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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 魔法学園1年生 ✧ 小4
109/122

✤ 第45話(前編):あの子って誰?








「人間世界で魔法を使うのが校則違反っていうのは、一応分かってるよね? しかも、2回も履歴が残ってる」

「ハ、ハイ……ゴメンなさい、東郷(とうごう)先生……」



 三学期の初っ端から、私は担任の先生と魔法の先生に呼び出されている。すっかり忘れていたけど、理由は八雲(やくも)先生に言われた時に思い出した。

 花柳とクリスマスに会えたのも、その原因は私の魔法で私たちのクローゼットが繋がったのがきっかけ。だけど、それは人間世界で魔法を使った――つまり『校則違反』をしたって事!

 強制的に校則違反がバレてる私に、これから逃れる術はない。

 私が先生に素直に謝罪をすると、東郷(とうごう)先生はうーんと少し考えて腕組みをした。



「まぁ、春風(はるかぜ)は特殊なケースだからなぁ……他の生徒は家で使えるのに、春風だけ使えない条件なのは不便だったよな。でもこれはルールだから、申し訳ないけど今後は気をつけてくれよ?」

「流石我らがハート()クラスの担任様、お優しい……!!」


 

 東郷先生って、ドラマとかで見る〝THE・面倒見のいいお兄さん系体育教師〟みたい。私の事もだけど、クラスメイトの事もいつもよく見てるし頼れる理想の先生って感じ!

 呑気にそんな事を考えていると、八雲先生が少し笑いながら私に問いかけた。それは、核心をついた質問だ。



「因みに、どんな魔法を使ったかは分かるか?」

「……えっと、空間を繋げる魔法……です」

「空間!?」

「魔法世界の知らない場所と間違えてくっ付けちゃったんですけど、後からちゃんと消す魔法をやったので……多分、もう残ってないです」

「なるほどな……それで使用履歴が2回だったのか。魔法を作った時と、消した時」



 私の言葉を聞いた途端、東郷先生は大声を上げた。

 花柳から聞いたけど、この手の魔法は先代の聖君様や聖女様でも苦労する魔法らしい。魔法駅ほどの大きさでは無いにしろ、そんな魔法を使ってもピンピンしていた私は本気で謎過ぎる……って。

 流石に「花柳の部屋のクローゼットに繋がりました!」とは言えないので、そこだけは嘘をつかせて頂くけど。ちょっとだけ心が痛い。

 

 東郷先生は直ぐに咳払いをすると、私へ立て続けに質問をした。



「えっと、因みにわざと?」

「誓って違います!! 最初は何となく杖持って呟いたら、たまたま魔法が出来ちゃって……後から消せないかなと思って試したら消えました!!」

「そう言う時は、今度から学校か大人か誰かに相談してくれ。東郷先生でも、私でもいいから」

「ハイ、スミマセン……今度からは気をつけます!」







「――ってワケ!」

「ちゃんと誤魔化せたんだ」

「うん。君が言った通り〝魔法で空間を作った先〟だけ言い変えて、後は本当の事言っといた」



 先生に呼び出された後、私は第1棟に足を運んでいた。つまり今日は水曜日……久しぶりに花柳(はなやぎ)と2人で会える、とーっても大切な日だ。



「あっ、そう言えば伝えるの忘れてたんだけどさ。先代聖女様……昼間(ひるま)さんの日記で気になることがあったんだよね」

「気になること?」



 私がそう呟くと、花柳は二大魔法について書かれた本に栞を挟み、体ごと私の方へ向き直った。



「うん。昼間さんの日記で〝あの子〟っていっぱい書いてあったじゃん」

「あぁ、あったね。えっと……〝あの子は今日も昔のように笑ってくれなかった〟とか〝あの子は昔のあの笑顔も何もかも忘れてると思ってる〟とか」

「そう、ソレ!」



 私が思わず指をさすと、スマホにメモされた聖女様の日記を読み上げていた花柳は肩をすくめ、目をパチパチと瞬きさせる。



「その〝あの子〟って人、多分仲良しな人でしょ? だからそれが誰か分かれば、昼間さんの事もっと知れるんじゃないかなって。それに、昼間さんを知るのは私たちの謎にも手掛かりになる気がするんだよ」



 もしその人が誰か分かれば、彼女が抱えてた辛さも分かるかもしれない。あんなに優しい言葉を私に遺してくれた人が、どんな人だったのか……それを、ちゃんと知りたい。

 


「……確かに、凄く大切な人みたいだもんね」



 そう言って少し微笑むと、花柳(はなやぎ)は突然立ち上がって本をカバンに仕舞い始めた。カバンの中で本が擦れ合う音が、静かな教室の中で少しだけ響く。

 まるで今からもう戻るみたいなその様子に、私は慌てて声を投げた。



「まだ明るいのに、もう寮帰るの?」

「帰るわけじゃない。今の時間なら小学棟は入っても校則違反じゃないし、良い機会だから昼間さんの情報を集めようと思って」

「集めるったって、どーするの」

「そんなの手分けして探すに決まってるでしょ」

「えっ一緒にじゃないの〜!?」

「魔法を試すのは一緒がいいけど、情報を集めるのは2人別々の方が効率良くない? それに、今は人がいっぱい居るじゃん」



 折角冬休み明けですぐ放課後に会えたのに〜!

 

 でも、話を始めたのは私だもんね。気になるものは気になるし、こう言う時は素直に従った方が良さそうだ。

 図書館は歴史的な本だけじゃなくて、学園が出版してる物も置かれてるらしい。卒業文集とか、アルバムとか、新聞や学級日誌、生徒が発行したもの……とか、そう言うのもまとめられてるんだとか。それを見れば、昼間さんの事分かるかも。



「でもさぁ、私が行ってたら不自然じゃない? 私全然行かないし」

「……私と話すために図書館でストーカーしてたんだから、別に平気じゃない?」



 この人、真っ黒なキラキラを飛び交わせながらお嬢様スマイルしてくる。その笑顔怖いからやめてくれないかな本当に!

 すかさず私が「人の黒歴史えぐるのやめてくれませんか!?」と言うと、彼女は「冗談」といつものポーカーフェイスで呟く。整え終えたカバンを肩にかけると、閃いたように私に言葉を投げる。



「でも、そうだなぁ……春風が調査をするなら、一番適任な人が身近に居るでしょ。自分の友達に、まずはお話を聞いてみたら?」







「そんな事言われても、千鶴(ちづる)がどこに居るかなんて知らないよ~」




 花柳が図書館に行ってから、もう数十分経っている。でも、千鶴に送ったメッセージは未だに既読になっていない。

 私が花柳と会う事が確定している水曜日と金曜日は、千鶴も誰かと遊んでたりする。そもそも1日中ずーっと一緒に居る訳でもないし、どうせ寮で会えるから何してるか把握とかしないしなぁ。確かに、先代聖女様(昼間)の話題なら千鶴はよく知ってそうだけど……。




「はぇ~、ここにもいない……」




 諦めて後で話聞こうかな。私は校内から千鶴を探す事を諦めて、寮に戻る道を歩いていた。花柳(はなやぎ)には「全然居ないから、部屋に居る時に話聞いてみるね」って送っとこう。これなら大丈夫なハズ!


 水曜日なのにこの時間にフラフラしているなんて、なんだか違和感がある。いつもなら第1棟にいるか……そもそも始業式だから暇してるだけで、本当は授業中の時間だ。

 部活をしている先輩たちの声が響いて、第1棟に居る時より賑やかに感じる。それぐらい外が明るいからか、マフラーも暑くて脱いでしまった。


 

「ん?」

 


 寮までの廊下を進んでいると、なんだか見覚えのあるハーフツインの髪型が目に入った。あれは……瀬戸島(せとじま)さんと、錦織(にしきおり)さんだ。遠目から見た感じ、恐らく先輩っぽい人と話してるらしい。

 そう言えばこの前、白朔(しらさく)神社で2人と会ったんだっけ。


『聖女様もちゃんと考えてくれないと、それじゃあ千鶴も困ってしまうわ。もうちょっと、2人して目立っている自覚を――』

『めーちゃんストーップ!』

『の、(のぞみ)……』


 正直、かなり気まずい。さっさと逃げちゃおうかな。

 そう思って私が一歩踏み出した瞬間、鋭い言葉が私の耳へと飛び込んだ。



「そんなの私たちには関係ないわ、ふざけないで!」

「めーちゃん! 私は大丈夫だって……」

(のぞみ)はそれで良いの!? この人、貴女の事を〝落ちこぼれの盲信者〟だなんて、バカにしてるのよ!」



 耳まで届いたその会話。ただ事ではない雰囲気が漂っている事に、私は直ぐ気が付いた。瀬戸島さんの声は震えて、手は握り締められている。あれはただ反発してるんじゃなくて、先輩に訴えかけてるんだ。



「だって本当の事じゃない。そんな魔法の才能で、聖女様にお傍に居られないわよ」

「盲信者の家に生まれたからって、特別扱いされる訳じゃない。むしろ、その肩書きで笑われることもある。先輩だって分かるでしょう」



 もしかして、盲信者コミュニティ的なやつだろうか。それなら私は、あの場に行かない方が良いだろう。私が出て行ってしまえば、もっと面倒な状況になる。

 だから私は、バレないようにその場を通り過ぎようと……そう思ってた、ハズだったんだけど。

 

 足は、そこで止まった。心臓の音はずっと焦ってるし、頭の中では「逃げた方が良いんじゃない?」って声が鳴り響いている。いつもの私なら、きっとそうしてたんだろう。



「……あの、すみません。クラスメイトを悪く言うのは辞めて貰えませんか?」


 

 それでも、私は「それは違うよ」と頭の中で言い返す。その警告とは反対に、私の体は3人の方へ動いていたのだ。








 

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