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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 相棒契約
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✤ 第9話(前中編):引き出しの中には










 寮の部屋が同じなのもあって、四葉(よつば)さんとは良く一緒にいる事が多い。だけど、他にも色んな人が周りに来る。聖女様と話したいとか、一緒に居ておきたいとか、大体そんな感じの人たちだ。そんな状況じゃ観察なんて出来ないから、私は「放課後に私だけで学園探検したいんだ!」と言ってなんとか1人になっていた。


 見張り中はポニーテールを辞めて髪の毛を下ろしてるし、シャツとブレザーのボタンも全部つけてる。ネクタイもこんな上にして、顔とクラスの色もあんまり見えないようにして。

 

 これなら、普段ポニーテールでピアス丸見えで、シャツもブレザーもボタンを開けて、ネクタイも緩い私と同じ人なんて到底思えないでしょ! 我ながら完璧な変装だよねっ!

 だから、花柳(はなやぎ)さんの観察自体は順調……だったハズなのに。



『あー、全ッ然話しかけられないよ~!』



 毎日「今日こそ話せるかも」って思ったのに、結局ダメだった。放課後は1人でいるように見えるけど、実際はそうじゃない。いつも誰かが居るような場所に居る。

 

 彼女が最近放課後にいるのは魔法学園の図書館だ。この図書館は意味分かんないぐらい広くて、人生一生分ぐらい本がある。そこの本を借りては読んで、読んで読んで、最終的に何冊か借りるを繰り返す。ただそこには、ページをめくる音ばかりが響いている。


 でも、私は迷路のように広い図書館で道に迷った。2日目だったし着いて行けば良かったんだけど、一瞬くしゃみで目を逸らしちゃったんだよね。突然話しかけられたのは、そんな感じで困り果てている時だった。



『あら、図書館で迷子かしら』

『わぁっ!? ビックリした……あれ、君は学園生じゃないの?』



 図書館に入って入口に佇んでいた1人の少女。頭にゼンマイのような飾りを着けていて、服装は至福っぽいカーディガンにロングスカート。リボンみたいにまとめられた髪型はどうやってるのか分からなくて、ついまじまじと眺めてしまった。



『私は図書館の管理をしている、司書の志賀(しが)フミ。魔法仕掛けの機械人形よ♪』

『へぇ〜、人形……人形!?』

『えぇ。こんなに小さいけど、きっと貴女のお母様やお父様より、も〜っと沢山長生きしてるわね』



 ニコリと笑う彼女と、口をあんぐりと開ける私。どうやら魔法と言うものは、人形さんとお喋りまで出来てしまうらしい。

 シガフミさんは快く魔法の書物がある場所へと案内してくれて、何とか事なきを得た。陽太が最近魔法の本を借りまくってるって教えてくれて本当に助かった。

 

 問題は、そこから進まない事だ。本当は話しかけたかったけど、話しかけた時周りに人がいて声で私だとバレたら困る。そもそも、話しかけるきっかけも無くて。



『……あ、そうだ』


 

 その時ふと、前にクラスメイトから〝図書館に光魔法師の情報がある〟と教えて貰ったのを思い出した。きっかけ作りプラス、自分の目的も達成できるチャンス。そう思って、適当に目に入った本をに読んでみたんだけど。

 ――その本にあった内容はこうだ。



 〝初代聖君様は魔法と人間の世界を(わけ)て、世界に安寧(あんてい……?)をもたらしました。にも数多くの功績を残しており、民衆から尊敬を〟

 ……って、これじゃあどうやって光の魔力を受け入れたのか分からん。てか言葉がムズ過ぎて読めません。誰か、この漢字たちに読み仮名下さい!



 心の中で、強くそう叫んだのを覚えている。内容もよく分からない上、求めている「過去の光魔法師が自分の魔力を受け入れられた方法」は、全然見つからなかった訳だ。

 もちろんスマホでも調べたけど、それも微妙な結果だった。つまりこの件については八方塞がり。細かい字を見てると段々眠気が出てきちゃって、もう見張り所じゃ無くなって。



『あぇ、いまなんじ……うわっもう2時間も経ってる! しかもあの子、既に居ないし!!』



 いつの間にか眠ってて、気付いたら夕方だった。そんな災難な初日から時間が経ってもこんな調子なのだ。これから先あの子に話しかけるタイミングなんて、本当にあるのかなぁ……と、私は思わず頭を抱えてしまうのだった。




 *




 そんな訳で、金曜日の今日こそは話しかけてみせる! と気合いを入れ直していた。もしかしたら今日も無理かもしれないけど……いやいや、絶対成功させるし。弱気になるな私! 助けてくれたお礼もあるけどそれだけじゃない、どうしてもちゃんと話したいから。

 放課後を待ちわびながらも、私は最後の授業を受ける為に四葉(よつば)さんと廊下を歩いていた。



「あの教室、使うの初めてだよね」

「そうだねー!」



 私がそう言うと、彼女はうんうんと頷きながら返事をする。次の授業は総合の時間で今回は特別に移動教室らしく、映像を見るための機械を小学棟だと1番使いやすい場所なんだとか。



「普段は空き教室だけど、私たちのクラスと見た目は同じらしいよ」

「へぇ、四葉(よつば)さんって相変わらず物知り!」

「さっきすれ違ったクラブ()クラスの子が話したんだ~」



 そんな他愛のない話をしながら教室に向かうと、ハート()クラスと全く見た目が同じな空間がそこに広がっていた。違うところと言えば、プロジェクターが天井に浮いててちょっと机が多いくらいだ。

 私の座る場所は自分のクラスと同じ席だけど、実際のクラスとは違って自分の左に席がある。それが少しだけ不思議な感じだ。



「2人とも、チャイムギリギリだな?」

「うわーっごめんね先生!」

「待ってください東郷(とうごう)先生、私たち結構早い方です!」

「まぁ確かに……どうやら1001期のハート()クラスは、マイペースな子が多いらしい」



 隣でごめんなさいのポーズをしながら笑ってる四葉さんに、先生は仕方ないと言う様に息を吐きながら笑った。私の言う事は一応事実で、今もギリギリ教室に着いた人が慌てて席に座っている。先生に申し訳ないから、今度からはもう少し早く来よう。

 自分も同じように席へ腰を下ろすと、座った意味もないレベルでピッタリとチャイムが鳴り響いた。



「きりーつ、気をつけ、れーい」



 号令係の挨拶に合わせて挨拶をすると、先生がプロジェクターを起動する。再生されたその動画は授業のほとんどの時間を潰してしまう長さで、黒板に貼られた白い布に映し出された映像は少しだけ白飛びしている。途中で閉められたカーテンと明かりの消えた教室の中で、私は映画を見るようにそれを眺めてた。

 

 どこかで見た事あると思ったら、この映像は前の学校で見た事あるやつか。向こう(人間世界)の教材ってこっち(魔法世界)でも使うんだ。そういえば教科書とかも同じ感じだし、義務教育だからわざとなのかも〜……。

 

 ……うん、それにしても暇だ!


 見たことのある映像に段々飽きて来た私は、何となく自分の机を眺めた。古い机だからかうっすらと落書きが見えてくるけど、その内容まではよく読めない。

 こういう机って前の小学校にもあったんだよね。相合傘とか昔の流行語とか、知らん人同士の会話とか……ちょっと懐かしいかも。ひょっとしてこの引き出しの中にも、何か文字が書いてあったりして~!


 なんて、そんな軽い気持ちで引き出しに手を差し込んでみた。だってこれは普段使われない教室の机で、そこには何も無いハズだから。なのに、私の手は何かに触れた。



「ん?」



 咄嗟に周りを見渡した。先生は椅子で映像を見ているからこっちを見ないし、映像は後30分はある。みんなはこの映像に夢中になるか力尽きて目を閉じてる、つまり今の私に視線が集まる事は無いはず!

 大きな音を立てないように、ゆっくり慎重に……私は引き出しの中からその物を取り出した。



「なんだこれ」



 机に入ってたのは、なんとも分厚い本だった。辞書っぽいけど違う、でも辞書みたいに分厚い。表紙をじーっと眺めると、そこには〝光と闇の魔法〟と書いてある。

 そこで思い出したのは、さっき廊下で同学年のクラブ()クラスの人たちと入れ違った事だった。同じ学年であのクラス・多分出席番号が私と近くてこんな本を持っている人……そんなの、1人しか考えられない。


 幸い映像の音が大きく、ページを開いたくらいの音なんて簡単にかき消される。好奇心が抑えられなくなった私は、栞の挟まるページに手をかけてゆっくりとその本を開いた。


 そこには魔法についての知識や使い方なんかがびっしりと書かれていた。中には「これは私にも使えそうなまほう」「重要」「光のまほう」と書かれたふせんが沢山貼られている。そのページに挟まっていた栞には桜柄が描かれていて、光にかざしたら綺麗な影になりそう。ステンドグラスのような栞を見て確信した、やっぱりこれは花柳(はなやぎ)|さんの持っていた本なんだ。


 あぁ~っ私ってば、今日に限ってめっちゃ幸運! 今週最後のチャンス日に、あの子に話しかける理由が出来ちゃうなんて!

 高鳴る鼓動を押さえつけながら、私は栞の先にあるページを読み漁る。暫くこの本を見ていると、ふと気になる内容を見つけた。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 二大魔法である光魔力と闇魔力には、

 万物を創造する力があると言われている。

 光魔法の代表的な呪文は〝光の治癒(ちゆ)〟――


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 いつもなら文章を見ていると眠くなるハズなのに、この本を読んでいても眠くならない。だってこの中には、私の知らない光魔法(自分)の事が沢山書かれていたのだから。






 





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