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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 巡りゆく月日の欠片
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✤ 第1話(中編):入学の手紙





 


 初めて魔法の存在を理解したのは、小1の冬頃。あれは、 私が家族と同じ〝普通の人間〟で居られないことを、知ってしまった日だ。


 冬の終わり頃の東京は、運が良ければ数年おきに暫く残るような雪が降る。この日も数年ぶりに雪が数センチ積もるだとかで、珍しい出来事に私はテンションが上がっていた。

 9月に起きた不自然な事故も、とっくに頭の端へ追いやられていた。

 


「パパママ、2人のことみなかった!? あと10分でみつからなかったら、私が罰ゲームなの!」

「見てないけど……そんなに嫌がる罰ゲームって、一体何をするつもりなんだ?」

「1週間カイダン禁止令なの、ヤバいでしょ!?」

「あら良いことじゃない。菜乃花は体調悪くても、最上階まで登りたがるんだから」

「全然よくないよママ、そんなコトされたら私泣いちゃう!」

 


 次にかくれんぼで姉弟(きょうだい)に負けたら、階段禁止令。昔から走ったり運動するのがルーティンな私にとって、それはもはや拷問だった。


 焦った私は素早く全ての部屋を探し、最後はほぼ開かずの間である物置部屋へ足を踏み入れることにした。

 足を踏み入れ、少しホコリっぽい場所で、古い布や段ボールをかき分ける。ギィと足元で音を鳴らした、その瞬間――突然、胸の奥がぼうっと熱くなったのだ。



「うわぁっ!?」



 世界が白く弾けるみたいに、目の前が眩しく(きら)めく。肌の内側から滲み出すみたいに、淡い黄色の粒子がふわりと浮かび上がった。その光景に、息をするのも忘れそうになって。


 

「えっなに。私、光ってる……?」



 きらきらの星みたい? いや、さっき食べたレモンアイスの色かな。そんなことを考えている間にも、胸の奥でパチパチと電気のような音が鳴っていた。



「菜乃花、どうしたの!?」

「わかんないけど、なんか電球になっちゃったの!」

「電球!?」



 目の錯覚かと思ったけど、パパとママの驚いた顔が「これは現実だ」と教えてくれていた。いつの間にか姉弟(きょうだい)もやってきて、家族総出で大騒ぎ。とりあえず病院に行こうとしたけど、外に出た瞬間に光がぱたりと消えてしまった。

 

 雪の中でそのまま病院に行っても「すごく健康」って言われただけ。結局なんで光ったのか、その理由は分からなかった。



「あれ、何だろう」

 


 その日の夕方、突然家のチャイムが鳴った。パパがモニターを見ると、そこにはスーツを着た男の人が立っている。なんとなく気になった私は、パパの後ろからそのモニターを眺めていた。



「はい」

『初めまして。(わたくし)、春風様のお宅からの異常を感知して参った者です。少しだけで良いので、お話をさせて頂くことは出来ますでしょうか?』

「異常? すいません、セールスはお断りです」

『そうですよね! ですが、私は決してセールスなどではなくて……』



 スーツの人って大きく見えるし、強そうでちょっと怖い。それなのに、初めて見たその人に会ったことがあるような、すごく不思議な感覚。



「パパ。私、この人とお話したい」

「え? 菜乃花とお知り合いなのか?」

「ううん、知らない人。けどなんか知ってるかんじがするんだよね〜」

「なんだそりゃ。でもなぁ、不審者だったら困るから」



 パパがそう言った瞬間、モニターにいる人は真面目そうな表情から一転する。それはもう酷く慌てた様子で声を投げた。



『あの、本当に絶対に不審者では無いですっ! こちらに身分証もありますし、個人情報もなんでも掲示致しますので!』

「わー待ってください! エントランスをお通しするので、とりあえず玄関まで来ていただけますか?」

『っはい、ありがとうございます!』



 後ろでママがうなずいているのを確認したパパは、その男性を家に通す。少し経つとまたインターホンが鳴って、パパがドアを開けに行った。私はパパの後ろの方に隠れながら、少しずつ開くドアを眺める。



「こんにちは、お通し下さって本当にありがとうございました。境界監理局・文化教育部所属の、花柳(はなやぎ)慧斗(けいと)と申します」



 彼は名刺を差し出すと、柔らかい声で名乗った。だけどあのときは、彼が話した言葉の意味が分からなくて。なんとなく親の仕事仲間だと思ってた。

 考えごとをしながら彼の方をじーっと見ていると、いつの間にかその人とバッチリ目が合ってしまう。見ちゃ悪かったなと、私はすぐに視線を逸らそうとした。けれど逸らす前、その瞬間に彼の瞳が大きく見開かれる。



「……」



 数秒の沈黙の後、彼は真剣な目つきで口を開く。



「急にお伺いした非礼は百も承知です。しかし、どうか(わたくし)の話を聞いていただきたいのです」

「お話って、具体的に何の話ですか?」

「本日のお昼頃、境界監理局でお嬢様の魔力を検知いたしました。勝手ながら、安全のため詳細をお調べしたところ、春風様はご先祖に魔法使いが居らっしゃらないようでして」



 その言葉に、心臓がドクンと跳ねる。だってそれはほんの数時間前の出来事、私が光ってたなんて家族以外知るはずもないのに。

 話を聞いて、パパはママと相づちをしてから彼をリビングに通した。最初は子どもは別々に、と親は言っていたけれど、結局5人で聞くことに。だけどそこで聞いたのは、私にとって現実味のなさすぎるお話だった。


 

「春風菜乃花さん、あなたの中には大きな魔力が宿っています。貴女は、魔法使いなんです」

「まほう、つかい?」



 彼の一言で、部屋の空気が一瞬にして止まった。カチカチと鳴る時計の音が妙にうるさく響く中、誰も何の声も出さない。私の胸の鼓動だけが、ひとりで走り続けていた。

 


「どういうことですか? 流石に冗談じゃないですよね」

「本当のことです」

 


 そんな中で最初に声を上げたのはパパで、声は少しだけ震えていた。でも目は真っ直ぐに、彼の表情を捉えている。


 

「通常は5歳辺りの発現ですが、菜乃花さんは御先祖に魔法使いが居ないから7歳で発現されたのかと――」



 淡々と話し始める彼に、私は思わず大きな声で抗議した。


 

「ちょっと待って! 魔法使いって絵本の話でしょ、私は普通だから絶対にちがうよ!」

「……混乱させてしまって、申し訳ございません。しかし本当なんです」

「だ、だったらさ。私たち家族みんな魔法使いなんだよね? 私だけなんて、そんなの、ゼッタイないよね」



 必死にそう語りかけても、彼の表情は明るくならない。少し眉毛を下げながら、私の目を見てハッキリと言い放ったのだ。


 

「湊斗さんが今後魔力を発現されなければ、ご家族が魔法使いである可能性はないでしょう」



 お前だけ普通じゃないよって、そう言われてる気分だった。

 さっき光を放っていたその手のひらを重ね合わせて、ぎゅっと握りしめた。その力を、どこか遠くへ押し込むみたいに。



「菜乃花さんが発した魔力は、非常に特徴的でした」

「トクチョー的?」

「はい。薄く眩しい淡黄色(たんこうしょく)は光の魔力の象徴です。貴女は〝光魔法師(ひかりまほうし)〟という、数十年から数百年に一度現れるとされる、光の魔力を多く持った人かもしれません」


 

 光魔法・特別。それはきっと褒め言葉。でも、彼の言葉を聞いた瞬間に『私が普通でいられる時間』は音を立てて崩れ落ちて行った。

 

 それから彼は色々な説明をしてくれた。魔力は親からしか遺伝しないから、人間の両親から生まれる人は珍しいこと。その中で、隔世遺伝の可能性が全く無い……という私の事例は記録に無い。

 だけど、説明を聞いてもパパとママは納得してないみたいで。



「娘は普通の小学生です。魔法使いだったとしても、この家で一緒に過ごしていたいんですが」

「それに学園でずっと寮生活なんて、そんなの受け入れられません! 子どもたちが望んで行くのと、強制とでは訳が違います!」



 パパとママが2人してこんなに怒ってるところを、初めて見た。喧嘩してる様子も見たことが無い私にとって、衝撃的な光景だ。その相手が、初対面の人だということも含めて。

 

 

「お気持ちは痛いほどよく分かります。しかし、放っておけば増幅した魔力は暴走するかもしれない。そうなれば本人は勿論、ご家族や友人も傷つける可能性がある。今後そうなったとき、一番辛いのは菜乃花さんなんです」

「っ……」



 その言葉に、パパの拳がテーブルの下で静かに震えていた。それと同時に私の頭もサァっと冷えていく。だんだんと思い出したんだ、数ヶ月前の出来事を。



「あの、9月ぐらいに教室のまどが全部われたり、涙がとまらなくなったりしたの。それって魔法に関係あるの?」

「そんなことが?」



 彼は少し目を見開くと、数秒間沈黙をする。そして軽く頷くと、再び私の顔を見ながら話し始めた。



「不安定な魔力が感情によって暴走するのは、魔力が芽生える魔法使いにはごく普通のことです。魔力を検知できなかったのも芽生え始めの時期だったから、という可能性が高いですが……発見が遅れてしまい、大変申し訳ございません」

「えと、お兄さんは悪くないから」

「いいえ。これは早く貴女方の状況を把握出来なかった、我々(監理局)の責任です」

 

 

 彼は私を慰めるように言葉をかけてくれた。

 でも、私には疑問と恐怖が湧き上がる。そんな恐ろしい力をどうして私なんかが持っているのか。だけどそれが気になっても、理由は教えてもらえない。私に光の魔力が強くある理由なんて誰にも分からないんだから。



「光と闇の魔力は、全員がどちらか持っているんです。しかしこの二大(にだい)魔法は、皆が使えないに等しいレベルの保有量。だからこそ、みんなは二大魔法に憧れる。それで辛い思いもするかもしれませんが、決してご家族の愛を忘れないで下さいね」



 そう言いながら、彼はなんだか寂しそうに目を細める。ゆらゆらと、黄緑色の瞳を震わせて。でも、彼がどうしてそんな表情をするのかは分からなかった。

 すると、彼は直ぐにぱっと顔を上げて笑顔になり、明るい声でこう告げた。



(わたくし)は、菜乃花さん(魔法使い)と、ご家族(普通の人間)の安全を守るためにここへ来ました。今後は境界監理局の者に、皆様のサポートをさせて下さい!」




 ✤




 それから2年後、小学3年生になった去年の10月。私は監理局のお姉さんに連れられて、一度だけ学園を訪れたことがある。秋の空気とお祭り騒ぎの文化祭、みんなが楽しそうに笑い合ってた。

 


「早く神社行こう! 聖君(せいくん)様に挨拶しなきゃ!」

「待っ、ちょっと落ち着けって~」

 


 そんな中でも、周りから聞こえてくる言葉がずっと頭にこびり付く。光魔法を使える人を本当は光魔法師(ひかりまほうし)って言うらしいけど、世間的には「聖君様・聖女(せいじょ)様」なんて呼ばれてるらしい。実際、歩いてるだけでポンポン飛んで来た。

 

 光魔法を使える人は、特別な魔力を持ってる。私より前に光の魔力を持ってた人も、みんな誰かを救ってきたみたい。

 だけど、そんな「偉大な存在」ですよって言われても全然ピンと来ないよ。だって同じ魔法を使えるだけで、私はただの子どもだから。


 私は、聖女様なんて呼ばれたくないよ。



「春風さん、あちらのたこ焼きは食べますか?」

「良いんですか!? 食べたいです~!」



 そう思っても、学園に入ったらあだ名だけでみんなに判断されるはずだ。今の〝なーちゃん〟と同じように。


 だから本当に光の魔力が特別だって言うなら、その特別がどうして生まれたのか知りたい。なんで家族で私だけが魔法使いになったのかも知りたいし、昔を生きた『聖君様・聖女様』と呼ばれる人が、どんな気持ちで光魔法を受け入れたのか……ちゃんと知りたい。

 

 学園で魔力をコントロール出来るようになりつつ、これを私が学園に行くときの目標にするの。そうすれば、行くのが嫌って気持ちも気にならないはず。

 きっと大丈夫。この目標が叶ったら少しは自分を好きになれる、認められる。行動をするときに目標を決めるのは大事なことだって、小学校でも習ったんだから。



「この紅しょうがたこ焼き、めちゃ美味しいです!」

「本当ですね。春風さん、よろしければこちらの明太チーズ味も」

「貰います!!」




 ✤

 



 本当にそんな目標を叶えられるの?

 そんな小さな不安は知らんぷりして、私は残りの数ヶ月を家族と楽しく過ごした。そして秋は終わり、冬も通り過ぎていく。


 春は目の前。もう、この幸せは時間切れ。

 自分の家から離れる日が、とうとうやって来たんだ。





 

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