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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
二章 相棒契約
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✤ 第9話(前編):気になる攻略法







 昨日は、やっと花柳(はなやぎ)さんとお話出来た。

 ……いや、正確に言うと会話はしてない。私に向けては一言も喋ってなかったし。それなのに、あの言葉だけは私に向けて投げかけた言葉だったんじゃないかと思ってしまう。



『私の言葉を聞く前に、まずは彼女と正面から向き合ってみてはどうですか? 目の前に居る春風さんは〝聖女様〟なんて名前じゃないんですから』



 君は初めて会った時、駅で「私に話しかけないで」なんて言っていたのに。みんな〝闇魔法師〟は私の事を殺す存在だって言って来るのに。彼女には近付かない方が良い、あの子は私の〝天敵〟なんだって話しかけさせてくれないのに。私が一番欲しい言葉を言ってくれたのは、そんな(聖女)天敵(闇魔法師)だったんだ。



「は~、もっかいお話できたらなぁ」

「何かお悩み?」

「おわっ!? ビックリした……」



 私がポツリ呟くと、いきなり目の前の席から声が飛んできた。彼女と違ってストレートな彼の髪の毛は振り向き様にサラッとなびく。

 

 そこで私はふと思い出した、(ひかる)は花柳さんの双子……つまりこの学年で1番花柳さんを知ってそうな人。そんな人が目の前の席なら、詳しく話を聞くのには超うってつけの相手だ。こんなに会話するきっかけが作れないなら、いっそ輝に相談するのもアリなんじゃ……。

 そんな考えにたどり着いた私は、思い切ってこの悩みを打ち明ける事にした。



「その……私、あの子と少しだけ話したんだ」

「誰の話?」

「き、君の双子のコト」

「あ〜だから小声なんだね」



 その言葉に、私はブンブンと頷いて同意した。大声で話したら誰かに何か言われるかもしれないから、2人にしか聞こえない程度の声量で話しかけたのだ。

 今は教室で図工の時間だから幸い喋っていても先生は何も言ってこない。むしろ周りの声の方が何倍も騒がしいので好都合だった。



「話したっちゃ話したんだけど、しっかり会話出来たとは言えない感じになっちゃって。だから今度こそちゃんとお話したいんだけど、中々タイミングが……」

「確かにいつも俺らと一緒に居るからなぁ、菜乃花(なのか)からすると凄い話しかけにくいよね」



 輝は絵の具の筆をユラユラとさせながら笑う。私はその言葉に同意しながら、今日も頑張っていたと言う事を必死に彼へ伝えた。


 

「そうなの、一応今日も話しかけようと思ったんだんだよ! でもね……」


『春風さん、クラブ()クラスに用事でもあるの?』

『うえぇぇ!? いや、何にもないよ~っぜんぜん全く!』

『?……そっか。なら良いんだけどね』

『えへ、へへ〜ぇへ〜え……』


「ってな感じで、私もほとんど四葉(よつば)さんとかと一緒に居るからさぁ。人前で話しかけたら、絶対迷惑かかるじゃない?」



 私は四葉(よつば)さんに、花柳さんの話をしないようにしている。大食堂に居た時の表情がどこか引っ掛かっていたからだ。それに人前で花柳さんに話しかけるのもダメだ。廊下でぶつかった時みたいになるのが目に見えてるし、あっちにだって迷惑になるから。



「うーん、1人になるタイミングねぇ」

「流石に輝も知らない?」

「俺にはそう言うの、あんまり教えてくれないんだ。ほら、俺に対して意地悪だから」

「へぇ~……」



 確かに、前に5人を見かけた時は輝にだけ当たりが強かったような気がする。まぁ2人は兄妹(きょうだい)だし、うちの姉弟(きょうだい)に比べたら平和だよね。うちの場合は妖怪大乱闘みたいな感じになるからね。1番怒らせたら怖いのはママだけど。



「あっそうだ。陽太(ようた)にも聞いたら何か分かるかも」

「ほんと? 良ければ聞いてみたい!」

「OK〜」



 輝が背中にポンポンと手を当てると、陽太は「どうした?」と言いながら、不思議そうな顔をして振り向く。その隙間から見える図工の絵を、私はちらりと覗いてみた。今回は風景の絵を描いてっ言われてたけど、多分これは公園かな。遊具と芝生と、元気そうな人たち……なんだかすごく、陽太らしい場所選びだ。

 

 話してばっかで作業しないのは、流石に先生に怒られそうなので、私と輝の机をくっ付けて3人で話すことにした。どうやらこの位の席移動では先生は何も思わないらしく、特に注意されなさそうでホッとした。



「なるほどな、1人になるタイミングかぁ」

「あの人俺にはそういう事教えてくれないじゃん? だから陽太の方が知ってそうだなって」

「それ、輝が向こうに怒られる様な事してる前科が沢山あるからだよな……?」

「わ~! シーッシー!」

「えっ何だ何だ!?」



 ……さっきは確か「あっちが意地悪だから~」って言っていた気がするけど、意地悪なのは輝の方だったか。あわあわ慌てる輝と何も分かってない陽太、まるでコントを見ている気分だ。

 マイクの前に立って『どーもどーも~』『俺たち、ハナとハスで~す☆』 と言って笑いを取る2人を想像してしまって、私は吹き出しそうになるのを必死に押さえ込んだ。



「まぁ、寮の中なら1人の時もあるだろうけどな。でも俺らじゃ黒寮入れないし」

「校則違反だもんね~」

「そうだ! 俺が呼び出して、不意打ちで菜乃花が出てくるとか……でも今後しばらく口聞いてくれなくなりそう」

「輝は絶対やんない方が良いぞーそれ」



 図工の絵を描きながら、私たちはしばらくうーん、うーんと唸った。2人が色々考えてくれているのに、言い出しっぺの私は何も出来なくて申し訳ない。その気持ちを誤魔化すように、私は図工の絵を描き進めた。

 

 右手では筆を持ち、ふと机に置かれたパレットを見る。赤も青も黄色も乗せてるのに、私の目には暗い灰色に映った。いま描いたこの青空も、なんだか汚れて見えてしまう。本当はもっと、綺麗な色で塗りたいのに。



「あ~!」



 その大きな声に驚いて、思わず体がぴょっと跳ねる。目の前で同じ反応をした輝が「どうしたの陽太」と質問をすると、彼は目をキラキラとさせながら話し始めた。



「なぁ、アイツって最近本借りまくってなかったか? ご飯食べてる時に『図書館の本で魔法を調べてる』って言ってた気が……」

「そうなの?」

「そうだっけ?」



 その言葉に疑問を浮かべていると、何故かその場にいたはずの輝も私と同じ反応をしていた。そんな彼に、陽太はじーっと目を細めながら問いただす。



「おいおい、食べるのに夢中でちゃんと聞いて無かったんだろ」

「やだなぁそんな訳無いじゃない、この俺が妹の話を聞いてないなんて~」

「絶ッ対聞いてなかったな!?」



 そう言われて輝はアハハと目を逸らすけれど、その顔には冷や汗がダラダラと垂れていた。その表情をじろっと眺めていた陽太は仕切り直すように口元に手を当てて、コホンと一度咳払いをした。



「それでな、その時魔法を試したい的な事を言ってたんだよ」

「なるほど! ……でも待って、1年生はまだ魔法の授業無いよね。うちらって試すとか出来なくない?」



 私が疑問をぶつけると、陽太は筆を洗いながら丁寧に説明をしてくれた。


 

1年生(小4)のほとんどは未経験者だけど、入学前に親に教えて貰ったり、事前に自習してる人も居るんだ。魔法がめっちゃ好きだったり、待ちきれないって人とかな」

「そうそう。あの子も昔こっそり1人で魔法の練習やっててさぁ……それで1回ぶっ倒れた時は、流石に親から怒られてたよ」

「ぶっ倒れた!?」



 なにそれ怖い、一体なにしたら魔法の練習で倒れちゃうの。絶対に1人で魔法使わせたくないタイプだけど、とりあえず陽太の言葉は有力過ぎる情報だ。



「まぁつまり、今回も多分……」

「咲来は魔法を試す時、絶対1人になりたがる。タイミングは放課後だな!」

「おぉぉぉ~~っ!」



 授業終了を目前にして答えに辿り着いちゃった。それが見つかれば事前準備はカンペキ、そうとなれば私のやるべき事はひとつだけだ。



「ありがとう2人とも! よーっし、私今日からあの子をこっそり観察しようと思う!」

「目の前で堂々と『貴方の家族を観察します』って宣言されるの面白いね。俺も今度あの子に言ってみようかな?」

「輝、お前ホントそういう所だぞ……」



 2人に感謝の気持ちを伝えると、明るい笑顔で「どういたしまして」と返してくれた。輝と陽太って本当に良い人だ。途中で輝からちょ~っと黒い発言が見え隠れしてた気がするけど、まぁそれはスルーしよう!

 とにかく、まずはこっそり見張り……じゃなくて、花柳さんを観察する事にした。気付かれて嫌われない事を心の中で静かに願いながら。











 

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