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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
序章 光魔法の聖女様
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✤ 第1話(前編):春の訪れ






 小学1年生の夏休み明け――あの日の私は、まだ魔法を知らなかった。それでもあの日、私は自分の力で友達を泣かせてしまったの。

 相手はすごく仲のいい女の子。私と同じ色が好きで話も合う、とにかく大好きな友達だった。好きだから……これからもずっと一緒だと、勝手に勘違いしてたんだ。



「私、あんまりそう言うのは好きじゃなくて……」

「なーちゃんって、そんな感じだったっけ」

「え?」

「だって、人気者でカッコよくて、何でもいいよ~って言ってくれるのがなーちゃんだったもん。こんなの、私が好きななーちゃんじゃないよ……」



 仲良くなればなる程に、あの子の中のイメージにある〝なーちゃん〟と、実際の私はかけ離れていた。愚痴や相談を話したり、本気で何かに怒ったり、弱い姿を見せたり……そう言うのが、すごく変に見えたんだと思う。イメージとは違うから。



「ご、ごめん。私、またまちがえてたよね。今度はちゃんとするから!」

「ううん、もういいの……一緒にいるのも、友達もやめようよ」



 小学1年生なんだし、こんな喧嘩や絶交なんてきっとよくある事だよね。イメージ通りの私じゃないのが変で気持ち悪くて……それで嫌になった。簡単な話。



「……え、なん……いや、」



 そんな簡単な話だったとしても、あの時の私には……それが、すごく辛かった。あの子との関係を、私がおかしいせいで壊したから。目元から涙がこぼれ落ちた時、突然教室の窓ガラスが不自然に割れて行った。



「キャーッ!?」


 

 浅くなる息と涙が止まらない。

 身体がチクチクと痛い。

 自分がどうなっているか分からない。

 ただ、怖かった事だけは覚えてて。


 女の子の悲鳴と一緒に、私の記憶は途切れていた。




 *




 あの頃小1だった私は、もう小3。あの子とは一度も話してない。でも、別に喧嘩してるとかじゃない。だって今の私は、誰とでも普通に話せるから。

 明るくてずっと笑ってて、愚痴のひとつも言わない学年の人気者。運動が得意で勉強が苦手で、お調子者だけど能天気。それが、みんなの好きな〝なーちゃん〟だ。



「わぁ~っ、スゴいなーちゃんっ♪」

「完璧なシュート決めちゃうなんて、ホントカッコイイ!」

「また春風(はるかぜ)に負けた……お前ホント体育強すぎじゃね?」

「そーれなぁ〜、勝てねぇよまじで〜」



 私は〝なーちゃん〟という人を演じ続けることで、やっと居場所を守っている。でも、本当の私は誰にも知られていない。知られたら、また壊れてしまう。

 みんなが求める私でいれば、絶対に笑顔が返ってくる。そのせいか、こんな仮面を付けるのがいつからか当たり前になっていた。



「はやく次の試合しよーよ。ね、先生!」

「そうだね。春風に集まるのはそれくらいにして、次の試合するよー!」



 こうしていれば、みんな喜ぶ。

 ずーっと誰にも嫌われないで済む。


 ――でも、本当の私はずっと閉じ込められたままだ。




「赤信号だから待ってるんだよ、皆」

「はーい!」

 


 春の陽気に包まれた通学路。桜のつぼみが風に揺れて、ランドセルの列が信号を待つ……そんな普通の景色。数年前の私はこれが当たり前だと思っていた。



「ねぇ、昨日のアニメ見た? 今回もかっこよかったね、魔法少女!」

「うん、すごかったね!」

「悪い敵をかっこよくやっつけるなんてすごい! それにすっごく可愛いし……あ〜私もなれたらなぁ~」

「あはは、君が変身したら可愛すぎるよ。敵もすぐ浄化されちゃうって」

「ホントにぃ~?」



 そんな他愛のない話をしているうちに、赤く光っていた信号が青に変わった。交通指導員のおじちゃんが黄色い旗を手にしながら横断歩道に立つと、小さな軍団は一斉に道を歩いていく。少し前に居る男子は、白線以外を踏んだら負けゲームをしているみたいだ。

 彼らへ着いていくように足を進めながら、私はふと口を開いた。



「ねぇ。魔法使いって、本当にいるのかな?」

「えぇ~、まぁ居たらいいなって思うけど、現実じゃありえないでしょ!」

「あははっ、だよねぇ」



 大抵の人は「魔法使いがいたらいいな~」とは思っても、魔法を現実で信じている人は少ないんだろう。ただ、あって欲しいと願うだけ。

 本当に魔法があるだなんて思わない。だって〝思えない〟ようになっているから。

 


「4月からアニメが新シーズンで……って、なーちゃんは来月から転校だった! はぁ、やっぱり寂しいなぁ」

「あはは……ありがとう。私も寂しいよ」



 同級生との転校の話。こんな会話、もう何回も繰り返した気がする。やりたい事の為に居なくなる訳じゃない。本当は、行きたくなんてないのに。



「じゃあ私こっちだから……また明日ね」

「ばいばーい、また明日ぁ~!」



 クラスメイトに手を振って、私はマンションまでの道を歩いた。木に囲まれた10階建てのマンション。私の家があるのは、その最上階だ。



菜乃花(なのか)さん! あぁ、ちょうど良かった」

「あれ、貴方は……」



 エントランスに入ると、そこには見覚えのある顔。ビシッとスーツを着こなす、親ぐらいの年齢をした大人の男性が立っていた。

 彼は昔と同じように微笑んで、私に声をかける。



「こんにちは。暫く見ないうちに、すごく身長が伸びたんですね! あの時はまだ小学1年生でしたから、少しビックリしました……子どもの成長は早いですね」

 

「あ、えっと……昔の私、嫌な事いっぱい言っちゃいましたよね? ずっと謝りたかったんですけど、一度も家に来なかったから言えなくて。あの時はごめんなさい」

 

「謝る必要なんてありませんよ! 突然あんな話を聞いて取り乱すなと言う方が、それこそ失礼と言うものです」



 彼はそう言って、また目元を細めた。黄緑色の瞳は昔と全然変わらない。襟に付けられたブローチが太陽を反射してキラリと輝くと、手元に置いていたその荷物を私の方に差し出した。



「でも、これだけは絶対僕が直接渡したくて、急いで来させて貰いました」



 それは、白色の封筒をした手紙。金色で縁取られている装飾が、とっても綺麗。薔薇(バラ)みたいな赤色で封をしてるのは、確かシーリングスタンプってやつだ。

 スタンプの中心には、トランプに使われる4つのマークが描かれている。ハート()スペード()クラブ()ダイヤ()……これが書かれてる校章なんて、私はひとつしか知らない。だからそれを見ただけで、コレが何の手紙なのか分かってしまった。



春風(はるかぜ)菜乃花(なのか)さん。この度は、魔法学園へのご入学、おめでとうございます」



 魔法なんて、この世にない。


 なんて思ってるのは〝普通の人間〟だけだ。

 だって私は正真正銘、現代に生きる〝魔法使い〟なんだから。



 






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