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29. 四国大会 本戦 当日

 県予選優勝から一夜明け、四国大会本戦当日。


 朝の4時に目が覚めてしまったので、寝泊まりしていた大部屋をこっそり抜け出して大浴場へ向かう。……うん、そりゃまあ誰も居ないわな。別にマンガ的展開を予測して、他校の生徒と「今日こそは絶対負けねえからな」「いやいや今日もウチが勝たせてもらいます」とかする準備なんてしてないし。


 結局30分ほど大風呂に浸かるも誰も来ないことを悟り、そそくさと浴室を後にした。


 そしてこのままロビーで誰かが起きるのを待っていても暇でしようがないので、宿の女将さんにすぐそこの石畳で軽くボールを触る許可を取り付けた。大部屋のボールバッグから比較的新しくて綺麗なボールを取り出した。そして適当にストレッチをしながら庭に出る。




 まずは体慣らしにリフティングから。普段とは違う環境なので、なんとなく逆足だけでリフティングをしてみる。しかし延々とボールを蹴り上げ続けているだけではあまり面白みがないので足の甲だけではなく腿や膝、足の内、外、踵と様々な部位を使ったり、ボールを蹴る高さを変えてみる。


 はじめは一定のリズムを繰り返し刻むだけのいつも通りのリフティングだったが、遊びを混ぜ始めた瞬間から徐々にそのリズムが崩れ始めた。そして最初に刻んでいた一定のリズムが頭に残っているせいなのか、あまりにも大きくなっていくズレに気持ち悪さを感じて元のリズムに戻した。しかしそれでもなぜか半分ほどリズムがずれているのでボールを地面に落としてしまった。


 屈辱を感じたまさにそんなとき、不意に昨日の1回戦で相手が打った軸足に体重を残さないシュートが頭をよぎった。そういえばあの時は飛んでくるボールの場所が予測できたので簡単に止められたが、キャッチする瞬間になんとなくタイミングが半分ずれてる気持ち悪さがあった。そして今さっきのリフティングにもそれに通じるものがある。……もしやこれが前世で聞きかじった『裏拍子』的なヤツか? ふっ、遂に音楽までもサッカーに介入し始めたか。トゥントゥクトゥントゥクトゥントゥクトゥントゥク。


 今度はトゥントゥクのリズムに合わせてリフティングをしていると、後ろから声を掛けられた。



「おっ、葉隠。おはよう!」


「ああ、おはよ……」


「ところで今リフティングしてんの?」


「そ……」


「へー。そうだ、折角だから俺も交ざるわ!」


「別にい……」



 いつも俺の言葉を遮るチャラ男こと土御門くんです。……クソがっ!


 上下れたジャージの俺とは違い柔らかそうな灰色のスウェットを着た土御門は、俺の言葉を待つことなく宿に戻っていった。……別に今はええねん、俺はいずれ大金持ちになるから。その時になったら全身純金でコーディネートすんねん。


 嫉妬や悔恨のトゥントゥクが更にボールスピードを上げる。ボールを殆ど浮かせないリフティングをしていると、ボールの転がる音とともに足音が聞こえた。リフティングを続けながら見ると、細かなボールタッチで歩きながらこちらへ向かってくる土御門だった。性格は最悪だけどどうせまた凄い技でも見せてくれるんだろうと思いながらリフティングを一時中断してよく観察すると、左足だけでドリブルしているのは見たままだが、左足を内股気味にしながら寝かせた爪先でボールに触れていた。それに一歩分だけボールを前に出すことで触れる回数を多くしているようだった。


 そのまま俺のところまで辿り着いた土御門だったが、「ちょっと体あっためるから待ってて」とこれまた俺の返事も聞かずにドリブルをしながら短い距離のランニングを始めた。……なんじゃそりゃ、さっきやっとけや。何歩いて来とんねん。


 と内心憤ってみるが、実は俺も土御門が見せた細かいドリブルを真似しながらちゃっかり走ってたりする。違うんだ、リフティングに飽きただけなんだ。信じてくれ。



「……っし、じゃあパス練でもするか。まずはボール1個で。」



 アップを終わらせた土御門が仕切る。俺は自分が使ってるボールと土御門が持ってきたボールを見比べて。……あっさり自分のを投げ捨てた。だってあっちの方が綺麗だし。



「じゃあいくぞー。よっ!」



 まあまあ速いボールが転がってきた。少し踵を突き出すような意識でインサイドトラップをし、土御門よりもほんの少しだけ・・・・・・・速いボールを返す。土御門はちょっとパス練習では聞かない派手な音を立ててトラップを成功させた。……一瞬だけヤツの口角が吊り上がったのが見えた。がそれを気にする暇なく、土御門はさらに速度を上げたパスを出してきた。俺も少しだけ派手な音を立ててトラップに成功した。そしてさっきの土御門を真似て膝下を意識しながら、より速いパスを出す。




 お互いに相手を思い遣る気持ちなんて皆無のパス練が終わり、今度は何をしようかと話していたところで寝惚け眼の木谷キャプテンがやって来た。なんだ、3人で朝練やりたいのか?



「……お前ら、うるさい。戻れ。」



 違った。



「フヒヒwwwwサーセンwwww」


「あん?」



 ガチギレだった。まあでもお腹も減ってきたところだし丁度いいタイミングだったな。投げ捨てたボールを回収して土御門と宿舎に戻った。俺は特に汗を掻いたわけでもないのでそのまま食堂に向かうが、土御門は朝風呂してくるそうだ。




 食堂では様々な料理が大皿に盛られた状態でスタンバイされていた。聞くところによると今日の朝食はバイキング形式だそうで、もう先に食べててもいいらしい。よっしゃ、食い溜めしとくやで!


 肉と野菜を盛りつけたプレート10枚食べた。腹一杯で満足した。もう今日は動けんかも。

土御門君のドリブルについて、『REGATEドリブル塾』 様の 『【実は簡単】ドリブルが進化する!「2軸ドリブル」の使い方!』を参考にしました。

https://www.youtube.com/watch?v=qW8R-p6jqG0&t=174s&ab_channel=REGATE%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%96%E3%83%AB%E5%A1%BE

他にも多種多様なドリブル技の解説ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] チート持ち主人公がキーパーで活躍するって話はユニークだし面白い! [気になる点] たまに会話や思考に混じる「フヒヒサーセン」みたいなオタクスラング見ると共感性羞恥で死ねる
[一言] 毎日投稿お疲れ様です、楽しく読ませていただいてます! 大変だとは思いますがこれからも頑張ってください!
[良い点] 物語の進み具合のテンポが良くなった。 [気になる点] 一話一話の分量が少ないがなぜでしょう。 話の展開は悪くないし、進み方もちょうど良いけど物語の密度が薄い。 けど、サッカーの技術的な部分…
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