31. 四国大会 本戦 初戦
本戦1回戦は高知の準優勝校との試合に決まった。初戦で弾みを付けるために、こっちの陣営はいつも通りの新レギュラー陣。向こうも多分そう。
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FW:11番 火暮 真(1年)・10番 国松 聡(2年)・9番 栗田 茂(2年)
MF:8番 土御門 辰馬(1年)・7番 石川 颯太(3年)・6番 木谷 楓悟(3年)・5番 中野 瑛士(2年)
DF:4番 金田 望(2年)・3番 渡辺 一郎(2年)・2番 石清水 八幡(3年)
GK:1番 葉隠 和義(1年)
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味方の編成:DF-MF-FW=3-4-3
相手の編成:DF-MF-FW=4-4-2
試合出場者たちは審判たちに連れ従って次々とコートに入る。木谷キャプテンがコイントスの結果を確認し、この大会が始まってから毎回やらされる円陣を組む。そこで「頑張るぞー」「おう!」みたいなやり取り(茶番)を経てそれぞれのポジションに向かう。ハーフコート内をゆったりと歩きながら自ゴールに向かうと、『大会本戦』という響きに魅了されて昨日の県予選よりも遥かに戦意が満ち溢れているチームメイトたちの姿がよく見えた。そして誰よりも早くセンターサークルに入っていた木谷キャプテンはそんな様子の彼らに声を掛けて落ち着かせていた。
なんとか浮ついた気持ちを落ち着かせ、されど闘志は充分という最良のメンタリティを保った新レギュラー陣ではあるが、この場においては今一つチームワークが足りていない気がする。別に俺としては全くそういうのがなくても問題ないが、向こうのチームが簡単な掛け声に始まり連携確認の意味も含めた指差し等を行なっていると、なんか青春してるなって感じがするよね。いやまあさっきも言ったが別に最速プロ入りを目指す俺にはそういったものは必要ないんだけどね、本当だよ。
前世で青春の素晴らしさを知っている俺からすれば、たとえ第八死門を開いて必死状態に陥ろうとも「青春とは良いものだ」と語るだろう。だからこそチームメイトたちにもその良さを味わって欲しい、その一心でゴールに向かいながらもチームメイト全員に聞こえるような声量で語り掛けた。
「皆さんってそんなにサッカー強くもないのに向こうのチームみたいに声掛けとかしなくて良いんすか? ぶっちゃけこのチームって1年組とキャプテン以外ほぼ雑魚しか居ないんで、先輩たちの価値なんて連携するぐらいしかないっすよ?」
思ってもない(嘘)ことがなぜか口から飛び出す。これはダメだ。青春の良さを語って皆で盛り上がりたかったのに、俺への敵意で一致団結してしまった。……いや、土御門はニヤけた表情で俺を見てるし、火暮はヤレヤレと言いたげな苦笑いを浮かべている。ぐぬぬ、土御門は性根が腐ってるから仕方ないとして、問題は火暮だ。普段全く絡みないくせにこんな時ばっかりやれやれ系主人公みたいな顔しやがって、許すまじ。
義憤に駆られた俺は、修羅のような表情を浮かべる先輩たちを見なかったことにしてゴールの前に立った。そして試合が始まる。因みに先輩たち以外にも俺の声が聞こえていた様子の審判員さんは少し険しい表情を浮かべていましたとさ。
ウチのキックオフで試合開始。先程の一件で再び戦意と敵意むき出しになったためか、一応木谷キャプテン以外も声を出すようになった。特に大きかったのは国松先輩のボールを求める声であったところがこのチームの残念さ。正直相手がそこまで強くはないといえども昨日とは打って変わって個人プレー主体となったウチでは前半30分で1得点しか稼げなかった。因みに俺の活躍は一本だけ打たれたロングシュートを止めただけ。しょうもな。
ベンチに戻り休息をとっていると、ギスギスとした空気が流れ始めた。おいおい一触即発かよと思いながらも空を見上げていると、木谷キャプテンが口を開いた。
「最初にも言った通り、まずは落ち着け。1回戦の相手は俺たちなら必ず勝てる。だからそう焦るな。
……よし、では手短に確認事項を伝えておく。まず1つ目。今回の四国大会はもう事前に伝えてある通りチームプレー主体で行くのはこの本戦でも変わらない。まだまだチームを新しくして日が短い今だからこそ実戦でチームワークを養う必要がある。次に2つ目。葉隠の煽るような言い方は悪かったが、連携を高めるために声を出すのは必要なことだ。ボールが欲しい時だけじゃなく、チェックに行く時やカバーが必要な時、スペースを埋める時などにはしっかり声を出していけ。そして最後に3つ目。この四国大会に関して、そもそも数えられるほどの高校しか参加していなかったりその中でもインターハイの調整として全力を出していない高校が多かったり、個人的には色々思うところはあるが。
……そんな些事など一切関係なく、今日は絶対に優勝して帰るぞ!」
『……おうっ!!!』
あらまぁ。全員の顔つきがスポーツマンのようになったのでびっくりした。まあ部活動とはいえサッカーをやってるから、一応みんなスポーツマンなんですけども。
ピッチに戻るとDFとして俺の前に居た岩清水先輩が「キーパーも声を出していけ」と言ってきた。……それなら。
「ぶっちゃけ後ろから見てるとウチのDFとかザル過ぎて隙だらけなんすけど、まあそっちはそっちでテキトーに声掛け合っといて欲しいっす。あっ、なんなら別になんにもしなくてもいいっすよ。自分ならシュート打たれても全部止められる自信あるんで。」
「やっぱりお前は黙っとけ。」
「っす。」
後半は相手のキックオフで始まる。相手はDFにボールを下げてからのロングパスで一気にシュートまで狙ってきたが、それにはいち早く反応した石川先輩がしっかりと防いだ。石川先輩の蹴ったボールは惜しくもサイドを割り中盤での相手のスローインとなってしまった。
このような立ち上がりではあったが、先程キャプテンに喝を入れられたためか誰がボールを持っている相手にマークするのか早速声を出し合っている。結果、スローインを受けた相手MFには中野先輩がマークに就くことになった。中野先輩は敢えて距離を開けることでパスを誘発し、前線から中盤に降りてきた国松先輩にパスカットさせるという頭脳プレーを見せた。これは国松先輩が元MFだからこそ成し得た連係プレーなのかもしれないな、知らんけど。
ボールを奪った国松先輩は左サイドで浮くように動いていた土御門にパスを出して右サイドへと走る。そして右サイドからは火暮が中央を突っ切るような動きで前線に上がり、土御門からパスを受けた。そしてそのままボールを国松先輩がいる右サイドにパスするようなフェイントを見せた後、もう一度土御門にボールを戻していた。そのフェイントに何の意味があったのかは分からないが、釣られた相手MFを置き去りにして火暮は一気に加速して走り出した。そうして土御門と火暮のワンツーで相手の防御意識が追い付かないまま高速で1点を決めてきた。
2点差が付いたため、その後は昨日の初戦のようにひたすら防御連携についての動き方を木谷キャプテンの指示の下で実行された。結果、昨日の初戦のような展開が繰り広げられ、俺がぼんやりとデジャブについて色々考えているところでアディショナルタイムを含む後半戦も終わりを迎えた。
愛媛県立修徳高校 2-0 高知県立安芸中央高等学校
木谷 楓悟 前半17分
火暮 真 後半3分
中央で一列になって礼をした後、なぜかいる観客たちにもお辞儀をしてベンチに下がった。
くぅ~疲れましたw これにて四国大会編完結です! となれば良かったんだが、ベンチから去った後普通に木谷キャプテンから呼び出されてぐちぐちと説教をかまされました。




