22. レギュラー選定 PK戦
2対2では【未来視】を使ってまで最初のじゃんけんに負け続け、延々とディフェンスをしていた。だからというかなんというか、色んな人の癖を間近で見ることができた。ぶっちゃけ俺にとっての本番はこの2対2でも最後のミニ試合でもなく、今日に限っていえばこの後のPK戦なので諸先輩方の情報を集めさせていただきました。まあだからEランクで良いんだよ、ってワケ。おいおい、俺のお笑い戦闘力は留まることを知らず、ってか?全く、やれやれだぜ……。
シュート練習が始まった。まずは10分ほど慣らしで通してから本番らしい。キッカーはもう最初に発表された。
キッカー
Dランク 栗田
Cランク 火暮
Bランク 土御門
Aランク 木谷
Bランク 林/Eランク 葉隠
このメンバーのうち栗田先輩というのは、レギュラー戦のフリーキックの時に木谷キャプテンからパスを貰ってダイレクトシュートみたいなことをしていた低身長先輩だ。俺的にはPKは威力の方が大事だと思っているので、新レギュラーの国松先輩とかの方が良い気はするんだけど。因みにこの中では木谷キャプテンと林先輩以外の癖はさっきの練習でもう見抜いている。
林先輩は木谷キャプテンや国松先輩に付き合ってもらいGKの勘を研ぎ澄ませるらしいが、俺はシュートの練習をしていた。普段キーパーばっかりで碌にシュートを打つ経験なんてないし。しいていうなら仮入部の最初のパス練の時ぐらいかな?
まずはサッカーコートの感触を確認する。……グラウンドよりも芝生の分地面が軟らかいので踏み込みはもっと強くしても良いだろう。俺の身体スペックを考えるとグラウンドで地面が削れるほどに踏み込んでも怪我はしないと思うが、用心するに越したことはない。そこはいずれプロになる者の流儀だ。
次にボールに触れる感触を確認する。若干浮わついているような奇妙な感触の為、ボールを蹴る時にグラウンドでの感覚ならばあらぬ方向に飛んで行ってしまいそうだ。でもまあ基本的にはボールの中心付近を蹴れば良さそうではある。
最後に実際にシュートしてみる。真芯を捉える様にして蹴るとボールは真っ直ぐに飛んでいく。インサイドを滑らせるようにして蹴ると横向きにカーブしていく。そして足を寝かせながらインサイドで擦り上げるように蹴ると縦に落ちるように曲がった。横カーブと縦カーブを実際にかけられるようになったので、最初のシュート練習で見た土御門のびっくりカーブを再現する。あの時の土御門のシュートは横回転と縦回転の組合せで横に曲げながら縦に落とすシュートを打っていた。簡単に説明すると真横からボールに向かって走り腰のひねりや軸足すらも横に寝かせて蹴る、ただそれだけだ。そして実際にその通りに動くと、あの時の軌跡を描いてボールはゴールに吸い込まれていった。ここで更に後ろに倒れるようにすると縦回転が増し、ボールはさらに落ちた。
カーブシュートばかり練習していたらいつの間にか本番がやって来た。……毎回思うことだが俺って『いつの間にか』時間が来てること多くない?時間管理ガバガバすぎやろ。ま、それは置いといて、順番は林先輩が先で俺が後。普通にじゃんけんで決めた。
1人目のキッカー、栗田先輩。林先輩には左下への鋭いシュートを放ち、見事止められる。やっぱりスピードが足りないね、スピードが。俺には殆ど回転がかかってない滅茶苦茶にブレるシュートを放って来た。野球で言うところのナックルボールだ。なんだか取るよりも弾く方が良さそうだったので、腰を入れたジャブで防いだ。現在の戦績、1-1。次ぃ!
2人目のキッカー、火暮。コイツは、PKに技術もクソもねぇ、気持ちとパワーだ!を地で行くヤベーヤツだった。もしや俺と同類かな?林先輩はサイドに来たボールに触れはしたがボールの勢いに逆に手の方を弾かれてゴールを許した。俺は普通に真正面に回り込んでキャッチした。まだ余裕。現在の戦績、1-2。ネクストッ!
3人目のキッカー、土御門。林先輩には、思い切り助走を付けた上で新入部員の1人がやった虚仮威しシュートを放っていた。地面を転がるだけのボールなんて余裕で止められると思ったのだが、林先輩の動き出しが遅く結局右隅に決まってしまった。俺相手にはラグビーでいうコンバージョンキックのような足を振り切らないシュートで、浮かび上がってくるようなボールを蹴って来た。両手で作ったハンマーを振り下ろすか迷ったが結局はジャンプしてヘディングで弾き飛ばした。俺の体が反動で後ろに倒れ掛けたが、腹筋に力を込めて元の体勢に戻った。現在の戦績、1-3。(事実上の)ラストォ!
4人目のキッカー、木谷キャプテン。この人はキーパーのタイミングをずらしてシュートを打つ人だった。どこからその観察力が出てきたのかは知らないけど、まあ普段から部員全員を見てるんだしそんなもんなのか?助走なしでボールの前で立ち止まり、林先輩がプレッシャーに焦れて一歩前に出たタイミングで鋭いシュートがゴール右上に突き刺さった。……厭らしい性格してるで、ホンマ。木谷キャプテンは俺にも同じことを仕掛けてきたが、別に焦らされたところで【未来視】でタイミングを計れば良いからシュートには焦らず対処した。現在の戦績、1-4。俺の勝ち、なんで負けたかレギュラー来るまで考えといてください。
勝負はついたがPK自体はまだ続けるそうだ。ということで続けて5人目のキッカー、俺。前世からネットインとかオンザラインとかが好きだったので、今世ではイかれたチートを使ってそれに倣う。名付けて、運が良かったから偶々入りましたよ作戦、始動。まあ作戦といってもポストに当ててゴールを狙うだけの簡単なお仕事です。ポストの内側を狙い定めて振り抜いたシュートは、甲高い金属音とともにゴールに吸い込まれていった。林先輩はシュートを蹴ることなく、肩を落としてコートから離脱した。……対あり!
因みに曲がるシュートを練習してた時の主人公くんについてなんですけど、中村俊輔選手のフリーキックを参考にしてます。




