✤ 第6話(中編):闇魔法師の友達
「やっぱり1人で食べる」
「えぇ~、約束したんだから破らないでよ咲来〜」
「鈴音の気持ちは分かってる……でもここは前と違うんだから、もっとちゃんと考えないと」
「でもでも、すずと私は同じクラスだし良いじゃんっ! ほら、今日のデザートもあげるからぁ~!!」
「確かに、りんは私と同じクラスだけど……」
花柳さんと同じ、黒いブレザーに黄緑色のネクタイをし️ている女の子2人。口を揃えて彼女の意見を反対すると、その反応に花柳さんは表情を変えずに黙りこくる。
でも、友達と一緒に来たのに何で1人で食べたいんだろう。私は1人でも良い派だけど、この子たちはみんなで一緒に食べたくて来たんじゃないのかな?
「じゃあ、せめて輝と陽太は別で食べてよ」
「えぇっずるいぞ咲来、すずとりんだけ良いのか!? 俺もみんなで食べたいのに~!!」
「そうだよ、可愛い妹に俺たちの寮部屋がいかに素晴らしかったか教えてあげたいのにな~。それに妹が嘘つきなんてオレカナシ〜ィ」
「…………はぁ。分かったよ、一緒に食べる」
いや、この子全員の意見を全く断れていない。多分これほぼ強制だ! 私もお姉ちゃんと湊斗に何だかんだ付き合って、夜更かしして怒られる〜とか良くやってたから、ちょっと親近感湧く!
そんな事を考えていると、花柳さんは輝の方を少し睨みながら言葉を返した。
「て言うか、こういう時だけ妹扱いしないでっていつも言ってるでしょ。後言い方が鼻につく」
「え~酷いなぁ、俺が先に生まれたのは事実なのに」
「じゃあ都合が悪くなると姉扱いするのを辞めて下さい、お兄様」
「さすが輝。いついかなる時でも、咲来に怒られる為の行動をしてるんだな!」
「うん、全然違うよ陽太。俺は怒られるのが大好きなビックリ人間じゃないからね」
そう淡々と弁明している姿か少し面白くて、つい笑いそうになってしまった。あの2人も兄妹喧嘩……双子喧嘩とかするんだ。
でも、折角同じ学校に居るなら友達と一緒に食べたいなんて普通だよね。1人は家族だし、他の子も入学前から仲良しだったみたいだもん。周りの視線なんて気にしなければ良いのに……って、聖女様って言葉を気にしてる私が言えた事じゃないんだけど。
ただ、白と黒の制服が混ざって行動してるのは少し目立つ。きっと、入学したばかりで寮別で行動しがちな1年生の多い場所だからだ。それが気になるのか、周りからはボソボソと話し声が飛んでいた。どうやら私の『気にしないで一緒に食べれば良い』と言う意見とは違うらしく、5人が一緒に居ることをあまり良く思ってないらしい。
ふと視線を横に向けると、四葉さんも少し苦い表情を浮かべている。私は、どうして四葉さんまでそんな顔をしているのか……その理由までは深く考えなかった。それ以上知るのは、怖いから。
「ねぇ」
そう思っていた矢先、突然目の前に影が現れる。その先へ目をやると、そこには白寮のブレザーを着た人。昨日見かけなかった顔触れだから、多分この人たちは先輩だ。
サァッと、食堂の空気が冷たくなった気がする。その予感は当たって欲しくなかったけれど。
「貴方たち、なんで闇魔法師と一緒に居るの? 一緒に居たら、先代の聖女様みたいに殺されちゃうかもしれないのに……」
突然、5人に向かってそんな言葉が投げかけられたのだ。食堂内のざわつきが少しばかり落ち着いて、みんながこっちへ耳を傾け始めたのがわかる。
脈絡もなくそう告げられた彼らは、すこし驚いたような表情で先輩たちを見た。少しずつ足をずらしては、花柳さんを守るように周囲からの視線を隠して。でも、私には目の前に居るせいで見えてしまったんだ。髪に隠れたその隙間から少しだけ顔を俯かせて……魔法駅での別れ際と、同じような表情をする彼女が。
「うちの親が言ってたの、闇魔法師は怖いんだって。だからそんな近くに居たら貴方たちも危ないでしょ?」
「私の親も、私が小さい頃からそう言ってるわ」
「先代聖女様だって闇魔法師が身近に居たんだろ。今だって……」
「クラスメイトとか同期でも、危ないことに代わりないじゃん!」
彼らは何の悪びれもなくそんな言葉を放っている。でも、私には信じられない光景だった。魔法使いには普通なのかもしれないけど、私には全然分からない。
まるで、授業中先生に手を挙げて質問をするかのように、至極当然かのように、この人たちは5人にそんな言葉を言ってのけたんだ。いや、花柳さん以外の〝4人〟だけに言ったのかもしれない。
その言葉に続くように「そうだよ……」「死んじゃうかもしれないんだよ?」と、先輩たちは各々に好き放題な言葉を放つ。そう、彼らは純粋にみんなを心配しているんだ。悪意なんて、もしかしたら1ミリも無いのかもしれない。でも、私には最低な悪意の塊にしか見えなかった。
先代聖女様の事件が悲しいのは分かってる。でも私の前でそれを言うってことは、遠回しに「私を殺す人」だって言ってる事になる。そんなの、善意を塗りつけただけの刃物と同じだ。
あぁ……すごく嫌な空気。胸がチクチク痛くなって来る。この中で1番怖いのは、誰も止めることが出来ないこの考え方だ。
私はずっと人間世界で家族と一緒に居た訳だし、家族もみんな〝普通の人間〟だったし……そう言う魔法がうんたらみたいな感覚がみんなより無いんだろう。でもこんな事言っちゃ良くないのは分かってる。お前は人を殺すんだーなんて、簡単に言うような言葉じゃない。
だってあの子は、先代聖女様を殺した闇魔法師じゃない。魔法学園の1年生〝花柳咲来〟さんなんだから。
「……それ、本気で言ってるんですか」
さっきはあんなに朗らかだったのに、今は1ミリも笑みのない表情で輝が声を出す。そりゃ怒って当然だ、自分の家族がそんな風に言われれば誰だって怒るもん。
奥の方で多分こっちの音が聞こえていなさそうだったけど、こちらの様子に気付いたみたいだ。調理をしてる大人たちが、こぞって仲裁に出ようと前へ出ていくように見えた。
でも、大人が仲裁に入るよりも先に、別の声が耳へ飛んで来たんだ。
「ふふっ」
守られるように立っていた花柳さんが一歩踏み出し、先輩たちの目の前に体を差し出してクスッと笑った。さっき俯いていたあの表情が、全部嘘だったみたいに。
大食堂に居合わせている人たちは、彼女の笑い声に吸い込まれるように一斉に視線を向ける。これは、昨日彼女が代表挨拶をした時と同じ雰囲気だ。
「先輩、良く考えてみてください。こーんなに人の多い学園で、わざわざ友人を殺す様な人なんて居ますか? それに私にには、人を殺す理由なんてありませんよ」
年上を目の前にしていると言うのに、彼女の表情は堂々としたものだった。それどころか、少し小馬鹿にしたような雰囲気まである。昨日から硬い表情しか見なかった私にとって、彼女の態度は新鮮な姿だった。
うんうん。こう言う意味のわからない事言う人には、ちゃんと言い返した方が絶対良いよ! なんて、私は心の中で野次を飛ばしながら会話を聞き続ける。
「うちの親はそうやって言ってて、」
「そうですね。先輩方は古き良き〝光の家門〟出身ですから、当然の教育方針です。だからと言って、2年生にもなって学園でその思考を振り回すのは……流石にどうかと思いますけど」
「だって怖いよ! 闇魔法って危ないんでしょ? 何で同じ学校に居られるのかも分かんない!」
一瞬だけ、目を逸らしながら眉を困ったように下げた。その後直ぐに目を閉じて、一呼吸置いてからまた口を開く。
「……私のせいで怖い思いをさせている事は謝ります。ですが、魔法は誰かを守る為の力。私は、絶対誰も傷つけたりしません。悲劇は二度と繰り返しません。だから、私の事で友人や家族を無駄な争いに巻き込むのは……もう辞めて下さい」
そう告げて、彼女の目つきはキツくなる。煽るように笑っていたのは普通の真顔に戻ったけど、瞳の奥には怒りがあるような気がした。少なくとも、私にはそう見える。
すると彼女は、先輩たちをじわじわ追い詰めて行くように言葉を続けて行く。
「もしまた同じような事があったら、次はどうしましょうか。父や母に頼らずとも、私は皆さんの保護者に直接お話することだって出来るんですよ」
「なん……」
「そうですねぇ、先輩方が〝花柳〟とその友人に喧嘩を売っている、とでも伝えましょうか。友人たちを困らせるぐらいなら、私は一切躊躇しませんけど」
「ッ、それはダメ!」
「もう絶対に言わないよ、ごめんなさい!」
「……そうですか。ちゃんと分かって下さって、本当に良かったです」
花柳さんの言葉を聞いた途端、先輩たちは急に青ざめる。彼らは唾を飲み込む音も聞こえそうなぐらい静かになり、それ以上は何も言わなかった。
なんで怖がってるのかは分からないけど、親に連絡しますとか言われたら誰だって怖いかな? 私も成績が悪いのを自分で言う前に先生に電話されたら……うん、確かに恐ろしい。
そんなことを考えていると「うわーぁ」と呟く四葉さんと、その呆れた表情。彼女の反応に私がハテナを浮かべていると、四葉さんがこっそりと耳うちで教えてくれた。
「あの5人は名家って言われる家門の子たちでね。簡単に言うと〝魔法世界を繁栄させた社長家系〟みたいな感じ?」
「そんな凄い家の人だったの!?」
「うん。特に花柳家は一番古くから続く名字で、どんな人でも知ってるぐらい影響力がすごいんだよ。そんな人に喧嘩売るのは、かなりヤバい」
「なるほど、そりゃ顔も青くなるや……」
花柳さんの敬語って何となく圧あるし、私もあんな口調で後輩に言われたらそれだけでビビると思う。先輩たちがそれ以上何も言わなくなると、花柳さんはまた少し顔を伏せていた。そんな彼女の腕を、輝がぐっと後ろに引っ張る。
「申し訳ないですけど、俺らは誰とも離れるとか絶対無いんで。外野から何言われても関係ありません」
輝がそう言うと、陽太はニコニコとしながら朝ご飯を手に持ち、先輩たちに言葉を返す。
「じゃあ俺たちもう行きますね、さよなら先輩!」
「うわっ。りん、急に背中押さないでよ……」
「だって早くしないと、みんな遅刻しちゃうもんっ!」
「そうそう、早く向こう行こ〜」
女子2人は花柳さんにも朝ごはんを持つように促すと、みんなまとめて離れて行ってしまった。先輩たちは大人に諭されて少し反省している様子。個人的には、みんながあまりにスパッと言い切るもんだから、結構スカッとした気持ちになっていた。
その間も、私の目はずっと彼女を追いかけている。この目線にどんな気持ちがあるのか分からないけど……友達の為にあんな風に笑える強さに、私はただ憧れた。




