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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 虹光を探す春咲き花
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✤ 第15話(中編):ただいま








 土日は実家に帰る人も居て、そういう人は事前に申請をして帰っているらしい。私は向こう(人間世界)に実家がある特殊タイプだからまだ制度が整ってないんだけど、みんなはこっちに実家があるから私ほど大変じゃないらしい。

 

 月曜日になって学校へ行く為に寮の玄関に出てみると、ばったり出会ったのは相棒の双子・(ひかる)だ。土日は寮で見かけなかった気がしたんだけど、実家に帰ってると言う予想は見事的中してたみたい。



「おはよー菜乃花、あの子と色々話せたみたいだね。無事に2人が仲良くなれて良かったよ。契約までするとは思わなかったけど」

「アレっいつの間にか知ってる。て事は、ココに居ないけど陽太(ようた)も?」

「うん、一緒に聞いたよ。地元が一緒だから、学園まで3人で戻って来ててさ」

「へぇ〜、陽太たちって実家も同じ場所なんだ」



 どうやら陽太は先に食堂へ向かっているらしく、輝は1人で食堂まで行くらしい。実は私も寝坊しかけて先に千鶴に行って良いと伝えたので、今日は1人で食堂に行く。折角なので、たまには2人で食堂まで向かう事にした。


 

「ほんとビックリしたよ。2人とも仲良くなれるかな~……と思ってたら、更にその上を行くんだもん。陽太なんかこーんな感じで顎が外れそうになってた」

「あはは、千鶴と同じ反応してる」



 輝はそう言って、陽太の真似をして見せる。確かにこれは、顎が外れそうな表情だ。



「輝も、色々協力してくれてありがとう!」

「良いんだよ、俺がやりたくて勝手にしてた事だから」



 ふふっと笑うその表情はちょっとワルっぽい。そのせいか、何となく『全部花柳輝の計算通り』みたいな雰囲気まで溢れ出ている。すると輝は、そのまま別の話題へと移していく。それは丁度、金曜日に彼の相棒と話した話題だ。



「そう言えば、体育祭の前って菜乃花は家に帰るの?」

「あー、うん。一応その予定だよ。本当は先生とか大人が行くので良いらしいんだけど、東郷(とうごう)先生が私を帰れるようにしてくれたみたい」

「そっか……じゃあ、菜乃花的には久々に帰れるんだ」

「うん、めっちゃ嬉しい!」


 そう言えば、輝は体育が苦手じゃ無さそうなんだよね。他の教科もだけど、彼は何でも淡々とこなすタイプだ。

 同じクラスの先輩だからお兄さん(蒼空さん)の名前もたまに聞くけど……実際に見たことがあるのは、走ってる先輩を見た男女がワーキャー盛り上がってるのを見かけただけ。

 

 兄妹(きょうだい)で体力が違うのはあるあるだけど、3人でグラデーションみたいになってるのは面白い。こう、花柳だけが極端に苦手そう言うか。



「ねぇねぇ。あの子って昔から運動苦手なの? 敵の心配をするのもなんだけど、何か心配になっちゃうんだよね」

「あー……いやね、昔はあそこまでじゃなかったんだけど、6歳くらいからどんどん苦手になってった感じ」



 つまり、その年齢まで彼女の体力や運動力は普通だったという事だ。かと言って、その間に何かあったとは考えにくい。あるなら本人が自覚してそうだ。

 じゃあ一体、何が原因で……6歳……6歳って言うと、確か普通は魔力が出始める年齢なんだっけ。私は遅かったけど……うーんダメだ、全然分からん!



「俺らも優勝目指して頑張らないとね!」

「だねっ、数少ない私の特技を頑張って披露するよ!」



 それからは食堂についてから別れ、それぞれの友人の元へ歩いて朝ご飯を食べる。授業を受けて、体育祭の練習をして、ご飯を食べてお風呂に入って寝る……このサイクルの中でたまに相棒との密会を挟みつつ、私は毎日を過ごして行った。

 中でも楽しかったのは、やっぱり相棒との密会と体育祭の練習!



「っは、何分ですかセンセー!」

「記録は更新してないけど、学年の中じゃ十分トップだな」

「ええ嘘〜! よし、じゃあもっかいやります!」

「菜乃花、そっちも良いけどもう直ぐ全員リレーの練習もあるぞ」

「……大丈夫だよ陽太。あと1回で多分辞めるから」

「多分、ならもうやめておけっ!」



 陽太と東郷先生と、そんな会話を何回もした気がする。でも、私にとって運動は数少ない好きな物だ。テンションが上がるのは仕方がない。

 そして、同じサイクルの日常と言うのはあっという間に過ぎて行く。黒板に書かれたハズの月と言う文字は金に変わり、日直も私の番まで回って来ていたのだ。




 *





「え~『今から帰るよ』っと……」



 世間はまだ昼間なのに、私は魔法駅に立っている。わざわざここに来たのは、今から実家に帰るためだ。家族とはメッセージのやり取りはしていたものの、こうして家に帰るのは久しぶり。と言っても1ヶ月ちょいだけど、私的にはもう半年は離れてた気分だ。

 しかし、何で体育祭の前日にわざわざ実家に帰るのかと言うと……それには、深い理由がある。



『春風はご家族が普通の人間だし、実家も向こう(人間世界)だからね。これを持って、前日は家に帰るといいよ』

『えっ、いいんですか?』

『うん。ご家族と沢山話して、体育祭の日はココで一緒に楽しんでもらおう。午後練習が終わったら行って構わないから』

『……あ、ありがとうございます!』



 そう言って手渡されたのが、この〝通行許可証〟だ。去年私が文化祭に来た時と同じやつで、電車の切符みたいな物らしい。これを持って魔法使いといれば、普通の人間からは廃墟に見える魔法駅が、美しい本物の姿に見える。そんで、一緒に魔法世界に来ることが出来るって仕組み。


 千鶴のお兄ちゃんみたいに、魔法世界で生まれて人間世界の学校に通い続ける〝魔法世界出身の普通の人間〟には、それ専用の許可証が貰えるらしいんだけど……私が今日渡されたのは1回だけの通行証。正に電車の切符みたいに、1回行き来したら勝手に消える。

 

 私が特例だからと言って、魔法世界出身の人と同じ物を簡単に渡す訳には行かないらしい。大人のルールは良く分からないけど、東郷先生が色々してくれたのはちゃんと分かってた。

 しかも、千鶴のお兄ちゃんと同じ物をいつか渡せるように色々調整もしてるらしい。私が実家に帰れる仕組みまで。


 その気遣いが嬉しくて、その気持ちを体育祭で返したくて。とりあえずさっきの練習時間はブンブンと校庭のトラックを走り回った。きっと他クラスを恐怖のどん底に陥れちゃったな〜あれは!



「……ふふ。やっぱり嬉しいな、やっとみんなに会える」



 ずっと一緒に生きてきた家族。私が魔法使いでだからって、差別なんてしないでくれた人たち。私にとって、あの家だけが安心して普通で居られる場所だった。

 思い出が詰まった実家の扉を開ける瞬間、どんな笑顔が待っているのか……想像するだけで心が弾む。


 

「こんにちは! スマートフォンか許可証はありますか?」



 駅員さんの声に、私は「はい!」と元気よく答えた。このやり取りも入学式の日以来だ。しばらくすると「東京へ向かうのですね、どうぞ行ってらっしゃいませ~!」と言う明るい声が私を送り出してくれる。

 その言葉に明るい気持ちを抱きながら、私は久しぶりに駅の改札を抜け、その大門をくぐった。



 大門を抜けて家までの道を歩くと、そこには葉っぱが生い茂る木々ばかり。この前まで桜の花びらが散っていたのに、今は全く残っていない。見慣れた地元のその景色は、時間の経過を感じさせるのに十分な物で。

 夏の雰囲気を感じさせる木漏れ日は、心をキラキラと輝かせてくれるみたいだった。




 *




「ただいまーっ!」

「おかえり姉ちゃーん!」

「やほ、おかえり~」



 玄関を開けると、夕飯の美味しそうな香りと共に、姉と弟が飛び出してきた。



「おぉ~我が姉様(ねえさま)弟様(おとうとさま)~っ! 2人の愛する真ん中っ子が我が家にやっと帰ってきたぞ~っ!!」



 私は声を張り上げた。少し前にはここに居たはずなのに、マンションのエレベーターも魔法駅からの道も……視界に入る全部が懐かしくて、私を不思議な気持ちにさせる。

 おかげで、言ってる言葉のテンションもおかしい。



「あれ。お姉ちゃん、ちょっと痩せた?」

「ふふ、分かる? 春風涼花(すずか)はこの度何と……」

「うーん、そんな事よりお腹すいたなぁ。美味しい匂いにお腹潰されちゃうよコレ」

「わーい、食べよう菜乃花(なのか)姉ちゃん!」

「ちょっと~、聞いといてスルーしないでくれる~?」

「ギャー! 頭グリグリ暴力反対!」



 この2人は相変わらずのマイペース。そして、そんなペースを壊したり乗ったりするのが楽しいんだ。このやり取りの全部が懐かしくて、まだ1ヶ月しか経ってないのがう嘘よう。



「てか、菜乃花ってば制服カッコいいじゃ~ん。こんな綺麗で可愛い色してるとか、めっちゃ羨ましいんだけど」

「えっほんと? じゃあちょっと着てみる?」

「ほんとだ、サラサラしてる~!」

「でしょ~! てかてか、小学1年生になった湊斗(みなと)のランドセル姿も、ちゃんと菜乃花姉ちゃんに見せてよねー!」



 家族との時間は、いつでも私にはかけがえのないもの。この笑い声が響く家の中にいると、帰って来たって感じがする。

 すると、視界の端からは大きな影。耳元に光るガーネットのお揃いのピアスを見るのは、別れ際に抱きしめられた時以来だ。



「菜乃花、おかえりなさい。向こうのお話聞かせてね」

「もうすぐめちゃめちゃ美味しいご飯が出来るからな。好物も作ってるよ!」

「ママパパ、ありがとう……私、帰ってきたよ。ただいま!」



 私の言葉に、両親は優しく「おかえり」と言葉を返してくれた。






 

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