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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 不滅を誓うあの日の僕ら
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✤ 第43話(中編):大切な人と過ごす日に






 



「お母さん。私も少し外に出ても良いかな」

(ひかる)陽太(ようた)君の所に行くの?」

「ううん。向こうの園内に行こうかと思って」

「そうなの? ならいいけど、あんまり遅くなっちゃダメよ」

「ありがとう。じゃあ行ってくるね」



 ちょいちょいちょい、コレ本当に私の事見えてないんだよねー!?


 花柳のお(うち)の広さにまず驚いたのに……あろう事かこの人、お母さんの目の前で私と会話をしている。ホントもう勘弁して欲しい。心臓のバクバクがずっと止まらないんてすが!


 リビングにいたお母さんから離れて玄関に辿り着くと、花柳は地面に向かって人差し指を向けた。おそらく、靴を履くようにという合図だろう。私は左手にあった靴を地面に落とし両足を入れると、花柳はコートと同じ色の靴を履いて「行ってきまーす」と言いながら玄関の扉をゆっくりと開いた。


 ついつい止めていた息を大きく吸って吐くと、彼女は「声出しても聞こえないと思うけど」と言いながら、家の鍵をガチャっと閉める。

 向こうに私の声が聞こえない事、すっかり忘れていた……。



「急にお母さんの目の前に連れていくのが悪いんじゃん」

「家出る前に報告するのは普通の事でしょ」

「部屋でちょっと会えるだけで良かったのに、私を連れてくのが既にイレギュラーなのっ!」



 普段は厳しくて丁寧なのに、どうしてこういう時は少し雑になるんだろう。もしお母さんに見えていたら、不法侵入扱いになって怒られるかもしれないのに!

 

 しかし、私のそんな怒りも、辺りの景色が目に入った瞬間にすぅっとどこかへ消えてしまった。

 辺り一面に広がるイルミネーション。私の近くにある都会的な雰囲気や、魔法駅の少し和風で栄えている感じとはまた違う、特別な美しさがそこにはあった。



「花柳の家って、町を軽く見渡せちゃうじゃん!」



 例えるなら……そう、洋風だ。地面はレンガ模様の舗装が施され、建物も海外の雰囲気。まるで観光に来た気分だ。

 魔法駅を初めて見た時も思ったけど、この世界はどこを見ても街並み綺麗でが面白い。意外とこう言う自然的な風景の方が好みなのかな。



「あ、そうだ。行きたいところがあるんだっけ……ココを見るだけで、めっちゃ満足しちゃってた」

「うちの敷地だから、そんなに遠くはないけどね」



 そう言うと、花柳は光り輝く町の中を歩き出す。私は彼女の手に引かれ、追いかけるように足を進めた。

 地面はレンガ模様で、屋根の曲線や窓枠の装飾は海外みたいだ。木は青く煌めいていて、それぞれの建物には今日にちなんだイルミネーションが付いている。見ているだけでワクワクしちゃう。

 でも、そこでなんとなく違和感があった。クリスマスだと言うのに、人と全くすれ違わないのだ。



「……ねぇ、ここ人居無さすぎじゃない?」

「みんな魔法駅に行ってるんじゃない? クリスマスマーケットとか色々やってて、こっち(魔法世界)で1番盛り上がってるのはあそこ(魔法駅)だから」

「なるほど」



 そういえば、ハロウィンの時も魔法駅の周りは人でごった返していた。クリスマスもそんな感じなのか……いつか行ってみたいかも。


 周囲をキョロキョロと見渡しながら弾むように歩いていると、突然体が何かに激突した。どうやら花柳(はなやぎ)が歩くのを止めていたらしい。鼻を擦っていると、彼女は後ろに振り返ってムスッとした顔で口を開いた。



「転んじゃうから前見て歩いてよ」

「あははぁ、ごめんごめん」



 誤魔化すように笑いながら見上げると、そこには白い倉のような建物。彼女が静かに鍵を差し込むと、ガチャっと音が鳴り響いた。



「おぉぉ!」



 扉を開くその瞬間、赤い壁と地面が織り成す幻想的な空間が広がった。天井には星や丸の形をしたライトが吊るされ、キラキラと煌めく光。またどこか違う別世界に足を踏み入れたような感覚に、私は思わず息を呑んだ。



「なんかレッドカーペットみたーい! ここって何なの!?」

「この奥に部屋があるの。赤いのは、花柳が火の魔法に愛されてるからって御先祖様が……ライトはこの前、親がクリスマスだからって付けてた」

「へぇ~、じゃあ御先祖様が建てた場所なんだぁ……」



 彼女と一緒に足を進めると、壁には少しずつ人の顔が並びはじめた。多分この人たちは、花柳の御先祖様なのだろう。彼らの表情は穏やかで、どこか温かさを感じさせる。でも、中には厳しい表情の人もいて……長く続いてる由緒正しい家門なんだなぁと、改めて実感させられた。


 

「この扉開いてみて」

「いいの?」

「どうぞ」



 しばらく歩いているとまた現れる新しい扉。彼女に促されるように、私はドアノブに手をかけた。



「わぁ……」



 目の前には、色とりどりの花が絨毯のように広がっていた。どの花もとても綺麗で、簡単に私の心を奪う。天井は透明なガラスで、淡い月の光が優しく差し込んでいる。その光は柔らかく、花たちを包み込むように照らし出していた。

 なんて、美しい場所なんだろう。



「めっちゃ綺麗……しかもお花ごとに看板まであるじゃん! えーと、パンジー・シンビジウム・ノースポール……色々ある〜っ!」



 私がはしゃぐ様子に、花柳は穏やかな笑みを浮かべる。ついその表情に固まっていると、彼女は私の隣まで歩いてその場に座り込んだ。



「私、悩みがあったらよくここに来て……本を読みながら魔法を試してたの」

「そうなの?」

「うん」



 ゆっくり頷くと、暫くしてからまた口を開く。



「……ここでは1年中花が咲いてるから。花柳って名字をとある御先祖様が気に入ったみたいで、ずっと咲かせられる魔道具があるの。この景色を見るのが……私はすごく、好きだった」



 彼女はそう言いながら、そっと花を撫でた。何に悩んでここに来たのか、それは私に分からないけど……でも、この場所が大好きって気持ちは、初めて来た私にも十分伝わってくる。

 すると、花柳は突然顔を(うつむ)かせた。どうしたのかと覗いてみると、少しだけ目が泳いでいる。



「今日は、家族とか、愛している人と過ごす祝日だから……それってつまり、大切な人って事でしょ。だったら……た、大切な相棒に、地元で1番好きな場所を見せるのが良いのかな、と思って……日頃の感謝みたいな……」



 あぁ、どうしよう。クリスマスプレゼントは貰ったばかりなのに、こんなに嬉しいプレゼントを相棒からも受け取ってしまった。家から連れ出すなんて、大変な事をわざわざしてまで。

 心の中に溢れ出す嬉しさと幸せが、どうしようもなく膨れ上がっていく。こんな気持ちを、どうやって言葉で伝えたらいいのか分からない。でも、何か伝えたい。

 どうしたらこの感情を届けられるんだろう――



「そうだっ!!」



 私は急にひらめき、カバンの中から魔法の杖を取り出した。手にした瞬間、外の空気で冷やされた杖の冷たさが心地良い。それと同時に、心の奥で温かい火と光の魔力が燃え上がるのを感じた。

 頭の中でイメージを膨らませて、自分の魔力が右手に集まる様子を思い描く。とっても集中した後に、私は力強く願った。



「〝光の魔力! 一面煌めくイルミネーションで、この花たちを照らし出して〜!〟」



 その瞬間、右手から淡黄色(たんおうしょく)の魔力がパァっと放たれ、色とりどりの花々が鮮やかに照らされていく。光が花に触れる度、まるで花が微笑んでいるかのように生き生きと揺れ動いた。

 その煌めきは、彼女と話したあの時と似ている。今この瞬間を祝福しているかのような、森の中で見た光景と。



「こんな魔法も作れるなんて……」

「言葉でなんて言ったら良いか分かんなくて、もうぜ~~んぶ魔法に込めた! ホントに嬉しくて、幸せで、胸がギュッてなったの! なんて言ったら伝わるかな……」

「……コレを見てたら、充分伝わる」

「本当!?」



 その言葉に、花柳は頷きながら満面の笑みを浮かべた。目の中に、色とりどりの星を(またたか)かせながら。



「ずっと好きだったこの場所が、もっと好きになった。素敵なイルミネーションをしてくれてありがとう、春風(はるかぜ)

「こちらこそ……連れて来てくれてありがとう!」



 花柳のこんな笑顔、見れたのは2度目。それが、私にとって何よりも大切な宝物なんだと、心の底から思った。彼女の笑顔を見ているだけで自分の心が満たされる。嬉しいなって気持ちになるの。

 しかし、少しの沈黙の後……私はふと気がついた。今日で1番大切な挨拶を、彼女に伝えていなかった事に。



「言い忘れてた! 花柳、メリークリスマス!」

「……メリークリスマス」




 あぁ、ずっとクリスマスが続いてくれたらいいのに。そうすれば、ずっとこの景色を……この笑顔を、見ていられるのに。

 どうしても、心の奥で願ってしまう。この瞬間が永遠に続けば良いと。



「……ん?」



 その瞬間、私と花柳(はなやぎ)の目の前に眩しい光を放つ花が見えた。その花の隣に立つ看板には〝キンセンカ〟という文字が刻まれている。

 試しにちょんっとつついてみると、その花は途端に白い光を放った。



「わ、まぶしっ……」

「何コレ!?」


 

 私たちの視界を真っ白にするぐらい、眩しい光。驚きの声を上げるより先に、目を守るように腕で顔を守った。










 

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