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2. 入学式 前

「父さんの会社が倒産……?」



 思わず聞き返してしまった。正直今世で二番目に驚いている。因みに一番は転生したこと。一番が常識というか現実の埒外過ぎて、倒産に対する驚きが小さいが、それでも今世では二番目に驚いている。



「あぁ……。」



 父親の低くくぐもった唸り声のような返事に、リビングの空気が重くなったと感じた。ああ、マジなやつだ。前世持ちという非凡な出生からくる人並外れた直感が父親の発言が真実っぽいと判断した。いやマジかぁ……。



「……そっか。……今このタイミングで俺に伝えたってことは高校に通う余裕がないってこと?」


「それは違うの和義。会社を売ったお金と(せい)さんと私の貯金を崩した分でなら高校卒業まではさせてあげられるの。でも、借金が残ってるから明日からは貧乏な生活にさせてしまうのよ……。急にこんなこと言われて戸惑ってしまうかもしれないけど、だからこそ今言うべきと判断したの。」


「すまない、和美(かずみ)、和義……。」



 父親は晴義(はるよし)という名前で、母親は和美(かずみ)という名前だ。対よろ。


 という冗談を脳内で済ませたところでワンクッションを置き、母親の言葉を真剣に考えてみる。まず借金の総額について、幾らあるか分からないが聞いても教えてくれないだろう。なので明日からの貧乏生活とやらで推し測るしかない。次に両親の貯金残高について、こちらも余り期待しない方が良さそう。確か高校卒業までに学習費だけで150万円近く掛かるらしいが、それは大丈夫という言葉すら今は信じ難い。そんな貯金があるならまず真っ先に借金返済に充てられるだろうし。そして最後にこれからの生活について。一応父親が社長ということもありそれなり以上に高まった生活のランクを急に落とすと両親たちは精神病に罹る気がする。そして俺も前世ではヤバい(語彙力皆無)ぐらいの貧乏生活を送ったことがあるが今さらあんな生活耐えられそうにない。


 これらのことから導き出される結論として、俺もお金を得るようなことを始めなければマズいのでは?


 この後少しこれからの話をして、ひとまず家族会議が終わった。明日からの高校生活が急に灰色になってしまったような気がしたが、よく考えれば「転生」する直前、つまり前世で死んだ時の方が圧倒的に状況が悪かった。もし破滅ゲージなんてものがあれば、今はまだマイナス10ぐらいじゃなかろうか。もちろんこれは「死」をマイナス100とした値だ。そう考えるとまだまだなんとかなりそうな気がしてきた!勝ったな、風呂入って寝てくる(フラグ)。


 因みに俺の予想していた嫌な予感とは「家族の誰かに癌的な何かができた」というもので、本当に当たらなくて良かったと心底思った。




 一夜明け高校入学式当日。


 朝ご飯にパンの耳が出てきた時、マンガの貧乏飯みたいで思わず笑ってしまった。昨日の今日で急に来たからビックリした。まあ雑草じゃなくてまだ良かった。アレは人間の食べ物じゃないからね、仕方ないね。とはいえ初日でこれとは、本当にエゲツない借金抱えてそうだな。母親の「貧乏生活といえばコレ!」的なノリであって欲しいけど、どうなんだろうな。てかパンの耳美味え。


 昼から始まる高校の入学式に向けて準備をしようと考えた時、電車通学無理じゃねと気付いたのもこの朝ご飯を食べ終わった時だった。一応自分の学力に見合う高校かつ通学時の利便性を熟慮した上で決めた学校だが、最寄駅から5駅ほど先にある学校なので、徒歩なら1.5時間近く掛かりそう。俺が本気で走れば多分20分ぐらいで着くけどそんな人外染みた真似は流石にしたくない。体力も勿体無いしね。というわけで通学は自転車を使いま……。えっ、自転車もうないの!?そんなぁ……。というわけで徒歩通学になりました。体力がつくし近所の人からも覚えてもらえるからいいこといっぱいだね(白目)!


 入学式の受付が11時30分から始まるので、家を出るなら10時30分ぐらいでいいだろう。流石に両親は仕事を探さなければならない(建前)のと徒歩は疲れる(本音)ので今日の入学式は不参加らしい。まあ俺も仕事探しして欲しい(建前)から仕方ないと諦めよう。でも一生に一度なんだから来いよ(本音)。


 ところで今日の昼ご飯はどうすればいいのか聞いたところ、冷蔵庫に残ってるものをちょっとだけ使って何か作ってだと。一人暮らししてた時の料理技能が衰えてなければそれなりのものを作れるはず。


 そんな感じで貧乏生活初日をそこそこ楽しみながら午前を過ごし、きっちり1時間掛けて入学式の会場にやって来た。今世では初めて高校の制服に袖を通したが、中学の制服よりも着心地が良い。学生鞄から上履き代わりの便所スリッパ(赤)と入学要項を取り出して、秘蔵のお年玉を詰めた財布はブレザーの内ポケットに仕舞う。貼り紙の通り体育館に向かい、前の方で適当に空いていたベンチに腰掛ける。そして市立図書館で借りた小説を読み始めた。




 ……30分経ってもまだ誰も俺の隣に座ってこないのは何でだろうな。高校七不思議に加えておこう。

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