表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 巡りゆく月日の欠片
27/185

✤ 第9話(後編):君と私の、始まりの日











「もうそろそろ出ましょうか。外も暗くなって来てるし、門限になったら面倒ですから」

「そっか、もう行かないとだよね……」

「……あっ」

「へ?」



 立ち上がって扉の向こうに行こうとした瞬間、彼女は動きをピタリと止めた。何かと思って目線を彼女の向こうにやると……そこには何故か、熊が居た。



「く、く、くくくま、くま!? 何で熊!? やばいよ花柳(はなやぎ)さん、私たちこのままじゃ、今すぐアレに食い殺されてしまうぅぅぅ!!」

「ちょ、落ち着いてください大丈夫ですから……お願いだから私のことを揺らさないで、ぎもぢわるいっ」



 私は訳も分からず彼女の肩を揺らし、聞いた事ない叫び声を耳に入れながら冷静に言葉を返した。

 

 

「君ってば熊の怖さを知らないの? 私は東京生まれ東京育ちだけど、流石に野生の熊が怖い事ぐらいは知ってるよ!?」

「私だってそれくらい知ってますよ! と言うか、あれは本物の熊じゃなくて、魔法で作られたロボット的なものですから!」

「え、ロボット……?」



 私が焦って叫んでいると、彼女は冷静に言葉を投げる。そういえばそんな話、どこかで聞いたような気もするような。私が頭にハテナを浮かべていると、彼女は少し呆れたように説明をしてくれた。



「学園の敷地は広いし、全てを人が警備するのは大変でしょ。それでこういう警備ロボット的な存在が居るんです。入学式で説明してましたよ」

「そうだっけ。完全に忘れてた……」

「まぁ、忘れてたんでしょうね」

「アハハ……でも、それなら良かったよ! なんだよもぉ~紛らわしいな~」



 確かに、良く考えたら学園の敷地内に野生の熊が居たとか大問題だもんね。普通に通り抜けられるっぽいし、これなら私も安心安心。



「じゃあ行こっか」

「あー、ちょっと待って下さい」

「どしたの花柳さん、熊よりロボットの方が怖いの?」

「そうだけど違います」



 歩いて行こうとする私の手首を掴んで食い止める彼女に、私はつい素になって問いかけた。すると彼女は、矛盾した事を言った後に何とも恐ろしいことを告げたのだ。



「上の兄から聞いたんですが、学園に警備ロボットがいる場所は、大抵が生徒だけで入っては行けない場所なんです。だからそれに見つかると、先生に即バレて怒られてしまうとか……」

「えぇ!? なんでそんな危険地帯にズカズカ入って行くのさ君は!」

「仕方ないじゃないですか、1人で光魔法を試すのはここが特に適してたんです。学園内で唯一呪いがある場所なんですから」

「んな~~っじゃあどうしたらぁ……」



 このままでは、成績1位の生徒代表と何故か一緒にいるバカが2人揃って校則違反だ、と話題になってしまう。いや、よく考えたら闇魔法師と聖女が一緒にいるぞ……の方が無駄に騒がれそうだ。それはすっごくめちゃめちゃ困る、校則違反を怒られるだけのがまだマシだ。



「こんな時に丁度いい魔法がありますよ、良ければ使ってみますか? 貴女の感じる魔法のトラウマを克服する、その第一歩と言う事で」



 うぅんと唸っていると、彼女が先程見せてくれた本をまた指さしていた。そこには「闇の目眩し」と書いてある。



「えーっと、花柳さん? これって闇魔法なのでは……」

「私が光魔法を使ってだいぶ経っても体に何も無いなら、逆も然り。それに、貴女と私は歴代で初めて同い年なんですし」

「本当かなぁ、私は君の勉強に巻き込まれてるだけな気がするよ。そゆとこ(ひかる)にめっちゃ似てる 」

「色んな意味でそれ失礼なんですけど……大丈夫です、私も平気だったんですし。それに、私が光の治癒を使えるので貴女を治す事も可能です」

「なんか余計に胡散臭いっ!」



 今この状況でいちばん胡散臭い所は、君を意地悪だとか言ってた時の輝と似すぎてる黒い表情だよ!



「早くしないと、アレに見つかっちゃいますよ」

「わぁぁっマズイ早くやんないと! えーっと……?」

「さっき私がやったみたいに利き手に杖を持って、体の中にある魔力を手に集中させるんです。そして頭の中で、この魔法を使うイメージを思い浮かべて……」



 そう言った彼女は、私のスカートに着いていた杖を手に取って、私の手に握らせる。その上から一緒に杖を掴んで、淡々と説明をし始めた。

 まだ1回も魔法を使った事ないのに、よりにもよって適性が無い魔法を使わされるなんて、本当にあんまりだ……さっきの私の気持ちを返して欲しい。もう、何かあったら請求書は全部この人につけてやる!



「……」


 

 心臓の鼓動が、指の先まで響く。苦しくなる程に鼻から息を吸って、少しずつそれを吐いて。そしてまた深く呼吸をしてから、私は覚悟を決めて呪文を唱えた。



「〝闇の目眩(めくらま)し〟」



 その瞬間、紫色の霧のような光がふわりと広がった。体の内側から何かが滲み出していくような感覚と、心地良い暖かさ。運動をした時と似た高揚感や安心感。



「これが、魔法……」



 呪文を唱えて魔法を使うのは初めてなのに、なぜか私の体にもすんなり馴染む気がする。気分が良いと言うか、楽しいと言うか。魔法を使って魔力が流れるってこんな感覚なんだ。いつも勝手に魔力がピリピリするしか感じたこと無かったから、全部知らなかった。

 それに、魔法を使っても物が壊れてない……私、ちゃんと出来て――いや、待って。なんで私が闇魔法使えちゃってるのさ!?



「すごいですね。これは闇魔法師じゃないと扱えないレベルの高難易度の魔法です。初めて魔法を使ったとは思えないくらい完璧ですし、一発で成功させるなんて凄い事ですよ。体調は大丈夫ですか?」

「うん、むしろ気分良すぎる。でも、私的にはなんで使えるかの方が謎なんだけど」

「それは私にも謎ですけど、とにかくあのロボットにバレる前に早く行きましょう」

「君について来たので、私は道が分かりません」

「……」



 少し目線をずらしながらそう伝えると、彼女は仕方ないと言った表情のまま、繋いだままでいた手を引っ張ってくれた。でも、彼女は自分に魔法を唱えていないまま。このままでは花柳さんだけがあの熊に見つかってしまう。



「ちょちょ、君は自分に魔法つけてないのに大丈夫なの!?」

「自分に魔法の効果を付与をする時、唱えていた時に触れた相手にも同時に魔法が適用されるんです。私たちは互いに姿が見えるけど、他人からはどちらも見えません」

「あぁ〜、なるほど……」



 私は彼女の腕について行きながら、その説明を頭で少しずつ噛み砕く。多分私が触られずに魔法を唱えてたら、花柳さんからは私が見えなかったって事だろう。

 


「じゃ、早速行きますよボス!」

「どうしてボスなんですか?」

「過程がめっちゃ強引だったから」



 ゆっくり、ゆっくり~と熊の横を歩く。幸い目の前は土しかなくて、草を踏んだ音などは聞かれずにで済んだらしい。私たちは手を繋いだまま歩き、やがて森の出口付近に来る事が出来た。安心感が全身を包んで、思わず「はぁ~っ」と大きな息が溢れて来る。

 

 しかし、彼女は繋いでいた手をパッと離してしまった。慌てて後ろに振り返ると、彼女はいつも通りのポーカーフェイスに戻っていて。



「今日は、色々とありがとうございました。貴女は先にココから出てください。森を出れば、また今まで通り……私は貴女に、一切干渉しませんから」



 どうしてまたそんな顔するんだろう。私は君に、悲しい顔をもうしないで欲しいのに。さっきみたいに笑ったり怒ったりしてる所を見たい。君の事だって、もっと沢山知りたいよ。彼女をこのまま置いていったら、そのままどこかに消えてしまうような。そんな不安が、私を頭を支配した。


 いつもなら相手の意思を尊重して、そのまま去っていたと思う。でも、この子は私に「自分自身の気持ちに目をやって大切にすべき」「他人の意思に流されるな」って、さっき言ったばっかりだ。



「花柳さん……」

 

 

 だったら、今ここで実行するべきだよね。これは絶好のチャンスだよ。私を救ってくれた彼女に「自分の気持ちを大切にしています」って、真っ先に証明出来る。君ともうこんな風には一生話せないかもしれないなんて……私はそんなの、絶対に嫌だ!



「え、な、何ですか? どうしてコッチに、」

 


 そう考えてるうちに、私はいつの間にか足が動いていた。困惑する彼女の声や表情も無視して、私は両手で彼女の手をギュッと包む。私は君の視線も、気持ちも、全部何処へも逃がさない。春風菜乃花の気持ちを、君にちゃんと伝えたいから。



「私ね、ずっと誰かに決められた自分を演じて生きてた。でも、そんなのずっと辞めたかった。だからこれからは、ちゃんと自分で選ぶ! 私の気持ちをちゃんと大切にするって決めたの!」



 彼女の瞳がふわっと揺れる。私は後ろに足を傾ける彼女を追いかけて、手を更に強く握る。彼女の手が、私の所からするりと抜け落ちないように。

 

 こう言う時、なんて言葉を選んだら良いんだろう。悪人同士は流石に変だし、友達って言葉を当てはめるのは何か違う気がする。そう悩んでいる時、ふと思い出したのは入学前にテレビで見てたドラマの事。あれは刑事たちが事件を解決する内容だったっけ。


 

『いいな……私も、こんな風に――』

 


 そうだ、私は君とあんな風になりたいんだ。一緒に目的の為に協力して、大変な事も乗り越えられるような人。友達や家族とも違う、天敵な私たちに1番ピッタリな言葉。

 少しの沈黙に髪がふわふわと空気に揺れると、胸の奥から湧き上がる言葉をそのまま声へと乗せた。

 


「だからお願い……花柳(はなやぎ)咲来(さくら)。私と、相棒になってほしいの!」

「……は、はぁ!?」



 酷く裏返った彼女の声は、私が彼女に杖を向けられた時の数倍は間抜けで。思わず笑っちゃいそうなくらい、とても情けない声だった。

 









 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ