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20. レギュラー選定 前

 レギュラー戦を俺だけのお陰で勝った(捏造)翌日。


 いつも通り徒歩で登校して教室で1人読書をしていると、小柄で大人しそうな子が話しかけて来た。



「今日は昼休みに視聴覚室集合だってさ。」


「お……。」



 違った、業務連絡だった。というかこの子もサッカー部だったんだな。初めて知ったわ。そして返事を待たずに俺の前から消えたサッカー部のおチビくん。……クソが、お前もチャラ男(土御門)と同じ絶許リストに入れてやろうか。




 時は流れて昼休み。いつも通り昼食を1人で摂り、視聴覚室へ向かった。普段はウェイ系やその仲間のサッカー部員達が教室で騒いでおり共感性羞恥により居た堪れない気持ちになってしまうのだが、今日はサッカー部員達がほぼ全員早弁していたこともありウェイ系は大人しく鳴りを潜めていたため初めて教室でゆったりとした気分で昼食を摂ることができた。


 視聴覚室へ到着した時には既に大半の席が埋まっており、俺の特等席であるド真ん中の椅子も既に埋まっていた。疎らに席は空いているものの、それは隣に居るのが机の上を勉強道具で占領している者や伏して寝ている者ばかりであり、普通の人間なら誰もが近づき難いと考えている典型のような人物の隣だけだ。


 入口でキョロキョロしていると、左端の後ろ側の席で川瀬(かわせ)先輩の横が空いていた。



「こんちわっす、先輩。席ご一緒させてもらっていいっすか?」


「お、葉隠か!全然いいよ。」



 許可を得たので隣に座る。こういうところでは横着せずに許可を求める方が良いんやでって前世の社会人時代に会社のマナー講師に教わった。普段から重箱の隅をつつくような捻くれ者だったから「それ本当にマナーか?」と思うことも多々あったが、こと来世に至って漸く役に立った。つまり現世で辛い思いをして役に立たないものを学ばされるぐらいなら、マナーなど要らぬぅ!ということだ。来世に期待する人は勉強してどうぞ。まあ大人になるまで普通に勉強している人なら、自身の倫理道徳観念に基づいた行動を心がければいいんじゃないですか?知らんけど。



「ざっす!ところで今日ってなんの集まりなんすかね、先輩は知ってます?」


「……うん?全体にメッセージ送られてるけど見てないの?」


「あー、自分はケータイがコレなんで多分メッセージ自体来てないんすよ。」


「えぇ……。今時ガラケーって使いづらくない?」


「どうせ電話とメールしか使わないんで余裕で使えるっすよ。」


「あらまぁ。てことはネットとかってあんま見ないの?」


「学校の情報処理室で偶に使うぐらいっすかね。」


「ふーん、なるほどねぇ……。じゃあやっぱり普段使ってるドリブル技とかって元々は全部部員から見て覚えたって感じ?」


「えぇ……、だいぶ話飛んだっすね……。うーん、確かに見て覚えたのもあるっすけど、自分で考え付いたのとかも結構あるっすよ。」


「はぇ~、すっごいなぁ……。サッカーの才能あるねぇ、君ぃ!」


「ははは、なんすかその変な喋り方。誰のマネっすか?」



 和やかに会話を行うこと数分、壇上に大きな紙の筒を持った木谷キャプテンが上がった。それとともに視聴覚室のざわめきも収まりを見せた。



「えー、キャプテンの木谷です。それでは全員揃ったようなので、昨日の今日で申し訳ないですが、レギュラーの入れ替えを行いたいと思います。既に私が決めてはいますが、意見がある方は発表が終わった後にお願いします。それでは発表します。」



 来たにキャプテンがホワイトボードを中央に持ってきて、広げた紙を貼り付けた。



 ────────────────────


 FW:11番 火暮ひぐらし まこと(1年)・10番 国松くにまつ さとし(2年)・9番 栗田くりた しげる(2年)

 MF:8番 土御門つちみかど 辰馬たつま(1年)・7番 石川いしかわ 颯太そうた(3年)・6番 木谷きや 楓悟ふうご(3年)・5番 中野なかの 瑛士えいじ(2年)

 DF:4番 金田かねだ のぞむ(2年)・3番 渡辺わたなべ 一郎いちろう(2年)・2番 石清水いわしみず 八幡はちまん(3年)

 GK:1番 葉隠はがくれ 和義かずよし(1年)


 ────────────────────



「これからレギュラーを新たに選定した理由を説明します。そもそもこのサッカー部は全国制覇を目標に活動しており、そこに入部した皆さんも同じ目標を抱いているものだと考えています。であるならば私は部長として、そして皆さんを率いるキャプテンとして、『勝つ』ということについて徹底的に詰めなければなりません。とはいえ部員の皆さんにまで『勝ち』に全神経を注げとは言えません。なぜならこれはあくまで部活動であり、クラブやユースの練習ではないからです。


 さて、四国大会も間近に迫った昨日は旧レギュラー陣対選抜メンバーで試合を行いました。結果は旧レギュラー陣が負けてしまうという不甲斐ないものに終わりましたが、部を率いる者として敗北をそのまま受け入れるわけにはいきません。より『勝てる』チームに仕上げなければなりません。そこで昨夜、試合を思い返しながら修徳高校サッカー部ベスト11イレブンを新たに創り上げました。それがこのメンバーです。


 まずFW陣の説明からしていきます。11番の火暮はFWとして何よりも大事な得点力を持っています。実際に昨日の試合では序盤にシュートを決めており、それが決勝点となっていま…………。


 最後にGKについての説明を行います。GKに最も必要な要素は何かといえば、『絶対にゴールを決められない』ということです。そうすればチームが負けるということはなく、最低でも引き分けに終われるからです。極論を言ってしまえば、キーパーには『人々を魅了するような華麗なフットワーク』も、『守りの上からでも強引にゴールをこじ開けるほどのシュート力』も、『出された作戦を瞬時に理解する頭脳』も、『全体を俯瞰する視野』も、サッカーの『華』と呼ばれるものは何もかも必要ありません。得点さえ決められなければ他には何も必要ないのがGKなのです。それで昨日の試合を無得点で守り抜いた葉隠をレギュラーに選定しました。もちろん昨日の結果が偶然であるという可能性は否めませんが、それを言ってしまえば昨日旧レギュラー陣が負けたことも『偶然』という一言に収束されかねません。しかしそれは『勝ち』にこだわる者がしていい評価ではありません。99回勝って1回負けるよりも、99回勝って1回引き分けのチームを選ぶ必要があるのです。


 以上の理由から、キャプテンである私は新レギュラー陣を選定いたしました。なにか意見がある人は挙手をお願いします。」



 まあそりゃこうなるよねって感じで視聴覚室中が騒めき始めた。皆キャプテンの選定理由を聞いているのか聞いていないのか分からないが、意見があるなら言えばいいのに。隣の川瀬先輩も険しい顔でレギュラー表を見つめてるし。……もう、仕方ないから俺が言うよ。



「えっと、じゃあ自分からいきます。えー、まず一つ目なんすけど、キャプテンってそんなに大事な試合だった癖にこれだけ他の選手を見る余裕があったんすね。なんか力入れるところ間違ったせいで試合に負けたんじゃないかって思うんすけど、実際どうなんすか。でもう一つは、たった1回の試合で自分の才能を見出してくれたのは素直に嬉しいんすけど、納得してない人も結構居るっぽいんでPK何本止められるかで勝負しませんかということっす。自分からは以上っす。」



 俺の意見で頷く生徒も若干名居た。おい、ならお前らが言えやって思わなくもない。だが俺は前世を経験してる分、精神年齢がこの場の誰よりも高いのでグッと堪える。いい歳をした大人がたかだか子供の仕草に対してブチギレるのってダサいもんね。しかし一方で川瀬先輩は相変わらず険しい顔をしたままだ。



「えー、自分が新レギュラーに選ばれたにもかかわらず意見をありがとうございます。まず昨日の試合の件についてですが、私は偶然などではなく負けるべくして負けたと思っています。その原因は偏にチームワークや私個人の能力では覆せない程の総合力の差でした。というのも、今まで能力はあるのに我が強すぎてレギュラーに加えてこなかった人物も選抜チームに加えてみたのですが、その彼を上手く扱える存在が選抜チームに居たことで想像を覆す見事な活躍をされたというのが一点。そして、勝負所できっちりと点を取ってくるストライカーが選抜チームには居たというのでもう一点。加えて、どんなにシュートを狙い打ってもその全てを防いで得点を阻んだキーパーが居たということでさらに一点。他にも考えられる要素は様々ありますが、今はこれ以上は言いません。


 そして実は先程の説明では敢えて省かせていただきましたが、葉隠のレギュラー入りに関して1つだけ私の中で懸念事項があることを追加で説明させていただきます。それは葉隠の礼儀がなっていないという件についてです。葉隠は部活動そのものが初めてなのは分かりますが、先輩に限らず誰に対しても不遜な態度が目に余ります。別に今ぐらいなら問題ないだろうと考えている人も中にはいらっしゃるかもしれませんが、仮に試合中、葉隠のその態度が原因で相手がラフプレー上等といった試合展開に変更してきたり、審判の判定がこちらに対してだけ厳しくなるようなことがあっては堪りません。そこで葉隠には至急礼儀を身につけて欲しいと考えております。が、時間的におそらく間に合わないので、腹案として、葉隠が原因でチームが不利になった場合には葉隠自身に責任を取ってもらおうと考えています。つまり葉隠自身が原因で点を取られるようなことがあれば以後は再び林をレギュラーに変更するということです。


 PKの件について私からは承諾はできませんが、林が了承したならば実行していただいて構いません。以上です。」



 お、おう……。キャプテンもそれなりに実力差は分かってたんやな。あとはまあ、仁義礼智は大事って前世では孔子も言っていたし仕方ないね。なお今世では孔子の代わりに馴子しゅんしとかいうヤツが言ったことになってる模様。


 それにしても俺もいい加減この口下手・・・を直したいんだけど、なにぶん今世では人と喋らなさ過ぎて、仲良い人の前以外では前世の癖がそのまま口を突いて出てるような状態なんだ。すまぬ、今すぐにどうこうできない問題だ。時間と喋る相手があれば、テキトーに矯正していこう。




 その後、結局俺以外からは特に意見らしい意見も出てこず、林先輩がPK戦を了承したことで新レギュラー選定会議は解散となった。


 いやはやそれにしても俺にだけペナルティあるのか。まああの程度なら全然問題ないんですけどね(傲慢)。

設定集更新しました。新項目付け加えたので気になる方は見てください。

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― 新着の感想 ―
[一言] サッカー経験者じゃないんですが、キーパーの能力を見るにしてはPKって運要素強すぎませんか? あれって勘で飛んで当たったら良いなくらいのやつじゃないんですか? 人を置いた状態でペナルティーエ…
[良い点] 主人公の言動がアレすぎるから、キャプテンの懸念は当然ですね。 だって他の選手は挑発してないもの。一方主人公は、明らかに舐め腐ってる上に口が軽いから公式試合の最中にも挑発しそうだもの。 [一…
[気になる点] 異世界だからあってくれて全然いいけど今視聴覚室ってないらしくて、若い子が読んだらそれなに?ってならないか心配です
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