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3月11日(14日大幅加筆)

「如是被焼邪欲為因。乃至廣説、獄卒呵嘖罪人説偈曰。非異人作惡異人受苦報、自業自得果。衆生皆如是。」by正法念経

 金髪褐色碧眼の美少女は困惑していた。この部屋の持ち主、つまり3ヶ月前の自分は何をしていたのだろうか…と。 スマートフォンを手に取る、それはまるでネバネバして身動きが取れなくなる鳥黐のようだ。


しばらく没頭して、起き上がった時には夜になっていた。時刻は7時を過ぎたところ。少女は目をこすって辺りを見回した。長時間のネットサーフィンで得られたものはあまりない。これなら外に出かけたほうが多くの情報を得られたかもしれないなと思う。


「女体化」「目が覚めたら女になっていた」「若返りの方法」「30歳になって童貞だったら魔法使いになれるって本当?」などなど検索してみたが自分の身に起きた状況を知る糸口となる情報や同じような体験をした者に出会うことは出来なかった。


そういえば、何か忘れていたような。なぜだか分からないがやらなければいけないことを思い出した。改めて時計を確認する。

(まだいける!) 汚れた室内着のまま出かけたのはクリーニング屋。母親のスマホを借りて30%OFFのクーポンを使用。お店に出したのは昨日、居室掃除で埃まみれになった制服だ。膝上30センチのスカートとセーラー服。家に帰るとスマホをとられた母はタブレットで脳トレをしていた。会話といった会話はない。

知らないおばさんのような気もするし、自分の好みでいえば年増のお姉さんという見方もできる。いやしかし、おそらく自分はこの人の娘なのだから母と認識するのが普通だろう。


 お湯を沸かし自室に戻る。お風呂に入ると言ったのにスマホを触っていたら時間が過ぎた。よくあることだと母は言う。別の体を得たからなのか分からないが、9年前心を支配していた"自分はなんてダメなやつだ"という泣き出したくなるような不安はもう無い。

前世の記憶がハッキリとしすぎていて、逆に今の状況が飲み込めていないのだ。だからこれは俺が思っていることなのか、それとも彼女。つまりこの体、金髪褐色碧眼の美少女が思っていることなのか区別がつかない。前世の、俺が体感した教訓によれば"摩耗した心で感じることはわずかだ。ずいぶん生きやすくなったと思う時もある、しかし同時に失ったものも多いが。"



今日は11日。あの大災害から12年が過ぎた。

干支が一周する間にどれくらい人は変わるのかん当時の自分が今の自分を見たら信じられないだろう。


災害に関していえば記憶の風化は激しく、Instagramで死者をバカにしてザーメンと祈りを捧げる真似をした高校生がいたらしい。当時幼稚園児だった者には理解できないのだろう。


 風呂を上がる。パンツは用意して向かったが服は持ってきていない。バスタオルで体を隠して2階の自室へと向かう。ご飯に呼ばれて下に降りたいが、なんとかズボン(ドローズとかドローサとかいうはず)を探し出して穿けただけで上はまだ裸んぼだ。一体どうしたら良いのだろう?なぜパジャマがない。

途方に暮れていると雲から顔を出した月の光で部屋が明るくなった。と同時に見てはいけないものを目にしてしまった。月の光を浴びて輝く鏡が少女の目の前にあったのだ。


暗闇に同化しながちな色の濃さでありながら、年頃の色気は隠すことはできない。胸はなんとも貧相であるが、それが華奢な体と相まってボーイッシュな愛らしさを匂わせる。月夜に照らされて美しく輝く髪は目を引き、左右で異なる色の瞳は見るものを思わず魅了する。これが、俺・・・?鏡に映る自分の姿に魅入る。

気付いた時からずっとこの体だったし、なんなら風呂にも入った。慣れない体だがちゃんと洗った。自分の、そう感覚を共有している肉体だという自覚はあるのにどうして?

思春期を迎えた中学生の頃、鏡の前で自分という人間を見つめ直したことを思い出す。年の頃でいえば同じくらいかもしれないな。だとしたら、ほぼ無意識で腕が股間にのびた。

少し毛が生えている。ダメだ!この先はいけない。自分の体であると同時に人の体でもあるんだ。


パンツをずらしてこの女の子の身体をじっくりと観察したい欲望に駆られた。そう中学時代に性に疎かったとのには拝む機会のない非合法ロリ少女の裸である。拝むならもっと近くで、そういう気持ちと理性の間で揺れながら俺は鏡付き衣装ケースに近付いた。

なんとか理性を保ち、パンツにひっかけた手を諦めて衣装ケースを開けた。中には純白のワンピースが入っていた。よかった、これで何とか食事にいけそうだ。自分で自分の体を味わうなんて愚行をなんとか回避して下に降りた。


 晩ご飯はイタリアン風の和食。食べる前、電気を消すように言われた。指摘された方に目をやると脱衣所から灯りが漏れていた。本当自分は抜けている。これも壊れてしまったからだ。以前はそうじゃなかったのに。


 しいたけだと思ったキノコはエリンギだった。2年前の今日はNHKスペシャルを見ていたことを覚えているが、まさかの異世界今年も見れるだろうか?とテレビをつけたらバラエティ風の教養番組がやっていた。進行役のキャラクターが苦手だと感じ見たくはなかったが、一緒に食べてくれる母は好きそうだ。

都内で最大の百均がある駅前に3年前にできた地下駐輪場、一月千円で建設費四億円を回収できるのか不思議に思った。世界には地下の空間を利用して野菜を栽培している国もあるらしい。

「キノコは太陽がなくても育つのねー」

母は番組のどこにも語られていない知識を得た。すかさず検索する「キノコ 生育 日光」直射日光は必要ないが光自体は必要なようなのはコチラの世界も同じらしい。適当に得た知識で私達は世界を作り上げていく、だから学ばなければいけない、調べなければいけないんだと自分に言い聞かせる。


「これ美味しいわね」と褒めた食事はキャロットペラというらしい。「ペラはスンラフ語で"すりおろした"を意味するそうよ」とWikipediaを読み上げる、すりおろしていないけど?と母。言われて見るとたしかに、これは細かく刻んだものだ。変に意識して女言葉を使ってみたが特に指摘はない。どういう喋り方をするのが正解なんだろうか。


タイトルは異なるが22時をすぎてNスペが始まった。この世界でも災害があったことを風呂前のネットサーフィンで知ったが現状を認識するにはメディアの存在が欠かせない。

見始めて少しして父が帰ってきた。「見てへんのやろ?嫌いやねん、これ。不幸をネタにするなんて良くないやろ、楽しいことならいいけど。」「亡くなった方のために頑張ろうとも思わんし、何のために見るのか分からん。」と言われた。感じ方は人それぞれだ。

見る意味が分からないと言いながら見せてくれたのは嬉しい。


 12年経ってカメラの前に立つ人の目には生気が宿っていると感じた。過去を過去としてから話した上で今を生きられるようになったような印象。私はまだ過去を引きずっている。

もちろんテレビは虚飾の世界だ、編集者が意図的に切り取った編集で、印象操作されている。それでも画面の向こうの人々は生きている。自分も死んではいけないのだと再確認し、今日は眠りにつくことを決めた…生まれてきてくれてありがとう。

「他人が面白い作品を作るから私が遊んでしまうじゃない。自分の作った業のために受ける報い。みんな遊んでいるんだ。」漢文意訳

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