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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 巡りゆく月日の欠片
32/185

✤ 第11話(後編):聖女様と盲信者





 




「えっと、何の話ですか?」

「あれ違った!?」

「何を勘違いしたのか分かりませんけど、強いて言うなら因縁があるのは私と貴女だと思います」

「確かにそれはそう! でも、じゃあ何で……」


 

 四葉(よつば)さんと花柳(はなやぎ)さんには、とんでもない因縁があるのかと思っていたけど、意外とそんな事は無いらしい。はてなマークをびっしり浮かべている彼女は、少し考えてから目を伏せた。

 


「四葉さんと私に、直接問題がある訳ではないですけど」



 私が花柳さんの方を見ると、その視線は微かに逸らされる。彼女は左腕をギュッと握りしめながら、恐る恐る声を上げた。



「彼女の御家族は……盲信者なんですよ」



 前に花柳さんが教えてくれた。盲信者と言うのは、聖君様と聖女様が大好きって人たちが自分でつけたあだ名だって。私の周りに居る人がそう呼ばれてるのも知っている。

 でも、その言葉を聞いた瞬間に仄暗い感情が広がった。だって、四葉さんも(春風菜乃花)の事はどうでも良くて、聖女様って存在にしか興味無いって事になるから。

 

 でもあの子は、初めて会った時から私を名字で呼んでくれてた。クラスでも誰より楽にお話出来るし、寮でも普通に過ごしてた。だから絶対、そんな訳無いよね……?



「四葉夫妻は学生の頃、ご両親が呪使いに襲われた事があるんです。その時、当時の〝先代聖女様〟が呪いによる生命力枯渇症を治し、ご両親は救われました。それから四葉夫妻は盲信者になった……と、以前両親から聞いています」



 そう言えば、私は四葉さんの家族や昔の話を、ほとんど聞いたことがない。あの子の事を深く知ろうとして無かった。いつも踏み込む勇気がなくて、それ以上を聞こうともしなかったから。



「四葉さんは君の事も敵視してる、って事?」

「そこまでは分かりませんけど、呪使いに対しての憎しみは強いかもしれません。闇魔法を悪用して今の呪いがあるんですから、闇魔法師へ恐怖を感じるのは当然の感情です」



 私は、盲信者という存在がそんなに好きじゃない。むしろ、どちらかと言うと嫌いだ。みんなは聖女様という存在しか求めていないし、春風菜乃花は要らないと言わんばかりの態度で接してくる。それに、花柳さんの事を〝闇魔法師〟だからという理由だけで嫌な人だと言う。私を神様のように扱って、彼女をモンスターだって……そんな感じの態度だから。



「でも、そういう方は彼女だけではありません。同級生である貴女《聖女様》にとって、(闇魔法師)は最も脅威の存在。呪いに辛いご経験がある方ほど、私を恐ろしいと思うものです」

「……私も呪いは怖いと思うよ。だけど、それで君を怖いって言うのはおかしいと思う。だって君は、天敵(聖女様)に魔法を教えてくれちゃうようなお人好しだもん」



 肩書きだけでしか私たちの事を見ないで、私たちの事を理解したつもりになっている。それが、私はとても嫌なんだ。


 

天敵(闇魔法師)に魔法を教えてと言う貴女が、物好き過ぎるだけですよ」



 もしも四葉さんが盲信者だったとしたら……私は、どうしたら良いんだろう。聖女様だから仲良くしてくれたんだとしたら、もう春風さんって呼んでくれなくなっちゃうのかな。クラスの子と話してた時みたいに。

 

 美味しいご飯のメニューのなんてすっかり頭から抜け落ちて、その中は四葉さんの事ばかり埋まっている。頭を駆け巡る不安と疑問は、静かに私を苦しめた。




 *




「春風さんお帰り~! さっそく夜ご飯行く?」

「う、うん!」



 寮の部屋に戻ると、四葉(よつば)さんがベッドでぐうたらとくつろいでいた。ニコニコとしたその表情を見ていると、私のわだかまりも無くなりそうになる。心の奥では、彼女が身勝手に振る舞う盲信者とは思いたくない自分が居て。

 


『ねぇ。貴方たち、なんで闇魔法師と一緒に居るの? 一緒に居たら、先代聖女様みたいに殺されちゃうかもしれないのに……』

『うちの親が言ってたの、闇魔法師は怖いんだって。だからそんな近くにいたら、貴方たちも危ないでしょ?』

『先代聖女様だって、闇魔法師が身近に居たんだろ。今だって……』


 

 私の名前なんて呼んでくれない。

 慈悲深い聖女様だけを求めている人たち。



『だって怖いよ! 闇魔法って危ないし、何で同じ学校に居られるのかも分かんない!』

『僕の家は昔、呪使いに襲われた事があるんだ。お父さんがそう言ってたんだ! 』



 でも、みんなは本当に身勝手なのかな。みんなが私を心配して言っていたのは事実な訳で、その心配を嫌がってるのは私だ。じゃあ一番身勝手なのは……私なの?


 

「おーい、春風さーん?」



 もし「違うよ」って笑ってくれたなら、それだけで終わるんだ。けど本当だったら、私はその時どうするつもりなの?

 そんなの分からないけど、これは放置したらダメな事だ。じゃないと、私がいつか爆発してしまう。爆発したらどうなるかなんて小1の時に経験したもん、あんなの絶対に繰り返したらいけない。

 彼女が目の前に立った時、その言葉は口から溢れ出た。



「君って、盲信者なの?」

「…………え?」



 違うよって言って欲しい。私は盲信者じゃないよって、笑いながら流して欲しい。そんな、私にとって都合のいい事ばかりが頭を流れてく。現実はそんなに甘くないって知ってるハズなのに。



「なんで今、そんなこと聞くの……」



 四葉さんは目を見開くと、そのままぐっと顔を伏せた。私の目を見てくれない事が、何でこんなに悲しいんだろう。お互いの声が止まって静かになるのが怖い。私の喉から溢れた気持ちが、途端に詰まっていく。詰まって、喉から音が出ない。



「ごめん。ただ、私今まで全然知らなくて……たまたまそんな話を聞いちゃったから、他人からより、本人から聞きたいなって」



 たどたどしく言葉が漏れて、上手く言葉が紡げない。私は何とか言葉を選んで、彼女の耳へとそれを運んだ。



「や、やだなぁ。そんなわけないじゃん! 私は……」



 その言葉の途中で、彼女の笑顔がほんの一瞬だけ歪む。両手をぎゅっと握るその瞬間を、私は見逃さなかった。



「ごめんね。やっぱり、嘘つけないや」



 彼女はすっと顔を上げた。お陰でやっと、私の目と視線が混ざる。いつもの笑顔とは真逆の、氷みたいな冷たい表情で。

 冷たすぎて、私まで凍っちゃいそう。



「私の親も、お兄ちゃんも……家族みんな盲信者なんだ」



 その声が頭まで届いた瞬間、私は何も言えなくなった。空気が止まって、目の奥につんとした痛みが広がってく。嘘であって欲しいのに、彼女の瞳はどこまでも真っ直ぐで綺麗だった。






 

 

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