✿ 第4話(中編):私の事を知る人
3人は私たちにとって、唯一友達と言える仲の魔法使い。私はそんな相手だからこそ、嘘を付きながら一緒居ることが嫌になった。誠実で、純粋で、真っ直ぐな心を持っている。そんな彼らに入学まで隠し続ける事が、段々耐えられなくなって――
『私、闇魔法師なの』
なんでもない日の、ランドセルを背負って歩く帰り道。左腕をギュッと握りしめながら、私はそう呟いた。家の方へと繋がる大門までの木陰で、みんなは唖然とした表情で固まっていて。
やっぱり言わなければ良かったと、直ぐに後悔した。
神様と崇める人も居るくらい崇拝されている人を、殺めたと言われる人物。そんな人と同じ魔法を使える人がずっとそばに居たなんて、きっと怖いに決まってるから。
『咲来、ほんとうに闇魔法師なの?』
一瞬の沈黙の後、りんが目を丸くしてそう言った。でも、私が「そうだ」と言う為に口を開こうとした……次の瞬間。
『えーっ! じゃあ、難しい闇魔法でも咲来はしゅしゅ~って直ぐに使えちゃうってコト!? めっちゃカッコイイ~っ!!』
返って来たのは、想像してたのとは全く違う反応だった。
『ちょ、りん! そんな叫んだら誰かに聞かれるぞ?!』
『大丈夫だよっ、向こうに帰る木の道なんて私たちくらいしか居ないもん~っ♪』
陽太が慌ててりんをなだめると、鈴音は彼らの様子を見て微笑みながらそっと呟く。
『でも、りんが叫びたくなる気持ち分かるなぁ。生きてる間に本物の闇魔法師が見れるなんて思ってなかったから。咲来はいつも何でも頑張ってるし、なんか納得しちゃう』
『そうだよな、俺らが遊んでる間も自分から勉強してんだから。でも同じ適性が周りに居ないって心細いよな……もしも困った事があったら、俺たちに遠慮なく言うんだぞ?』
『うんうん! 私たちはいつでも咲来の力になるよ、だって咲来は友達だもんっ!』
3人は各々投げるその言葉は、全てが私を肯定してくれる言葉だった。それどころか、純粋な気持ちが目からキラキラと零れ落ちるばかり。微塵も嫌悪を感じさせないその反応は、私の肩に乗っていた不安感を全て吹き飛ばすのに充分過ぎる内容だった。
『っぷ、あははっ、ははっ!』
『何がそんなに面白いの』
『だって咲来、すっごい困った雰囲気出してるんだもん。ほんと、相変わらず分かりやすいよね!』
『分かりやすくない』
『いーや分かりやすいね。双子の目は誤魔化せな〜いっ』
予想外すぎる反応と、3人のマシンガントークに狼狽えている私を見て、輝はお腹を抱えながら大口開けて笑っていた。面白いものを見るような、安心しているような……そんな表情を浮かべて。
けれど、友人に打ち明けた所で私の境遇が変わったわけじゃないし、学園ではさぞ噂の的になるだろう。自分のせいで家族や友人が面倒事に巻き込まれるなんて、そんなの絶対にあってはならない。
だから私は入学するまでこの魔力を世間に隠してたし、実際に幼馴染に伝えたのもほんの数ヶ月前の話。こんなの自分勝手な事だって分かってる。それなのに「魔力を隠したい」「幼馴染だけには伝えたい」と言っても、私の家族は何も否定をしなかった。
でも、私の考えていた事を一度だけ否定された事がある。
『俺は学園に行っても、咲来と今まで通りでいたいんだけど』
『……急に何?』
『いや、入学通知の手紙見てたら何となく思っただけだけど……咲来、俺たちと全く関わらないとか言う極端な事は、しようとしてないよね?』
ある日突然輝にそう言われた時、私は酷く動揺した。だって学園に行った瞬間から、友人や家族には近づかないようにしようと思ってた。輝の言葉は図星だったから。
私と一緒に居るせいでみんなが何か言われるぐらいなら、離れた方がみんなが嫌な思いをしなくて済む……そう考えるのは普通の事だ。
『どうして? きっと私たち、クラスも寮も違うのに』
何も気にしていないみたいに聞き返した。
我ながら冷たい言い返しだと思う。嫌われて当然の言葉選びだ。だけどもう、今後もこの言い回しは癖付いて変えられないんだろう。だって私は大切な人たちに、嫌われたいようなものだから。
『別にそんなの関係ないよ、だって双子で家族だよ? しかも、俺は一応お兄ちゃん』
『それは、まぁそうだけど』
家族なのは関係ないとか、それでもクラスや寮は違うとか、いくらでも言い返せた。今ではそう思うけど、その時の私はそれ以上何も言わない。ただ左腕を握りしめていると、黙っている私より先に輝が言葉を放った。
『それに、俺だけじゃない』
『……え?』
『ずっと一緒にいたいな〜って思ってるよ。りんも、鈴音も、陽太も、もちろん俺も』
逃げようと思った。適当に誤魔化して「私は1人で居る」と言ってしまおうって。でも、みんなは許してくれないし、きっと学園に行っても関わろうとしてくる。私が闇魔法師だと知っても、笑って肯定してくれた人たちだから。
それじゃあ、どうすればみんなが傷つかないで済むの?
『咲来も、俺たちと同じ気持ち?』
あの時「違う」と言えば楽になれるはずだったし、何度も本気で否定すれば良かった。でも……否定の言葉は浮かぶのに、少しも声が出なかった。唇がちっとも動かなくて、ただ少し喉が熱いだけ。
肯定を促すように優しく笑いかける輝に、私は何も言い返さない。言い返す事が出来なかった。
✿
「あっ、落っこちちゃった」
私は輝に反論できない自分の弱さが嫌だ。あの時否定していれば……なんて今でも思う。だから、この選択をして良かったと思える様に生きて行かなくちゃいけないんだ。
連打の勝負に負け、ゲームオーバーで落ち込んでいる輝。私は双子へからかう様に「連打弱すぎ」と軽口を叩く。そんなからかいに対して輝は「酷いなぁ~」と言いながらも、実際には悔しさなんて1ミリも感じてないみたいに、とても楽しそうな笑顔を浮かべていた。




