い張るのを耳にすると、私は心の中で反論したくなる。私からすれば、貴女は誰よりも善人だと。たとえ誰かが……本人さえもが、自分を悪だと称していても、私から見れば彼女は確かに善だから。



「火組はっや~い! ここでトップに躍り出た~!」



 彼女には、心の傷を抱えて欲しくない。彼女の未来は、希望に満ちたものであって欲しいと……そんなお節介を抱えてる。その光を失うことなく、いつまでも煌めいてくれることが、みんなの……私の、望み。私がそんなことを願う事ですら、おこがましい事だと言うのに。

 だって私は闇魔法師で、あの子は聖女様なんだから。



「聖女様、頑張れ~!!」



 私は彼女の幸せを願う一方で、同時に自分が彼女に与える影響を考えると身震いがする。彼女が未来を思い描くたびに、胸の奥が締め付けられる。あの無垢な笑顔が、私の手によって消えてしまうかもしれないという恐怖が、心に埋め尽くされるから。



「ゴール!! 火組が一位でゴールしました!! 続いて土組(つちぐみ)、風組、水組(みずぐみ)と全員がゴール!!」



 そんなことを考えているうちに、彼女は1位でゴールを果たしていた。

 周囲のクラスメイトたちが、悔しがりつつも風組ランナーを称えている。そんな声が上がる中、私はその光景に目を奪われていた。彼女の姿は、まるで一筋の光が差し込むように、他の誰よりも煌めいて見える。


 私はあの煌めきを絶対に潰さない。そんな疑念は、闇の魔力と一緒に全て消し去ってやるんだから。この場にいる全員の不安なんて、私が有り得ないと証明してみせる。







「なー、俺らの親全然居なくないか?」

「そもそも何処だろうねココ、人ひとり居ないし~」

「親たちがいるのって、大きな木の所じゃないっけ」

「え、私たち迷子ってことっ!?」

「いや落ち着いて、学園生が学園で迷子とかどんなギャグなのさ」



 私たちはお昼休みに、幼馴染とその家族でお昼ご飯を食べる約束をしていた……ハズだったんだけど、気付けば学園内で迷子になっていた。

 もちろん私は場所を知っている。でもみんなが無理やり腕を引っ張るから、先導することが出来なかったのだ。学園内の構造を把握しきれていない幼馴染の先導により、私は迷子にされた訳で。

 


「場所分かるからついて来て。はぐれないでよ?」

「流石だな咲来(さくら)、本当ありがとー!」

「わぁ~いっ咲来隊長~!」

「はいはい」



 陽太(ようた)とりんがワイワイ騒ぐのを、(ひかる)鈴音(すずね)はニコニコ眺める。そんなこんなで、私たちは木々の間を進んでいた。

 

 しかし、その途中で次第に聞き覚えのある声が響き渡る。徐々にその声が鮮明になるにつれ、私の顔は青ざめていく。そう、その声の主はあの聖女様・春風菜乃花と彼女の友達・四葉(よつば)千鶴(ちづる)だったのだ。


 最悪だ。


 いつも避けている昼間にばったり出くわすなんて。しかも人通りが無い過疎地で、周囲には私と彼女の秘密を知る者しかいない。この狭い空間で目が合ってしまったら、幼馴染がどんな会話を交わすか……そんなの想像しなくても分かる。



「あっ、春ちゃんだー!」

「ホントだ! おーい春風さ~ん、四葉さ〜ん!」

「幼馴染んズだ!」

「いつもうちのパン買ってくれてありがとう〜」



 予想通りだった。まあ周りに人の気配も感じられないし、それなら声をかけるのも無理はない。私の幼馴染たちはそういう人たちだし、しかも半分はクラスメイトだから仕方がない。私が無駄に関わらなければ良いだけだ。



「花柳も……あ、えっと~ぉお~ォこんにちはでゴザイマス」

「……なんですかその変な喋り方。良いですよ別に、普通に話して」

「あれ、そうなの?」



 私が彼女にそう言うと、露骨にホっとしてから何故かドヤ顔になる。どう考えても変な事を言い出す表情だ。



「じゃあ花柳(はなやぎ)、君は私の150メートル走は見てたの!」

「あ〜見てましたよ、良くもうちの組を負かしてくれましたね。とりあえず、今ここで(カタキ)を取って良いですか?」

「競技中に勝てないからって今勝とうとすんの辞めて!?」


 

 って、私が普通に会話してどうする!

 

 彼女と会話している様子を、四葉(よつば)さんは見た事が無いはずだ。彼女は盲信者(もうしんしゃ)家庭で過ごしていたんだから、目の前で闇魔法師と聖女様が会話をしているのは、あまり宜しくない状況なはず。

 もし私がこのまま彼女たちと話し続けたら、彼女の心にどれだけの混乱を引き起こす事か分からない。


 ……と、そんなことを考えている時。私はずっと引っかかっていたその違和感の正体に気がついた。



菜乃花(なのか)、千鶴は居ないのか?」

「さっきまで千鶴(ちづる)の声も聞こえてたよね。俺たち会話してたし」

「だよな?」



 そう、一向に四葉さんの姿が見えないのだ。電話にしては声が鮮明で大きかったし、そんなにすぐに離れることもないハズなのに。

 (ひかる)陽太(ようた)がキョロキョロと辺りを見渡していると、春風さんがおずおずと口を開いた。



「そ、それがぁ……」



 そう言うと、彼女は上に向かって静かに指をさした。みんなで「上?」と言いながらその方向を見ると、全員顔を真っ青にした。だってその木の上には、黒猫を抱えて硬直する四葉さんが居たのだから。









 

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