✿ 第4話(前編):闇の魔力を持つ少女
「あ、みんな来たんじゃない?」
双子の兄・花柳輝は玄関からひょこっと顔を出す。その先へ視線を向けると、向こうには段々と近付く女子が2人と男子1人。
「輝、咲来ーっ!」
「おはよ~。急に来ちゃったけど、大丈夫だった?」
大きく手を振って私たちを呼んだのは稲山りん。元気で明るい女の子。少し後ろから穏やかに言葉を掛けたのは、片桐鈴音だ。
「急に昨日誘われたからビックリしたぞ。でも、2人が誘ってくれてめっちゃ嬉しかった!」
「全然大丈夫。みんな来てくれて俺も嬉しいよ!」
そして、私たちにニコリと笑う蓮村陽太。三者三葉な幼馴染の言葉に、輝は、朗らかに返事をした。
花嵐が穏やかな暖かさを遮ぎる、少し冷たい空の下。桜はもう大分散り始めていて、玄関前には花弁の絨毯が出来上がっている。今日は春休み最終日、私たちが魔法学園へ入学する前に穏やかに過ごせる最後の時間だ。こうして誰かの家で遊ぶ事も、明日からは出来なくなるだろう。
「今日は結構外寒いでしょ。早く入って」
私がそう言うと、3人は「お邪魔します」と言いながら玄関に足を踏み入れる。各々靴を脱ぎながら、暖かい空気にほっと息をついていた。
「俺らも明日から新入生かぁ……やっと学園に通えるな!」
「小4まで待つのって長い気がしてたけど、意外とあっという間だったね。小学校から離れるのはちょっと寂しいけど」
玄関からの客室までの道を歩く中で、陽太が朱色の瞳を細めながらポツリ呟く。今までの記憶を思い起こすように静かな声で返した輝に、続けて言葉を放ったのは鈴音だ。
「でも、今まで普通の学校に通ってたのも、私的にはちょっと不思議な感覚なんだよね〜」
「わかるよっ! 向こうの小学校ってみんな魔法のこと知らないし、私たちだけこっそり隠してるの難しかったもん!」
メガネをカチャリと整えながら鈴音が歩いていると、1番後ろから体を屈めて、私たちの方へ乗り出しながらりんが喋る。私は後ろに居る4人の方へ軽く振り返ったものの、また前を向いて足を進める。
「でも、クラス分けはしたくないなぁ。みんなと別れちゃうなんて寂しいよ~……」
その表情は見えなくても、りんの声から十分感情は察せられた。私たちは今までずっと近くで過ごして来たのだから、そう思うのは当然の事だ。
すると、励ますようにすかさず輝がポンと声を投げる。
「寮が同じならまだ良かったのにね。でもさ、お互いの寮の内装を知れるのは逆に良い事じゃない?」
「確かに。2人が白寮になったら、私たちにお話沢山聞かせてね? それに、私は白いお洋服を着ることが多いから、黒い制服がちょっと楽しみなんだ。りんと咲来は、私とお揃いかもしれないもん」
「黒い制服カッコイイよな〜! 俺は逆に黒めっちゃ着てたから、急に白い人になるのって違和感あるけど」
鈴音と陽太がそんな会話をしていると、りんも元気を取り戻したみたい。また4人でワチャワチャと話し始めたのを、私は静かに耳へ入れていた。
魔法使いは、自分の魔力でその後の人生が大きく変わると言っても過言じゃない。それくらい適性を知るのは重要な事だし、今は予想でしかない適性が確定されるのもありがたい。
だけど〝来年もみんな同じクラスかな〟という願いが一生叶わなくなる私たちには、少し酷なシステムだ。こうやって、なんとか楽しく誤魔化していたとしても。
「すずのお兄さんとりんのお姉さんも、黒い制服似合ってるよね」
「うん。黒と黄緑カッコイイって入学する時喜んでたよ、うちのお兄ちゃん」
「お姉ちゃんなんか、今年から中学生だからデザインが変わるんだ~って朝はしゃいでた!」
みんな表に出さないだけで悲しんでいる。だけど、それでも笑って話すんだ。そうやって、4人は前を向いて過ごしてるのに、私は……。
自分がどんな制服を着ることになるのかなんて、正直考えたくもない。みんなのように前向きになる事は、きっとこれからも難しいだろう。
そう自覚していても、そんな言葉はひとつも漏らさない。みんなが不安になるような言葉を私は絶対に言わない。今の花柳咲来は、ずっとやって生きてきたから。
「はい、入って良いよ」
「3人ともいらっしゃ〜い」
私と輝はいつものように、みんなをお客様用のお部屋に案内した。室内にはテーブルと椅子、それから前にリビングで使ってたテレビとゲーム機が置いてある。
それぞれが椅子に腰をかけると、置かれていたおやつを口へ頬張りながらお喋りをし始めた。と言っても内容は大した話じゃなくて、昨日の夜ご飯が美味しいとか、学園行くのが楽しみだとか、そんな他愛のない話題。
こんなくだらない時間が、私たちにとっては大切な時間。
「そうだ! この前お父さんが新しいゲーム買ってたんだった。咲来どこにあるか知ってる?」
「確か、楽しみだから予約したってお母さんに言ってたっけ……多分棚の中じゃない」
「今日みんなが家に来るって話したら、是非やって欲しいって言ってたんだよね。良ければ今からやろーよ!」
輝がそう言った瞬間、3人は「ほんとに!?」と言いながら目をキラキラとさせた。それは4人でプレイするパーティゲームなので、私は辞退して少し離れた所から観戦する事にした。
そのゲームはスゴロクのようなもので、みんなが止まったマスの色で2対2のミニゲームが始まる。初回は丁度男子対女子……これは実質、光属性と闇属性の対決と言ったところだろうか。輝もそれに気が付いたのか、ミニゲームの説明画面を見ながらポツリと呟いた。
「俺たちって光属性と闇属性でまあ別れるだろうけど、学園行ったら珍しい部類なのかなー? 同じ小学校に何人も魔法使いが通ってるのって、結構珍しいんでしょ?」
その言葉に、鈴音は「学園の光と闇って、一部は昔から対立してるって言うもんね~」と言いながらゲーム機のボタンを押している。今の所ゲームは男子が劣勢、女子が優勢だ。すると、陽太とりんは気合を入れて連打をしながら少し詰まった大声を上げる。
「うちの親たちは、そういうの、全然気にしなかったらしいぞ!」
「私もだよっ! いつも『家門や属性は関係ない』って、言ってたし!」
私たちの家門は、名家なんて言われる事が多い名の知れた一族だ。要は〝古くから魔法世界に功績を残した歴史を持つ家門〟という事。日本だから貴族とかは無いけど、魔法世界では何故か大層にそう呼ばれている。
そんな環境で育った親世代は、学生時代から『堅苦しい家門の立場なんて関係無い』と思っていたらしい。けれど、その考えに対して周りの理解を得るのは難しい。その理由は、スマホを少しスクロールするだけで直ぐにニュースのトップへ出てくる。
『先代聖女様の事件から数年。未だ続く痛みの中で見つからない真相や、行方不明の元護衛・闇魔法師について徹底解説!』
何せ、最も現代に近い時代を生きていた光魔法師……〝 先代聖女様 〟が亡くなった時、親世代は学園生で彼女と一時期共に学園に通っていた後輩。だからこそ「彼女の護衛を担っていた闇魔法師が、聖女様殺しの犯人だと言う可能性が高い」と言う事件は、学園生に強い影響を与えてしまった。
対立思想をより強く植え付けられ、自然と「光魔法は救い・闇魔法は恐怖」と考える空気が広がり、肯定派と否定派・緩く左右に居る者や中立などで世間は大きく混乱したと言う。
今でこそその対立は大分落ち着いたらしいけど、闇魔法に属す風や土の魔法はなんとも思わなくても、闇魔法自体は未知で怖いって人の方が多い。SNSで見かけた話だ。
「私はやっぱり、みんなでご飯食べたいな~。ねっ咲来?」
「……そう言って、鈴音の苦手な食べ物を私に渡したいだけでしょ」
「えへへ。いつもお世話になってます♪」
堅苦しい名家であるからこそ、より対立思想が生まれやすいハズの環境。だからこそ、入学前からこうして過ごせてる今は奇跡なんだ。
そんな私たちが仲良くなれたのは、親のおかげや小学校が同じだった事もあるけれど……1番は、私にはもったいないくらい、幼馴染が良い人過ぎたから。
だから彼らは、私の秘密を家族以外で唯一知っている。と言うより、私が先に暴露をしたんだ。




