23. レギュラー選定 後
正式に俺がレギュラーに決まったところで、いつものシュート練習が始まった。今回から正キーパーとしてサッカーコートにある方のゴールを守ることとなる。まあ流石にみんな新入生よりは上手かったが、やはり未体験の子に比べるとシュートの方法がぶっ飛んでるわけではないので面白さはなかった。ただ先輩方のシュート方法は全部学ばせてもらったけどね。……だからあんまりゴールに入ったからって喜ばないでください、全然本気じゃないんで。
試合は俺含む新レギュラー陣対各ポジションのランク上位陣で行われることとなった。しかし相手チームのキーパーである林先輩が居ないので、その代わりに2年の町田先輩という旧レギュラー陣の第2キーパーが入った。
新レギュラー陣
FW:11番 火暮 真(1年)・10番 国松 聡(2年)・9番 栗田 茂(2年)
MF:8番 土御門 辰馬(1年)・7番 石川 颯太(3年)・6番 木谷 楓悟(3年)・5番 中野 瑛士(2年)
DF:4番 金田 望(2年)・3番 渡辺 一郎(2年)・2番 石清水 八幡(3年)
GK:1番 葉隠 和義(1年)
味方の編成:DF-MF-FW=3-4-3
相手の編成:DF-MF-FW=4-3-3
奇しくも仮入部の時の俺が出た後半戦と同じ編成だった。ただ違うのはこの場には基本的には上手い人しか居ないというのと、攻撃も防御も強気な人たちばかりということだ。さらに先程まで2対2で思考力までも鍛えられているのでお互いに厄介な相手だと認識するだろう。
試合は相手のキックオフで始まった。早速、相手は真ん中でどっしりと構えている木谷キャプテンを避けて左サイドへパスを回した。そしてボールは少しずつ前へ運ばれていくが、木谷キャプテンのプレッシャーの掛け方と、左サイドの陰の仕事人・中野先輩の誘導により徐々にプレイの規模が狭まっていった。そうして最終ラインへと到達した時には逆サイドはスカスカな状態になっていた。相手もそれに気付いてはいる様子で、しきりに「逆サイドへ回せ」と声がかかるがもはや囲まれてしまい逃げ道のないままボールを奪われることとなった。
ボールを奪ったのは岩清水先輩で、そのまま俺にボールを流してきた。しかし如何せん俺に気を使ったのか何なのか知らないがスピードがなかったので、俺から迎えに行く形で右サイド前線へ展開した。俺からのパスを取ったのは国松先輩。信じられるか、この人左ウィングなんだぜ?国松先輩はそのまま右サイドへドリブルで展開していき、右サイドから中央へ切り返した火暮にパス。火暮は火暮で再び右サイドへと展開していき、上がってきた木谷キャプテンへとパス。そして木谷キャプテンはそのボールを受け取り左サイドから上がってきたノールックパスで土御門へつないだ。
コートを広く使うオフェンスに相手ディフェンス陣はやりたい放題されてしまい崩壊。土御門のミドルシュートがゴールの右上角を穿った。シュートにしっかり反応は出来ていた町田先輩だったが、如何せん体つきが華奢(俺目線)なのでボールには頭3つ分ほど届いていなかった。
再び相手のキックオフで試合が再開した。今度は中央を攻め上がってくるようでドリブルで駆け抜けてくるが、木谷キャプテンの目の前でバックパスを行っていた。バックパスを受け取った相手MFは木谷キャプテンが前に出たタイミングで頭上を越える縦パスを出して抜いた。再びドリブルで進もうとする相手だったが、味方DF陣がしっかりとスペースを潰しているので止められていた。……流石に2対1でマシューズは無謀だと思うんだ。そんなんで抜けるなら今更レギュラーだっただろう。まあリフティング先輩ならそこからヒールリフトとかを組み合わせたりとか出来たと思うけどね。
ボールを持った渡辺先輩は木谷キャプテンへとボールを渡し、少しだけポジションを上げた。それに合わせるように他2人のDF陣もポジションを上げた。木谷キャプテンは中野先輩にボールを渡し、栗田先輩と金田先輩の3人でボールを前線へ上げていく。なんというか三角形を作ろうとしているのは分かったが、スピード感がバラバラだった為普通に相手にボールを取られていた。
今度は相手が三角形を作っていたが新レギュラー陣よりもずいぶんと綺麗な三角形だった。3人でボールを回しながらどんどんと前線を駆けあがる相手に遂に我がチームの最終防衛ラインが破られた。そして中央を切り裂くように右サイドから駆け上がってきた相手DFがそのままゴールに向かって突っ込んできた。チームメイトたちは残念ながらスピードに乗った相手DF君を止めることは叶わず、ペナルティエリアをゴールエリアまで来た。もはやシュートではなくそのまま突っ切ってくることが【未来視】でも見えたので俺も前に出て少し手を動かすように見せた。相手が一瞬速度を緩めたところをさらに近づいて威嚇するように両手を上げると流石にシュートを打ってきた。だが残念、見えてる。横に飛びボールへと拳を当て、三角形制作に失敗した金田先輩にボールを弾く。
金田先輩が土御門にボールを回し、国松先輩と3人で再び三角形を作っていた。途中で国松先輩と木谷キャプテンが変わったりしたが相手ペナルティエリア目前まで運んで行った。そして再びミドルシュートを放った土御門であったが、今度はコースが右のポストすら逸れるライナー軌道であった。しかしゴールから離れるまさにそのタイミングで栗田先輩がレギュラー戦の時のように足裏で軌道を変えてゴールに捻じ込んだ。
2-0となった時から新レギュラーは木谷キャプテンの指示通りに動き攻撃よりも防御に力を入れる様になった。ゾーンディフェンスとやららしいが、戦術理解が足りていないのか国松先輩は殆どマンツーマンをしている。……まあ、相手の中心選手的な人物をマンマークしているので結果的に相手の攻撃速度が遅れて良かったのかもしれない。
結局その後もゾーンで生まれているぎこちない隙を突かれて何度かシュートを打たれたが全部俺がシャットアウトしといた。
新レギュラー 2-0 高ランク
土御門 辰馬 12分
栗田 茂 21分
いやはや、特に恐怖を感じるようなシュートもなく試合はあっさりと終わったという感想だ。先輩たちのシュートの癖はさっきまで見てたからまあこんなもんなのかな。この後、練習が終わり自由時間となったが、俺はそそくさとサッカーコートを後にした。こんな所にいられるか、俺は帰らせてもらう!




