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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 魔法学園1年生 ✧ 小4
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✤ 第15話(後編):心から、そう思えてる




 






へははんひへは(てなかんじでさ)ほんほひ(ほんとに)……っめーちゃ大変なんだよ!」



 私は大好きなヤンニョムチキンを口いっぱいに頬張りながら、家族に魔法学園での日常の事を話していた。



「聞くとは言ったけど、ちゃんと食べ終わってから喋り~」



 お姉ちゃんにそう言われて、私はごくんと食べ物を飲み込む。

 こんな人がいてどんな環境で、あんな授業を受けて……と言う通話やメッセージで話した事から、今初めて話す事まで。色々な事を隅々教えているお陰で、私の口は良く回りまくっていた。



「そんでね、ルームメイトの四葉(よつば)千鶴(ちづる)って子と最近友達になって~」

「えっ、菜乃花が自分から人を友達認定してる!?」

「本当ね。いつも頑なに誰かを〝友達〟だって言いたがらないのに」

「えへへ……お姉ちゃんとママよりも、私が1番びっくりしてるよ! しかも、その子のお祖父ちゃんお祖母ちゃんがやってるパン屋が最高に美味しくてさ〜」



 そこでお米を口に運ぶと、今までド忘れしていたことをふと思い出す。相棒契約やら盲信者やら色々とあったせいで忘れてたみたい。私が魔法使いだと判明した日に我が家にやって来た、魔法省職員の話だ。



「ねぇねぇ。初めて家に来た魔法省の人の名前、覚えてる?」



 私が家族の顔を見ながら聞いてみると、パパがすぐに頷きながら反応をした。



「あー……確か、花柳(はなやぎ)さんだよね?」

「そうそう! その人の子どもの双子が学年に居て、男の子は同じクラスなの! しかも(ひかる)は前の席で……2個前の席にいる蓮村(はすむら)陽太(ようた)って子もすごく明るくて良い人だし」

「アハハっ、そうかそうか。菜乃花が良い子たちに囲まれてるみたいで良かった」



 そう言うとパパは、パクッとヤンニョムチキンを頬張った。私も真似するように箸に取ると、今度はチーズを絡ませながら食べてみた。ニンニクの香ばしさに甘辛なソースが、チーズに混ざるとふわとろになって美味しさ2倍。


 白米がパクパクと進む中、相変わらずの美味しさにほっぺたを落としそうになりつつ言葉を続けた。



「でもね、双子の女の子は違うクラスで寮も違うんだ。なんか魔法使いって色々あってさ~、その子と私が天敵同士って言われてるんだ。」

「天敵!? なんかカッコイイ、姉ちゃんの話RPGの世界みたい!」



 目を輝かせてそう言う湊斗に、私は少しから笑いをした。多分、弟が思ってるほど純粋でキラキラした感じじゃないから。



「なんか魔法使いの歴史で昔色々あったらしくて、その関係が大変なんだ。私は聖女様って呼ばれてるし、その子は先代の事件があったから私を攻撃するかもとか言われてて……実際はありえないけどね」

「うわぁ、なにそれ大変そ」

「お姉ちゃんもそう思うよねぇ!?」

「うん。私なら絶対ダルい」



 流石お姉様、私の気持ちをよく分かっている。同じ感覚で同じ意見を言ってくれるのが、今の私にどれほど支えになる事か!


 しかし、その話がちょっとショッキングだったのか、両親は一瞬顔をひくつかせていた。流石に〝闇魔法師は聖女様を殺すって言われてるんだ〜〟とは言わなかったけど、言葉を変えた所でビックリする事に変わりない。


 私は少し誤魔化すように、違う話題に話をずらす事にした。



「私が光魔法使えるせいで、私を『神~!』みたいな扱いする人もいるけど、体育祭で周りの反応が謎めいてても気にしないでください」

「姉ちゃんがそんなんになるの、徒競走で1位取った時だけじゃないの?」

「湊斗!? お姉様に向かってなんて失礼な事をっ」



 笑い声が重なるリビングに暖かい食事。今頃、みんなは何をしてるのかな。


 千鶴のこと、今日も一日部屋で1人にしちゃって申し訳ないなぁ。そうだ、後でこっちからテレビ通話しよって言ったら喜んでくれるかな? 私の部屋の内装とか気になってたし、折角なら見せてあげたい。


 体育祭と言えば、陽太も運動大好きだから練習張り切ってたんだよね。その姿を見て輝は楽しそうにケラケラ笑ってて。

 他のクラスメイトも何だかんだと熱血ばっかで、流石火魔法師(ひのまほうし)クラスはイメージ通りにアツすぎる。でも、体育祭にはそれが1番だよね。


 そういえば、クラブ()クラスも放課後に練習するとか言っていた気が……花柳大丈夫かなぁ。明日は敵だけど、やっぱり心配になっちゃう。



「 菜乃花でも食べられるケーキをパパが作ってくれたの。みんなのお腹が平気なら今出すけど」

「えっパパのケーキ! 食べたーい!」

「おれも!」

「私も食べる〜」

「じゃあみんなで食べようか。初めて作ったんだけど、結構自信作なんだ」



 ママの一言に、私たちは勢い良く飛びついた。私は甘い物が大の苦手だけど、フルーツ要素の多いさっぱりスイーツは割と食べられる。それを知ったパパは、よくケーキを手作りしてくれたのだ。


 冷蔵庫から出てきたのは美味しそうなフルーツケーキ。クッキーを砕いたタルト生地の上に乗っているのは、ゼラチンで固められたプルプルのヨーグルト。少しのチーズが混ざってるみたいで、その上には色とりどりのフルーツがふんだんに乗せられていた。



「わーい、いただきまーす……んん〜っおいひぃ〜♪」


 

 うわ待って、このケーキ本当に美味しい。パパが自信作って言うだけあるよ。ほんのり甘いけどチーズとヨーグルトはさっぱりだし、何よりフルーツの酸味が沢山味わえて私でも食べやすい。

 そう言えば花柳って甘党なんだよね。あぁ、そのケーキも花柳に食べさせてあげ――



「なんか、良い方に雰囲気が変わったね」

「え……?」



 ママに突然そう言われて、私は上の空だった思考をひゅっと取り戻した。



「分かる〜。あんなに笑って学校の話してる菜乃花、すごい久しぶりに見たもん」



 楽しそう。その言葉を咀嚼するのには、少しだけ時間がかかった。だって今までの生活でちゃんと「楽しい」と思った事が無かったから。でも、心の中ではそうじゃなかったらしい。


 私は案外、魔法学園の生活を〝楽しい〟って思えてたみたい。聖女の事とか、盲信者の事とか、なんとなくあった疎外感とか。色々嫌でつまらなくて、何回も嫌な気持ちになっていたはずなのに。



「……」



 

 向こう(魔法世界)に行く前は、本当に全部嫌だった。


 友達を傷付けたり、みんなと同じになれなかったり。魔法のせいで色々と散々な目にあった。しかも、魔法使いの中ですら異質になってしまって。


 実際、盲信者(もうしんしゃ)やその他の人たちから〝理想の聖女様〟を押し付けられる事は多かったし、何回「魔法なんて使えなきゃ良かった」って思ったか分からない。


 私はずっと、つまらない灰色の世界に閉じこもっていた。


 でも、あの日花柳と出会った瞬間から全部が変わった。世界中がお花畑にみたいに色付いて、モノクロに見えていたのが嘘みたいに世界が色鮮やかになった。



「――あのね」



 とっても綺麗な虹色を、花柳が見せてくれたんだ。

 まるで、魔法をかけるみたいに。



「魔法学園で過ごすの、結構楽しいよ! そりゃ学校だから嫌な事も色々あるけど……でも、すごく楽しい……って最近思えるようになって来たみたい、です」



 本当に、楽しかったんだ。


 花柳と魔法を使う事も、自分の知らない自分を知って行ける事も、誰かと友達になってお話出来たのも。全部ちゃんと面白くて、幸せだった。

 

 それに、入学前から憧れていた友達も、めったになれない相棒も出来た。魔法が無かったら、みんなには出会えなかった。



「そっか……本当に、良かった。この家以外でちゃんと楽しいと思える居場所が見つかって、俺もすーっごく嬉しいよ!」

「っ……うん!」

 


 5人でケーキを囲みながら、パパはとても優しい笑顔を顔に浮かべた。入学式の日、私を玄関で見送ってくれた時と同じように。









 

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