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魔法使いの相棒契約  作者: たるとたたん
三章 不滅を誓うあの日の僕ら
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✿ 第42話(前編):繋がりクローゼット







 時間は、数分前まで遡る。

 

 ピアノの練習を終えた後、私はそのまま自室に戻った。理由は単純で、残った宿題をやりたかったのだ。とは言うものの、残っている宿題と言えば日記くらい。それ以外のものは殆ど終わっている。

 だから、それを記入したらすぐに部屋を出ようと……そう思っていた。



「お化けさん、お願いだから私の所に来ないでっ、しかもなんで春風(はるかぜ)の形なの! ほんと最悪、悪趣味お化けっ!」

「ぬぉおい最悪とは失礼な!! 私はれっきとした、春風菜乃花(なのか)本人なんですけど!!!」

「……へ?」



 そう言われて、私は壁に押付けた背中への力を緩めて、ゆっくり顔を上げる。

 言われてみれば、お化けとは思えない位に会話まで完璧に彼女と似通い過ぎた表情。向こう側にある空間は見たことの無い……でも、彼女の瞳の色と同じような色の家具が沢山集まる部屋だ。



「ほら、足もあるし……それにこれ!これは私が今やってた魔法の宿題!ね、本物でしょ?」

「本当だ……」



 その事実に、私は全身の力が抜け落ちて行くのを感じた。

 まったく……春風本人だったのなら、最初からそう言えばいいのに。急に光ったクローゼットから「メリークリスマス」とか言いながら出てこられても、こっちからすると本気で訳が分からない。そして、いい加減私はお化けには慣れて。


 でも、どうして私のクローゼットから春風が出てくるんだろう。


 ひたすら知恵を絞り出していると、その瞬間ドアの方からドタバタと走る音が響き渡る。ハテナ浮かべる彼女を追いやるようにクローゼットを背中で閉じると、バンッと大きな音を立てながら部屋の扉が開かれた。


 

「おねーーーちゃーーん!? 何かあったの、大丈夫~~!?!?」

「ゆ、優梨(ゆり)……そんなに慌ててどうしたの?」



 音が聞こえた瞬間にクローゼットを閉じたから、春風の事は見ていないはず。問題は、この不自然にクローゼットを隠しているこの体勢を誤魔化すことだけど……。



「あれ? お姉ちゃんのお部屋からうわーっ! て叫び声がしたと思ったんだけど、違うの?」



 どうやら、この場には優梨しか来ていないらしい。蒼空(そら)(ひかる)は感が鋭いけど、優梨相手ならこの体勢で居ることにそこまで疑問を抱かないだろう。

 私は不自然が生まれないように、頭の中で必死になって言い訳を考えながら、その言葉を妹へ放った。



「さっきスマホで動画を探してたんだけど、間違えて再生してしちゃったの。そうしたらたまたま、すごく音が大きくて……それが優梨に聴こえたのかもしれない」

「そっかぁ、良かった……はっ、ノックもしないで急に開けちゃってごめんなさい!」

「気にしないで。わざわざ来てくれて嬉しかったよ、心配してくれてありがとう」



 そう言うと、優梨は少し赤くなって「えへ……」と言いながら、ゆっくりと部屋の扉を閉めた。

 はぁ~と大きな溜息と一緒に、私は胸を撫で下ろす。急いで閉めて後ろに隠したクローゼットを再び開くと、そこには先程と同じ光景……つまり、本物の春風がちょこんと床に座っていた。



「えぇっと……ゆり、ちゃん? 可愛いお声だね~、花柳がデレデレしてるのは違和感あるけど気持ちわかるよ~! 良いなぁ、妹って憧れるなぁ、あは、あはは……」

「……とりあえず、何があったのかを1から10まで全部説明してくれませんかね、聖女様?」

「はっ、はい喜んでーっ!!」




 *




「え、本当にそれだけなの?」

「本当にそれだけでございます……」



 ダラダラと冷や汗を流しながら、彼女は経緯を説明した。

 要は、何も考えずに杖を持って魔法が成立する呪文を唱えてしまい、条件が満たされていたから魔法が完成してしまった……と言う事だ。


 しかし、そもそも魔法を最初で完璧に成功させる人は殆ど居ない。成功させるには何度も練習が必要、それが前提条件。ボールは誰でも蹴れるけど、何度も事前に練習するからサッカーという競技が行える。魔法もそれと同じ様なものだ。

 だから普通の魔法使いならこんな事にはならないだろうけど……その当人が光魔法を使えるから、これは偶然の重なりで起こった悲劇だろう。

 


「まぁ、登校した日に先生に何か言われるかもね」

「やっぱりそうか……うぅ、怒られるのは嫌だなぁ~」

「宿題とか居眠りとか成績で既に怒られてるんじゃないの? 親御さんにも怒られてるし」

「そうだけど、それとこれとは違うの! 魔法は好きな事だから、なんか好きな事で怒られるのって嫌じゃん!」

「はぁ」

「ぜぇんぜん伝わってなさそう……でも、そりゃそうか。花柳は魔法の事に関してだけはら怒られるような行動繰り返すたか外れ人間になるもんね」



 失礼だな……とは思ったけれど、ぐうの音も出ない。全くもってその通りだからだ。なので、潔く反論するのは辞めることにした。



「それに、もし……私の部屋と花柳の部屋のクローゼットが繋がったとかが、学園の皆とかにバレたら、その……」



 その言葉で納得した。多分春風が気にしているのは、好きな魔法で怒られるのが嫌だからじゃない。きっと「花柳とは自分との関係をばらさないって約束で相棒になったのに」とか思っているんだろう。

 しかし、魔法学園の魔道具に『春風菜乃花が人間世界で魔法を使用した』という履歴が記入された事は確定している事実。一応校則違反をしたと言う事はバレてる訳だけど……。



「春風は実家がそっちの(人間)世界だし、上手く言い訳すれば許されるんじゃない? 記入されるのは使用したって履歴だけで、魔法の内容までは魔道具に認知することは出来ないんだから」

「そ、そっか! 確かに!」



 そう、バレるのは使った事だけ。

 内容がバレないのなら、最悪でっち上げも出来るわけで……とは言っても、校則違反は違反だから、わざと破る人も居ないけど。

 初めは不注意で使ってしまったり、時には暴走しかけた人の認知もあったりするから、何も咎める事だけが目的の校則という訳では無い。その原因を生徒に聞きつつ、先生と一緒に対処するため……とか、そんな感じの理由だったはずだ。

 しかも、春風は生まれ育ちが人間世界の珍しいタイプ。余計に罰則は緩和される可能性が高い。



「それに、春風が光魔法を使える事なんて、みんな知ってるでしょ? まぁ、そこまで人間世界の魔法を細かく認知出来るのって、多分魔法省だけだと思うけど」

「うげ、じゃあ魔法省の人にバレたら……」

「万が一聞かれても、本に書いてあった魔法を間違えて使っちゃったって言えばいいでしょ。それに、明らかな異常がないと向こうは何も言ってこないよ。今の春風の所属は〝魔法学園〟だから」

「さ、流石花柳! 言い訳までぽんぽん思いついてくれる!」



 とは言え、あっち(魔法)こっち(人間)の世界を直接繋げるゲートを作り出すなんて……普通なら、考えられないものだけど。

 これは、相当魔力がないと出来ないものだ。自分で新しい魔法を生み出して、それを一度で完璧な制度で完成させるだなんて、あまりにも常人離れしているとしか言い様がない。


 聖女様や聖君様は、そう呼ばれるだけの魔力量……その大きな器を元々生まれ持っている。そんな彼らでも、魔法と人間の世界を繋げるのは難しいと、本には書いてあった。子どもであれば尚更だ。

 そんな彼らでさえ、新しい大きな魔法を作った後はヘトヘトで身体もだるく動けなくなるらしいけど。



「ねぇ、春風の身体は何ともないの? だるいとか、疲れたとか、気持ち悪いとか、そういう不調みたいなの」

「え? うーん……むしろ魔法使ったから元気もりもりだよ?やっぱり魔法って手に馴染むよね。運動と一緒かも!」

「そう……」



 どうやら、彼女はそんなことも無いようだ。


 私と春風は歴代の同じ立場の人々と違う点が多いけれど、彼女はこんな所も違うという事だろうか。単純に体力があるからとか、そういう話ではなさそうだし。

 

 魔法使いには蓄えられる魔力量があって、その量が多い程、強大な魔法が扱える。魔法の才能の個人差と言うのは技術力だけではなく、そう言う〝器の大きさ〟みたいなのも関わってくる物だ。

 私と春風は蓄えられる量が一般よりも多い訳だけど……それが春風は更に大きいのかもしれない。私はそこまで強大な魔法を試した事がないから、彼女と同じレベルかは分からないけど。



 私が暫く考え込んでいると、目の前にいた彼女はいつの間にか居なくなっている。何処に行ったのか慌てて辺りを見回すと、案外呆気なくその存在は目に入ってきた。

 彼女は部屋の横にある本棚を、まじまじと見つめていたのだ。









 




 

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