✧ 68.5話:笑って欲しい(稲山りん)
最近、咲来の様子が変。
「ねぇ咲来、ぼーっとしてどうしたのーっ!」
「あ、ごめん。なんでもない」
「次移動教室だから、理科の実験行こ〜」
「そうだね、もう行こうか」
なんでもない。そんな言い訳を、私は今まで何回聞いたかなぁ。
私は咲来とすずの事が大好きだし、輝と陽太の事も大好き。だからずっと笑顔で楽しく過ごしていて欲しいけど、そう上手くは行かないみたい。
別に今だけの事じゃなくて、咲来はよく暗い顔をする。昔は幼馴染がみんなそういう時期もあったけど、今もそんな顔をしてるのは咲来だけ。最近の悩みは……爆発事故の事とかかな。よくぼーっとするようになったのはあの日からだから。それに、昨日の放課後に委員会を終わらせて帰って来てからは更に変。
それは、体育祭前でへばってるってだけの態度じゃなかった。
「理科の実験楽しみだね〜」
「鈴音って、結構実験好きだよね」
「うん。陽太も好きって言ってたよ?」
「陽太は前の小学校の時、それこそ遠足みたいにはしゃいでたからなぁ」
「懐かしい……クラス違うからもう見れないもんね」
いつも咲来は、隣で一緒に歩いてるのに自分だけ一歩下がってるような……そんな感じ。咲来は私たちと一緒に居たがらない。嫌いだからじゃなくて、好きだから居たがらない。咲来は自分の事を、私たちのを傷つける悪い子だと思ってるから。
今だってそう。すずと咲来と私で歩いてるのに、咲来の気持ちだけはまだ教室に居るみたい。
「そう言えば今日のお昼ご飯、デザートにミニチーズタルトあるんだって! 私のやつ、咲来に分けてあげるっ!」
「え、いいよ。自分で食べて」
「何となく、今日はしょっぱい物の気分なんだよ〜」
私がそう伝えると、咲来は素直に「じゃあ、まぁ……ありがとう」とお礼を言ってくれた。胸がポカポカ暖かくなって、私は「いいのいいの!」と明るく返す。そんな様子に、すずも微笑んでて。この光景が、私は大好き。
ねぇ咲来、いつも咲来は私たちに悩みを話さないよね。それが、前の小学校に居た時は悲しい時もあったんだ。折角友達になれたのに、私は悲しい思いをしてる友達に何も出来ないんだから。
でも、それは双子な輝も同じだった。私と一緒に出会った陽太とすずも同じ、咲来は優しいから誰にも話そうとしない。優しいから、自分1人で傷ついて終わろうとしちゃうんだよね。
私はちゃんと分かってるよ。誰にも言った事無いけど、小学1年生の頃に咲来が泣いてる所を見た事があるの。その隣には、輝も座ってた。
『最近泣いてなかったのに、どうしたの?』
『……』
『嫌な事されたなら、俺が怒るよ!』
『……違うの。私ね、また上手く出来なかった。りんちゃんが、折角楽しくお話してくれたのに……どうしても話すのが怖くて、どうしたら良いか分からなくて。ねぇ輝、私の魔法、誰にも痛いって思わせたりしてないよね』
『大丈夫だよ。咲来の魔法は普通だし、誰も傷つけないって。咲来にそんな事出来るわけないじゃん』
『そう、だよね……絶対、そうだよね』
あの時は知らなかったけど、小5になった今なら分かるの。咲来は闇の魔力があるから、私たちと話すのが怖かったんだって。
「……どうしたの?」
「ううん、早くお昼食べたいなーって。ねぇすず?」
「そうだね。あと1時間頑張ろ〜」
「おーっ!」
今の咲来は、自分の魔力をどう思っているんだろう。魔力のせいで、私たちから離れようとしてたの? 私は本人に聞かないし、無理やり話して欲しいとも思わない。それでも1人で抱え込まないで欲しいって思っちゃうんだから、やっぱり私はワガママな子なのかも。
『……あのね。私、この人と相棒契約したの』
懐かしいな、もうあれも1年前になっちゃうね。春ちゃんと相棒契約したって聞いた時、本当に嬉しかったんだよ。だって、私たち以外とあんな風に喋ってる所なんて初めて見れたんだから。段々春ちゃんへの敬語も無くなって、他の同級生とも喋るようになって。最近は春ちゃんとライバルにもなっちゃって、学園で笑ってる日も増えた気がする。
きっと咲来にも、困った時に頼れる人が出来たんだよね。好きだから言えない〝家族や私たち〟じゃなくて、誰にも言えないような事も相談出来るような相手。
私は幼馴染の事が大好きだし、出来るなら私が相談相手になりたかった。お手伝い出来るならなんだってしたかった。でも、ちょっぴり悔しいけど、私にそれは無理だから。
大好きだから、ずっと笑ってて欲しい。でも、これをみんなに直接言ったら恥ずかしがるかもしれないから……だから、私はこうやって態度で伝えるの。私が笑ってるとみんなも笑顔になってくれるし、とっても心がポカポカになって、私も幸せな気持ちになれるの。
「ねぇ、私のタルトもあげよっか」
「鈴音がそれ言い出すと、だいたい最後は5人分が私に回ってくるんだけど」
「あははっ、咲来ってば愛されてる〜っ!」
「もう……りんまで茶化さないでよ」
今の悩みも、昔から続いてる悩みも……全部全部、咲来の中から晴れて無くなってくれますよーに!




