28. 四国大会 愛媛県予選 決勝戦
2回戦は特筆すべきこともなく控えチームの前線が大暴れして5-2で勝ってた。まあ俺がキーパーなら6-0(内1点は俺)で勝ててたんですけどね!やっぱり林先輩のキーパー力落ちたね、気もそぞろだったし。一体全体、何があったというんだ?
続く準決勝も林先輩が直談判してもう一度キーパーとして出場したが、選出されたメンバーの奮闘や1年組の溌剌としたプレーもあり、至極あっさりと勝って来た。戦績は4-1。林先輩は気力十分という感じで先程の試合とは見違えるようにプレーをしていた。唯一の失点についてもパンチングでシュートを弾き飛ばすまでは良かったが、その方向が悪かっただけ。まさかインターハイ間近のこのタイミングでダイビングヘッドを仕掛けてくるとは誰も思わないから。あんなものほぼ事故のようなものだ。
さて、決勝戦。もう勝っても負けても明日の地方大会に出場は決定しているので、1年生やこれまで選手として長時間出場していた者はスタメン免除。
それを踏まえての選出はこうなった。
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FW:20番 重松 清十郎(3年)・19番 星 進士(2年)
MF:16番 七留 佑(2年)・15番 山田 翔太(3年)・7番 石川 颯太(3年)・5番 中野 瑛士(2年)
DF:13番 鈴木 健一(2年)・12番 佐藤 大地(1年)・4番 金田 望(2年)・2番 石清水 八幡(3年)
GK:1番 葉隠 和義(1年)
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味方の編成:DF-MF-FW=4-4-2
相手の編成:DF-MF-FW=3-3-4
そんな人居たっけ(失礼)という人選ばかりだが、居るんです(ごり押し)。今回は登録選手が22人と少な目だそうで、連れてきた全員を連携確認も含め様々なメンバーで出場させるそうだ。要は1軍2軍だけのメンバー構成ではないということ。今回は防御重視のウチと攻撃重視の相手という感じで編成は被らなかった。
木谷キャプテンは時間にして2試合フル出場したので司令塔は石川先輩に任せ、自身は顧問の代わりに戦術分析などを行うそうだ。因みにもう今日は出場しない他の選手はベンチコートを羽織って呑気にピッチを見つめている。なんか虚無猫のような表情のヤツも居れば、チベスナ顔のヤツも居た。まあ林先輩と火暮のことだけどね。
味方陣営のキックオフで試合が始まった。石川先輩が山田先輩にサイド目一杯に展開するように指示し、相手ディフェンスの守る範囲を広げる作戦に移った。しかも厭らしいことに重松先輩がエンドラインぎりぎりでボールを待っているせいで迂闊にサイドに意識を向かせることもできないようにしている。相手のFW陣は詰めてくるがスペースを埋めるという意識が少ない為、パスを繋げてボールを保持。
そうして相手中盤をも引き摺り出し後衛との距離が更に空いた隙を目掛けてパス。星先輩が受け取り重松先輩にロングパス。重松先輩はくっ付いている相手DFを前後の揺さぶりでマークを外し、裏に抜けていくそのパスを拾った。そのままエンドラインを軽く突っ切り、ペナルティエリアに侵入。キーパーが少し前進していつでも飛び込めるというアピールをしたところで、向こうのDFが追いつき肩を当てながらボールを奪った。
相手DF陣はエンドライン間際で一旦ボールを回してから、MFにパス。すぐにサイドから戻ってきた相手FWにパス。そして中央から突っ切ってくる相手MFに返却し、逆サイドへ展開した。逆サイドからはFW2名のうち1人がボールを受け取り、眼前のDFの頭を越える高めのパスを出した。もう1人がボールを受け取り、中央へ切り込んでいく。
エンドライン間際からボールに対して寄せて行く味方DFであったが、もう間に合わないと悟ったのかゴール前で待機するように戻っていく。これ以上内に入り込んでもキリがないと悟った相手FWはペナルティエリアからシュートを装い逆サイドから上がって来ていたFWにパス。そのFWがダイレクトボレーシュートを放った。威力はまあまああるがボールの回転も狙われたコースも甘いので難なくキャッチング。ハンドボール投げの要領で中盤で1人浮いている中野先輩目掛けてパスをした。
両チーム互いの司令塔の力が拮抗しているのか、試合は中盤で止まったまま前半は終了した。
先輩たちは5分の休憩で疲労は抜けても消化不良だったのか、重たい足取りでピッチに戻っていく。とはいえ活を入れる必要はなさそうかな。だって別に点取れなくても明日の大会出場は決まっているからそこまで必死になる必要ないし。それに連携不足が原因なのは誰の目にも明らかなわけだから今言っても仕方ない部分がある。それを分かっているからこそ木谷キャプテンたちも何も言わなかったんだろう。
相手も相手で不満そうな雰囲気を漂わせながらピッチに入ってきた。試合展開は先程と同じでずっと中盤でボールを奪い奪われを繰り返している退屈なものだった。偶に中盤から抜け出した選手がゴールを目指すようにドリブルで突っ切るも、DFにしっかり防がれまたしても中盤にボールが戻る。ロングシュートは狙わず、かといって裏に抜けているタイミングでパスはやって来ず。石川先輩は広く攻めるのをやめて相手の喉元に食らいつく作戦を提示したが、急な作戦変更に味方が付いていけずに断念。両陣営が負のスパイラルに陥っている。
誰もがこの空気感をなんとか払拭してくれと願いながらアディショナルタイムに突入。金田先輩がFWの攻撃を止めて俺にボールを回してきた。後半の退屈な試合展開への憤りも込めて前線を狙ってボールを蹴った。オフサイドをとられても別にいいやと思いながら蹴ったためか思いの外ボールは遠くへ飛び。……1回戦の時のようにゴールエリアでワンバウンドした後ゴールへ突き刺さった。
どよめきのような歓声が沸き上がるとともに審判が笛を鳴らし、試合終了となった。俺の体内時計ではもう少し時間はある筈なのだが、まあいいだろう。中央で向き合った相手の顔には「やっと終わった」と書いてある。敗北の悔しさは残っていないみたいだ。
県立修徳高校 1-0 市立宇和西高校
葉隠 和義 後半30分+2
ここまで達成感のないゴールもあったもんだ。まあ勝ったからいいけど。……それにしてもこの試合を宿舎でイメトレするのは難しいかもしれないな。なんというか味方のことを知らなさ過ぎていまいちイメージが掴み切れないし、そもそも個人技で突破する以外に今のところ思い付かない。それに無理矢理にでもチームプレーしていたということは、つまるところ個人技は極力なしで四国大会に挑むという共通理解があるのだろう。俺は知らないけど。
第1コートに再び集まり、閉会の挨拶とともに県予選優勝校で表彰された。あざます!いやぁ、それにしても『アレ』の発表はまだされないのかな。ほら、『アレ』だよ『アレ』。優秀選手ってヤツだよ。その後、挨拶は特に起伏もなく終わりを迎えた。
……えっ、えっっ、えーっ!?この大会って『MVP』ないの?
内心でがっかりしながら、木谷キャプテンと顧問のお婆ちゃん先生の引率で宿舎に向かった。
起はなく、承も転もなく、ただ結ばれただけの県予選。
でもインターハイの調整として参加する高校が多いから仕方ないね。
追記.
『1回戦-2』を『2回戦目』としてカウントしていたマヌケは誰ですか?
後ほど修正します。教えていただきありがとうございました。
→簡易的な修正として林先輩に犠牲になってもらいました。ごめんやで。
そのついでにもう一つ。いつも感想や誤字報告、ブクマ、ポイント評価、そして何より拙作を手に取っていただき誠にありがとうございます。
何が皆さんの琴線に触れたのか分かりませんが、拙作の字義通りまだまだ拙いこの作品に何やら過分な評価を得ていることは重々承知いたしております。
今一つ活かしきれていない設定や浅すぎる試合描写等、改善の余地がもはや富士山並みに存在している現状ではございますが、これからも邁進していく所存でございますのでよろしければ今後ともお付き合い頂けますと幸いです。




