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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
一章 巡りゆく月日の欠片
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✤ 第9話(中編):同じ光











四葉(よつば)さん、また後で~っ!!」

「うん、寮でね!」



 放課後になった瞬間、私は急いでカバンを持って教室を出た。カバンの中には勿論あの本も入っている。何でこんなに急いでいるのかというと、そうしないと花柳さんの観察が出来なくなるからだ。あの子は教室を出るのがとてつもなく早いから、さっさと行かないと見失ってしまう。

 キョロキョロと廊下を見渡すと、あのピンクベージュの髪がふわりと揺れている。私はその方に向かって急いで足を動かした。



「っとと、その前にポニーテールとか辞めておかないと」



 少し遠くから、バレない様にゆっくり歩く。足音も出来るだけ立てないように……なんかこれだと、魔法使いじゃなくて忍者になった気分だ。まぁ、いつも通り図書館に行くんだろうなぁ~なんて呑気に考えながらついて行った。

 周りから私が気付かれないように長い髪の毛を下ろして、顔も隠すようにして。ボタンも全部閉めて歩いたお陰か、 周りから少しずつ人が消えて行く。



「あれ?」



 てっきり図書館に行くのかと思ったけれど、校舎の外に行くみたい。つまり、今日は図書館が目的地じゃないと言う事だ。

 私は見失わない程度の距離を保って、彼女の遠く後ろを歩く。足を進める度に、段々と見覚えのない景色が目の前に広がっていった。どうやら、いつの間にか高校棟の近くに来ていたらしい。



「誰もいないし、ボタン外しちゃおっと」



 人気が無さすぎるので、いつも通りの姿に戻った。やっぱりいつもの服装が1番落ち着くけど……それにしても、花柳さんは何の用事があってこんな所に?

 彼女が歩くその先にある場所は、学園内とは言い難い様な草木の生い茂る森だ。でも、その景色を見ていたら段々と思い出してきた事がある。

 


『高校生になったら、魔法の実技授業が一気に増える。その一環で、高校棟辺りには魔法を試す為の森があるんだ』

 


 先生が前に、そんな感じの事を言っていた気がする。今まですっかり忘れていたけれど、それってココの事だったんだ。てことは、陽太たちの言う通り魔法の練習をしたいんだろうか。入って良いのかもよく分からない場所で、彼女はそんな事も気にせず草木を掻き分けている。こんな所までついて行くなんて、やっぱりダメなんじゃ……なんて気持ちが今更膨れ上がって、突然足がすくんだ。

 


『申し訳ないけれど、学園で私に話しかけるのは……辞めてください』

 

 

 話しかけたら、嫌な気持ちにさせるかも。

 ――いや、いい加減に覚悟を決めろ私! なんの為にここまで来たのさ、あの子と少しでも2人でお話する為でしょーが!

 私は頬をパチンと叩き、真っ直ぐに足を動かして森の中へと入った。嫌われたくは無いけど、話せないのはもっと嫌なんだから!



 森の中には、花やら植物やらが生い茂っていて、自然豊かな公園って雰囲気だった。入口はがさっこい見た目だったけど、中はちゃんと管理されてて綺麗みたい。

 安心しながら彼女を追いかけると、何やら柵に囲まれた場所に辿り着いた。そこにある扉を普通に開いて、彼女はそのまま入っていく。何だアレと思いつつその場所に行くと、下の方には看板が置かれていた。


【 ここから先、立ち入り禁止区域。許可無く中に侵入してはいけません! 】


 ……いや、普通に何食わぬ顔して入ってますよあの子。これってもしかして、校則違反ってやつなのでは!?

 新入生の成績1位で代表挨拶までやった、魔法世界で凄い家門の人が、多分うちの学年で誰よりも先に入ってますよ! 1001期生に学園最速違反記録の保持者が居るって、ある意味話題になっちゃうって!


 でも、私も入らないと花柳さんの場所が分かんなくなっちゃう。引き出しにあった本だってちゃんと返したいし、コレは本を返為だから仕方がないよね。

 

 私はとりあえず、開いたままになっている扉を通り抜けた。キィと鳴る扉を閉めて、ふぅ〜っと安堵のため息を吐く。それと同時に、ようやく違和感の正体に気付いたのだ。

 嫌な予感と一緒にゆっくりと振り向くと、彼女が真っ直ぐ私の方を見ていた。



「あっ、」



 お、終わった……なんて呑気に考えてる間にも、彼女は私に近づいてくる。後ろに行こうにも、柵があってこれ以上後ずさりは出来ない。もしかして「ふざけるなお前!」とか「なんで着いてきてるんだ!」とか、そんな感じの事言われるのかな。その場合はおっしゃる通り過ぎて言い訳出来ない、こうなった時の対策なんて考えてなかったよ私のバカ!

 

 慌てる口元からは情けなく「あ、えと~……あの~……」なんて声だけが漏れる。訳の分からない言葉を吐いていると、彼女はスカートに付けられた魔法の杖を手に取って、その杖を私の方へゆっくりと向けた。そして、少しずつ口を開く。



「私の事、殺しに来たの?」

「…………へ?」



 その瞬間、心臓が跳ね上がった。駅で会った時も、今も……なんて冷たくて、悲しそうな顔をするんだろうって。

 覚悟していた内容とは違う言葉が飛んできて、思わず声もひっくり返った。本人にやめてって言われた事をしてるこの状況も怖い。でもやっと……やっと君と、こうして目が合ったんだ。私はずっとこの瞬間を望んでた。



「ま、待って花柳さん!」



 私がそう一言告げると、彼女は少しだけ目を見開く。その隙へねじ込むように、私は必死に言葉を紡いだ。



「あの……これっ、今日空き教室の机漁ったらこれが出てきたんだ。前の授業がそっちのクラスだったし内容とか栞とか的に、君の本なのかな~って思ってぇ……なので殺すとか誤解だし、そんな物騒な世界はドラマだけの話って言うかぁ〜……」



 早く誤解を解きたくて、早口になりながら本を差し出す。すると彼女は目をパチクリとさせながら、ゆっくりとその杖を降ろした。



「確かに、これは私の本ですね。ごめんなさい……私が早とちりしていました」

「ううんっ全然良いんだよ、今着いてったのは本当だし! はい、どうぞ」

「ありがとうございます」



 そう言うと、彼女は素直に本を受け取ってくれた。ちゃんと返せた事にホッとしていると、彼女は少し首を傾げながら問いかけた。



「でも、それならどうして私をずっと見ていたんですか? 理由がよく分からないんですけど」

「え?」

「最近、放課後にずっと見て来ましたよね。あまりにも熱心だったので、流石に私の存在が邪魔に感じたのかと」

「バレてたの!?」

「少なくとも私には。貴女の魔力は分かりやすいので」



 なんじゃそれ、変装してた意味ないじゃんっ! 個人的には結構上手くいっていると思ってたのに、全然ダメだったみたい。なんか数日続けたゲームで大負けした気分だ。



「本当にごめんなさい……確かに見てたんだけど、君とお話したかっただけなんだ。今日は本当に本も返したかったんだけどね! 絶対盗んだりとかしてないし、まじで嘘じゃないよ!」

「ここまで必死な方にそんな事思いません。それに、貴女の顔を見ていれば嘘じゃないって分かります」

「そ、そっか……ありがとう」



 良かった、多分嫌われてはいないみたい。だけどこれで、私の目的は達成してしまった訳で。この後何を話しかければ会話が途切れないのか分からなくて、私は棒立ちになってしまう。花柳(はなやぎ)さんに話したい事は沢山あったはずなのに、いざ目の前に本人が居ると思ったら……その中から最初に選ぶ言葉が見つからない。



「……春風(はるかぜ)さんは、この本の内容って読んだんですか?」



 私が悩んで立ち尽くしていると、なんと彼女の方から声をかけてくれた。それは私がさっき返した〝光と闇の魔法〟と書かれている本。私は授業中の事を思い返しながら、慌てて声を上げた。


 

「栞が挟んであったからその先のページを授業の時に……って、勝手に見ちゃってごめん!」

「その前に、授業中にこの本を読んでるのが気になるんですけど。まぁ、本は自由に読んで頂いて構いません。これは貴女も気になる内容だと思いますから」



 そう言うと、彼女はその場でしゃがみこむ。その様子をぼけっと眺めていると、ハンカチを隣の草上に置いてポンポンと叩いた。私が素直にその上で座ると、目の前に生えている枯れた植物に手を添えながら淡々と説明し始める。



「この場所が立ち入り禁止区域なのは、自動で呪いに染まる植物があるからです。授業で光魔法を使う練習として使用する為に、資格を持ったの先生が呪いの成分を入れているんですよ」



 彼女は指で植物をなぞりながら説明をする。呪い……と言うのは、この前四葉さんが大食堂で教えてくれた〝闇魔法を元に作り出された違法の力〟だ。



「それって、私たちが近くにいても大丈夫なの? 君は触っちゃってるし」

「植物に掛けられている呪いは擬似的なものだから、触っても害はないんです。毒も専門家が使えば薬になるでしょう? それに、呪いが危険なのは使用者の精神的影響も強いですから」

「へぇ~、すごい……」



 知らなかった物の答えがポンポンと飛んで来て、私はぽかーんと口を開けていた。つい感心していると、彼女はとあるページの文章をつつく。そこに書いてあるのは「光の治癒魔法」という文章……それは栞の挟まれていた所のページで1番最初に読んだ内容だ。

 彼女はスカートに付けていた魔法の杖を再び取り出しながら声を放った。



「このページは読みました?」

「読んだよ! 確か、光の魔法で癒すってやつだよね。対象の状態を治すとか何とか~って」

「そんな感じです。じゃあ、折角こんな所までついて来たんですし、私の実験に付き合ってください」

「実験?」

「はい、この植物を見ているだけで大丈夫です。成功するかは分かりませんので、いざと言う時は私を森の前まで運んで下さいね」

「え……それってどう言う……」



 そう言うと、彼女は黒っぽく枯れた植物に向かって、ふいっと杖を向けた。そして一度深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開く。



「〝光の治癒〟」



 その瞬間、淡黄色の光がふわりと宙を舞った。私が魔法使いだと分かったあの日と、同じ色の光が。まるで夜の柔らかい月が暗闇を照らすみたいに……優しくて、穏やかで。その光に包まれた植物はゆっくりと緑を取り戻し、やがてその息を吹き返した。眠っていた命がゆっくりと目を覚ます姿は、彼女が自然を祝福しているようで。

 

 暫くその様子を眺めていると、段々と緑色の中にぽわぽわとした黄色が混ざり始めた。どうやらここにあったのはタンポポの花だったらしく、その鮮やかな黄色は緑の中で一層目に()える。なんだか、小さな太陽が沢山生まれているみたい。

 

 幻想的なその光景に、私はすっかり心を奪われてしまった。









 

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