✤ 第63話(中編):何かの弾ける音
「よろしくお願いします、秦野先輩」
「ぐぅっ! 先輩、なんで良い響きなの……」
無事に体育委員の一員となった私は、運動会で招集係をする事になった。次の競技をやる人を集めて、数字の旗を持ったりビブスやバトンを持って行ったり。やりたい所が無かった私は「どこでも行けます」と伝えたので、最終的に2年生が居ない係へ混ざったんだけど……お辞儀をして挨拶をすると、起き上がり際に肩をがっしり掴まれた。
「ねぇねぇ。私も菜乃花ちゃんって呼ぶから、貴女も良ければ愛奈って呼んで!」
「ハ、ハイッ愛奈先輩」
「きゃーっ! ちょっと聞いた帆高、心音!?」
「あぁ、ちゃんと聞いていたぞ」
「気持ちは分かるけど、そんなに騒いでたら菜乃花ちゃんが困っちゃうんじゃない?」
「そっか、ゴメンゴメン」
招集係の中には、さっき黒板の前で喋っていた委員長・ダイヤクラスの秦野愛奈先輩。その隣に居るのはスペードクラスの七海帆高先輩と、クラブクラスの蓮田心音先輩だ。2人も私に握手をすると、是非名前でと提案をしてくれた。私がそれに従って「帆高先輩、心音先輩」と呼んでみると、みんながニコニコと私に笑いかけていた。
どうやら先輩方は去年も体育委員をしていたらしく、この招集係も4年生の先輩と4人で一緒にやってたらしい。つまり慣れっ子の仲良しグループって事だ。
「あの……私、この中に入って大丈夫でしたか? 先輩たちと喋った事もないし……」
「えーっ全然、寧ろ助かったよ! 招集係って1番めんどいから、あんまりやりたがる人居ないの。だから、聞いた時やりたいって言ってくれて嬉しかったんだ。ありがとね菜乃花ちゃん!」
そんな中に私が混ざっても良いのかなぁ〜とは思ったけど、向こう的には大丈夫だったみたい。愛奈先輩のその言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。
と言っても、委員会の係決めの後は何をする訳でもない。まだ始業式の次の日だし、うちの学年も初めての委員会だから……って事で、残り数分は同じ係同士交流を深める時間になった。周りを見ると、みんな先輩と普通に会話をしている。私も何か話しかけようと、必死に頭の中で話題を思い浮かべていた。
「あっそう言えば……うちの学年のスペードクラスにも〝七海〟って子居ますけど、先輩はお兄さんなんですか?」
「その通りだ。七海は人魚の血を継いだ家門で、俺もその妖力を扱えるんだ」
「帆はお坊ちゃんだもんね〜。そーだ、プールで泳いでる時とかめっちゃ凄いの!」
愛奈先輩がそう告げると、心音先輩が「ほら、この動画」と言ってスマホを見せてくれた。その画面内では、人魚のヒレを生やしながら超速で泳ぐ帆高先輩の姿。到底子どもに出せるスピードじゃなくて、正直楽しそうで羨ましい。
前に聞いた時は凄くビックリしたけど、御先祖に妖怪が居る人は結構居るみたい。鈴音ちゃんは狐って聞いたけど、先輩は人魚……私が知らないだけで他にもいっぱい居るんだよね。流石日本の魔法学園、3分の1は妖怪学園って名乗れそう。
「心音もね、お菓子作りがすっごく上手なんだよ」
「へぇ〜、凄いです心音先輩!」
「お菓子が欲しくなったらいつでも教室に来てね、先輩の分以外にも沢山作ってるから」
「あっ……でも私、甘いもの苦手で……」
「大丈夫だよ。しょっぱ味にすっぱ味・激辛なんかも作ってるから♪」
「絶ッ対貰いに行きます!」
意外と話が盛り上がってくれて、自分のコミュ力に深く感謝した。お陰でこの時間を最後まで乗り切れそうだ。
「あ〜、お菓子楽しみ――」
私がそう言葉を放った瞬間、ドゴンっと大きな音が地面に響いた。一瞬地震かと思ったけど、多分そういう感じじゃない。とにかく、すぐ近くの教室で起きた爆発音って事は分かる。
時間が止まったかのように、時計の秒針が動く音だけ耳に残る。先輩たちの笑い声も全て凍りついた。その後直ぐに鳴る学園のチャイムは、さっきまで賑やかだったハズの教室で虚しく響いている。
「先生がちょっと見てくるから、みんなは動かないで!」
ドアの端にいた私たちは、そこから顔を覗かせながら先生の走った方向を見ていた。そこの教室は、確か図書委員の集まる場所。そのドアからは、軽く煙が出て来ていた。水魔法師の先生が何もしてないから、火事では無いみたいだけど。
微かに聞こえる先生の問いかける声を、私は少しずつ耳に拾い上げた。
「――はな、ぎさんが――ケガ――丈夫ですか?」
私の耳には、その言葉が相棒の名前に聞こえた。それで思い出したんだ、彼女が希望していた委員会の名前を。
「……っ!」
「えぇちょっ、待って菜乃花ちゃん!」
そうだ、花柳は図書委員をやるって言ってた。て事はあそこには花柳が居て、ケガがうんたらって先生が聞いてて……あぁどうしよう、もし花柳が大きな怪我をしていたら私、だって治癒魔法も出来ないダメな光魔法師なのに!
こんな短距離の廊下なんて走らなくても着くのに、私は急いで足を動かした。心臓が早く動くのが痛くて、変な汗が出そうになる。足が震えかけるのを、私は必死に我慢した。
「教室から出て来たんですか?!」
「ゴメンなさい、心配だったんです!」
息が苦しいのを無視して、私は慌てる先生の横から教室の中を覗き込んだ。
「春風?」
「はなやぎ……」
その教室の中で地面に落ちているのは、黒すすになった何かの切れ端。煙の浮かぶその奥からは、杖を構える人の影。誰かを庇うように抱きながら緑色の魔法を放っているのは、私の相棒だった。




