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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 不滅を誓うあの日の僕ら
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✿ 第42話(中編):アルバムの中






 学園の図書館には遠く及ばないが、ただの個人の子ども部屋にしては色々な本が置いてある。



「魔法、魔法、算数、国語、英語、音楽……勉強の本しかない!」

「ちょっと、勝手にウロウロしないでよ……」

「あ、ごめん。私こっち(魔法世界)で誰かの家に遊びに行くなんて無いから、なんだか見てるのも面白くて」



 確かに、彼女は長期休みは実家に帰っているし、魔法世界に行くとしてもYOTSUBAPAN(よつばパン)のある魔法駅周辺で四葉さんと遊びに行く程度だと聞いた。どこかへ行く時もお店や街ばかりで、誰かの自宅に入るという経験は無いのだろう。

 流石に家の全体を走り回られたら困るけど、自分の部屋だけなら大したものはないし……それが春風にとって学びになるのなら……少しだけなら別にいいか。



「……まぁいいよ。面白い物は特にないけど、部屋の中だけなら好きに見ていったら?」

「ほんとに!? やった~、ありがとう花柳!」



 彼女は、まるで遊び道具を貰った飼い犬の様にはしゃぎながら、そのまま本棚に視線を落とした。

 しかし、その本棚にあるものは、彼女からしたら本当につまらない内容ばかりだろう。先程言われた通り、私が集めているのは勉強の本ばかり。幼い頃に貰った絵本などは親の部屋に置かれている。


 ……そう思っていたのに、春風は突然一冊の本を取り出した。すると、まるで目の前に激辛カレーを差し出された時のように、目をキラキラとさせながら本のページを開いている。

 春風がそんなに喜ぶ本なんて、強いて言うなら筋トレとか運動の本くらいしかないだろう。しかし、私はそんな本を買って貰ったことは、人生で一度もない。


 頭の中で疑問が飛び交い、私は座っていたベッドに手を当てて立ち上がり、彼女の横からひょっこりと本を覗き込んだ。


 

「な……!」



 しかし、彼女の手に乗っているのは本ではない。それは入学前から封印しておきたいと思っていた、個人的にあんまり見たくない代物だった。



「わぁ~、昔の花柳って今の私と同じくらい髪の毛長かったんだね! しかも全部下ろしてるし、なんか新鮮っ」



 そこにあったのは紛れもなく、幼稚園から魔法学園入学前までの私の写真がまとめられたアルバム。

 ちゃんと前お母さんとお父さんに「2人の部屋に置いておいて」って言ったのに……きっと、私が知らない間に部屋へ戻されていたんだ。と言うか、絶対学園にいる間に戻してるでしょ。ちゃんと確認しておけばよかった。

 お母さんとお父さんに、後でじっくり問い詰めよう。とりあえず今は、春風からそのアルバムを早急に引き剥がしたい。


 とは思いつつ、既に手に取られたアルバムを取り返すのは、正直もっと恥ずかしい。


『えぇー!さっき全部見ていいって言ったのに?もう……そぉ~んなに恥ずかしいなら、輝に後でお願いして、持ってるアルバム見せて貰っちゃおっかな~ぁ? 』


 なんて、ふざけた事を言われかねない。それを輝が聞いてしまったら……。


『だめじゃない咲来、可哀想だよ? 別に減るもんじゃないし、見られても良いじゃん。俺が変わりに咲来のアルバム見せてあげといたから、安心してね!』


 言う。あの人は絶対に言う。

 嫌にリアルなこの予想が当たってしまうのを恐れた私は、とりあえず春風に合わせて会話を続ける事にした。



「いつ切ったの? 入学した時から短いよね」

「し、小学生になる前に切ったの」

「そっかぁ……長いのも見てみたかったなぁ」



 早く春風がそのアルバムへの興味を失うのを、ひたすら待つ。その方が、後から話題をぶり返されなさそうだから。

 はらり、はらりと(めく)られるページには、幼稚園児の私が写っている。弱々しくて、縮こまっていて……自信の欠片もない姿だ。その写真の中の私は、まるで小さな影のように、存在感を消している。

 

 あの頃の私は、いつもオドオドしていて、誰かと話すのも怖かった。できるだけ他人との会話を避け、周囲の目を気にしながら日々を過ごしていたと思う。

 今の私しか知らない人からすると、当時の私を別人と勘違いするかもしれない。それほど今の私とは違う。



「よくこの子と一緒にいるね、人間の友達? 幼稚園の制服も可愛い~、私は私服登園だったから羨ましいなぁ」



 そう言って春風が示したのは、木の前で2人で立っている写真だった。おそらく、幼稚園に飾られていたみんなの日常の写真を、卒園時に親が貰ったものだろう。

 自信無く立っている私とは対照的に、彼女はピースサインを決めてニコニコと笑っている。その無邪気な笑顔見るたびに、懐かしい思い出が(よみがえ)る。あの頃の私は何も気にせず……ただ、楽しい時間を過ごしているだけだったな。



「……その子は、魔法世界の子だよ」

「そうなの? うちの学年にこんな感じの子居たっけ」



 そう言うと、彼女は首を傾げながら考え始めた。しかし、いくら考えてもその答えは出ないだろう。同い年の魔法使いなのに私たちの学年に居ないなんてありえない。春風はこの学園で、それを誰よりも実感している人物だ。

 でも、この子は例外。



「その子、日本には居ないの。連絡も取れていないから、今どこにいるのかは分からないけど……」



 海外で暮らしているのなら、話は別。日本に住む魔法使いは、小学4年生から高校3年生の年齢まで、魔法学園に通うことが義務付けられているけど、海外はそうじゃない。

 

 魔法の教育校へ通うことを推奨している地域が多いけど、義務や強制をしてる地域はそんなに多くない。日本と違って国に一つだけって言うのも珍しいし、地域によって特色があるものだ。

 でも、日本ではそんなことは許されない。お別れをしたあの時から、ずっと日本には居ないんだろう。



「そうなんだ……じゃあ、またいつか会えるといいね!」

「……そうだね」



 その言葉を口にしながら心の奥では、また会えるかどうかなんて、もう分からないと思っていた。私に会う資格があるのか、分からなくて。

 すると春風は「うーん、うーん……」と唸りながらじっと一つの写真を見始めた。何をそんなに唸っているのかと、私はそのアルバムを横から覗き込む。



「急に唸ってどうしたの。お腹でも痛い?」

「いや、この子の名字と名前の漢字初めて見たんだよね。えっと~……こ、ことり、ゆう……?」



 マスキングテープの上から親の文字で書かれたそれは、私にとっては馴染みのある名字だ。

 当の本人も「ひらがなじゃないと、読んでもらえないの!」なんて言っていたのを思い出す。春風の様に〝ことりゆう〟と間違えた人に、彼女はいつもこう言っていた。

 


「〝ことりゆう〟じゃなくて〝たかなし〟だよ」

「たかなし? この文字でそんな読み方出来なくない?」

「これは言葉遊びみたいな名字なの。大きな(たか)が居たら、小鳥は怖くて遊べないでしょ? でも鷹が居なければ、小鳥は安心して遊べる……だから〝小鳥遊(鷹無し)〟」

「おぉ、流石花柳先生!」


 

 春風は私をキラキラとした目で見ると、名字の右側に書かれている漢字にも指をさした。

 








 




 

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