4. この世で一番稼げる職業
───時の流れはビデオの倍速再生が如く早く過ぎ去り、入学式から早三週間が経過したある日の昼休み。
高校からは弁当持参となったが生憎おかずがモヤシ炒めばっかりとなってしまっている。とはいえ作ってるのが自分だから特に不満はない。さてそろそろ本格的に金稼ぎの策を一つや二つ見つけなければなるまい。いい加減食べる物も儘ならない貧乏生活にはストレスが高まりだしたところだ。とはいえ学校がアルバイトを校則で禁止しているのでそこを考慮した立ち回りが必要である。
というわけでそそくさと弁当を食べ終え図書館に立ち寄った。教室が騒がしくて碌な考えが浮かばないから逃げてきたともいう。入り口に置いてあった面白い見出しの書いてある雑誌を手に取り、奥の方の座席に座る。
『将来なりたい職業ランキング』。実はこういうランキングが世の中を端的に表していたりするというのは前世の経験上知っている。確か前世では動画配信者という芸能人かぶれの職業が上位にランキングしていたが、『この世界(厨二病的表現)』ではどうなのだろうか。
1位 プロサッカー選手
2位 アイドル
3位 ギャンブラー
……もしかしてこの世界の子供って馬鹿ばっかりなのだろうか。いや、そういえば最近ギャンブラーが主人公の漫画が大ヒットしてたな。アレのせいか……。
とはいえ7位に動画配信者があるということは前世とそこまで社会的な変化はなさそうである。医者も5位だったしね。つまり憧れの職業と収入の良い職業がやはりなりたい職業ランキングの上位に来るようであると結論づけた。
さてこの職業ランキングの内、今すぐ俺にも実践出来て稼げるようになりそうなものは、サッカー含むスポーツ選手、ギャンブラー、動画配信者、プロゲーマーぐらいか。スポーツ選手もプロゲーマーも俺の身体能力と反射神経をフル活用できれば直ぐにでも良い線まで行ける気がするし、ギャンブラーなんかも一回死んだ影響で研ぎ澄まされ過ぎた直感と本で学んだ心理学擬きでなんとかなりそう。動画配信者なんかもテキトーに騒げばいいだけだし(偏見)。そう考えると、俺って意外となんでもできそうだと謎の無敵感が湧き上がってくる。思わず笑い声を上げそうになった。まずい、自重自重。
図書室の中で自分が七色に光り輝いて無敵状態になっている様子を妄想していると、横から誰かが話し掛けてきた。
「あれっ、葉隠くん。今日は小説じゃないんだね、何読んでるの?」
「これ見てた。」
「えっ、こんなの読んでたの?」
ナチュラルに失礼な発言をしたのは俺を差し置いて主席入学者になった(嫌味)水谷だ。俺が普段から小説ばかり読んでるので雑誌を読んでるのが不思議だったんだろうけど、言葉選びのセンスが無いなと思った。
「水谷はどれが一番儲かると思う?」
「えーっと、……お医者様じゃない?キメラ病とか人面瘡でも治せるようなお医者様なら手術料で何億でも稼げるんじゃないかな。」
「それなんてBJだよ。違う違う、ちょっとスマホで調べてくんない?」
「ふふっ、分かった。ちょっと待ってね。……うーん、この中ならサッカー選手っぽいね。ほら見て。」
そう言ってスマホの検索画面を見せてくれた。うーん、確かに海外選手も含めるとサッカー選手の年収が180億円とダントツで高そうだな。というかギャンブルの最高額はジャックポットで40億円なのか。ということはギャンブラーの年収はもっと少ないだろうな。さっき俺でもできそうだと思った職業を年収順で並べると、サッカー選手>>その他スポーツ選手>ギャンブラー≧動画配信者>プロゲーマー。ここは参考意見として水谷に聞いてみる。主席入学者だからきっと良い感じの返答をしてくれるんだろうなー(2擦り目)。
「なあ、今からスポーツ選手とギャンブラーと動画配信者とプロゲーマーになるならどれが向いてると思う?」
「えっ。うーん。……その中ならスポーツ選手じゃないかな。ほら、葉隠くんって小学校の頃からすごい運動できるし。ていうか他のはあんまり向いてないんじゃないかな?」
「なるほど、ありがとう。因みに他のはなんでダメだと思ったのか聞いてもいいか?」
「怒らない?……そっか。うん分かった。あんまり言いたくないんだけど他は実は消去法だったの。だって葉隠くん話すの下手だし動画配信者とか無理でしょ。それに前スマホゲームクリアして貰って、とってもゲーム上手いのは分かったけど観てて全く面白くなかったからやっぱり動画配信者はナシかなって。あとあんまり言いたくないけど、最近のお昼ご飯とか今でもガラケー使ってるの見ると多分ゲーム機とか買えるだけのお金無いんじゃない?それならプロゲーマーなんてまず無理でしょ。それで最後なんだけど、葉隠くんって博打で相手のズルを見抜いても口下手だから丸め込まれちゃうんじゃないかなって考えたら、ギャンブラーになったらカモにされちゃう気がしたからやっぱりそれもナシかなって。
……あっ、でもでも!ほらっ、葉隠くんガラケーだけどパソコン上手いんだし、ホワイトハッカーとかいいんじゃない?それかデイトレーダーとか?」
心の折れる音がした。