5. 心折れサッカー選手志望者
転生して周囲とは精神年齢が前世分上乗せされたにも関わらず、同級生にメンタルをボコボコにされて死にそうな気分になった。もしかして水谷って俺のこと嫌いなんじゃないの、そういう疑問が湧き上がってきたが、ほらアイツ内弁慶だからと何のフォローにもなってない言い訳をして精神の安定を図る。……無理だった。コイツ普段惚けた顔してそんなこと考えてたのかよ。幼い頃からミステリーばかり読んでいる主席入学者の心の闇を見た気分だった。いや、ミステリーばかり読んでいたから人間観察が趣味になったのかもしれないな。
それはさておき、水谷の意見は確かに一考の価値があるものばかりだった。俺は俺自身を何でもできるパーフェクトヒューマンだと思っていたが、どうやら間に別の人間というフィルターを挟むと俺は「文武優秀の不器用な人間(柔らかい表現)」に見えるようだ。なんかそれだけ聞くとエロゲの風紀委員長みたいな性格してるな、俺。さて気を取り戻したところで、さらに深い質問をしてみる。
「ふーん、なるほどなるほど。……ホワイトハッカーとかデイトレーダーとかは一旦置いといて、水谷は俺がどんなスポーツに向いてると思う?」
「えー、折角考えたのに……。うーん、どんなスポーツに向いてるかって聞かれても私サッカーしか知らないからなー。……多分、葉隠くんなら何でもできるんじゃないかな?」
「その心は。」
「その心は、ってそんな簡単に……。はぁ、まあいいや。えっと、そもそも私が考えているスポーツの向き不向きって、簡単に言えば短距離走が得意かそれとも長距離走が得意かなんだよね。短距離が速かったら瞬発力が重要視されるスポーツを選べば良いし、長距離が速かったら持久力が重要視されるスポーツを選べば良いの。それで自分の体質が分かったら、あとは本人のやりたいことから判断して候補を絞っていけばいいと思うの。
……えっと、そうだ。例えば、マコちゃんって長距離走が得意だし身長の割に筋肉が付いてないからサッカーに向いてる身体っていえるでしょ。それでマコちゃん自身もサッカーがしたいって言ってたから、サッカーが向いてるスポーツって言えるんじゃないかな。あと、他にも同じ中学だった山下くんは短距離が得意で実は筋肉が凄く付いてたでしょ。だから短距離走の選手に選ばれるぐらい陸上に向いてたし本人も陸上がしたいって言ってたから陸上部のエースだったんじゃないかな。
そういう風に考えると、葉隠くんって短距離も長距離も両方得意だけど別にやりたいスポーツなんてないんでしょ?それなら何でもできるんじゃないって言うしかなかったってこと。こんなんでいい?」
「おーー……。なるほどね、めっちゃ考えてたんだ、凄いな。ありがとう。」
「……えへへっ。」
「そっか、なら俺もサッカーにしようかな……。」
「うん、頑張ってね!」
陸上部の山下君とやらは記憶にないが、ぶっちゃけ俺ならどの競技でもチートな身体能力で大活躍できるだろう(慢心)。そしてそれなら一番稼げるサッカーを選ぶのは妥当だろう。あとは昔から火暮から誘われてたし(建前)、俺が活躍すればこの学校の校長も俺に奨学金の一つや二つでも出してくるだろうし(本音)。良いこと尽くめじゃないか、サッカー!夢が広がリング。
あとはサッカーシューズとかボールとかの工面だが、コレは虎の子のお年玉でなんとかするしかない。もしサッカー部の部室に誰も使ってないシューズがあればそっちを借りるけど。
というわけで放課後はサッカー部に仮入部してこようか。