19. レギュラー選定 閑話(視点変更)
◆修徳高校サッカー部キャプテン3年 木谷 楓悟
今日の試合を振り返り、また新たにレギュラー陣営を組み直さなければならなくなった。四国大会も目前だというのに、本当に困った。全く土御門め……。
いつもの癖で口元を手で覆った時、口角が上がっていることに気付いた。いやはや、本当にこんな面倒なことしたくないのにな。困ったな。……一度気が付いたら笑いを堪えきれなくなってしまった。全国制覇という目標が一歩近づいたような感覚に、否が応でもレギュラー選抜の士気が高揚する。
決して今までのレギュラー陣が弱かったなどとはその陣営を選定した俺からは口が裂けても言えないが、より強く勝てるチームにするための努力を惜しむつもりはこのキャプテンという役職を任せてもらった時から微塵も変わっていない。
まずFWから。今回の試合で完二からゴールをもぎ取った火暮。攻め気が強くインサイドハーフというより最早ウィングとして機能していた国松。そして身長が低いことはネックだがフリーキックの時のような発想の良さがある栗田。この3人は決定。
次にMF。客観的に見ても今回最も動きの良かった俺、木谷。攻守の判断とプレイの要となる選手の見分けが上手い石川。今回の試合中ずっと余裕を見せていた土御門。この3人は決定。
そしてDF。序盤にしてやられたとはいえいち早く立て直しその後は持ち前の体格を生かしてブロッキングを成功させた金田。急遽とはいえリーダーシップを発揮し選抜メンバーを纏め上げた渡辺。規格外の葉隠を除いてサッカー部で一番スタミナの多い石清水。この3人は決定。
まだ全部で9人しか選抜していないが、それには理由がある。GKを葉隠か完二のどちらにするか決め切れていないのだ。身体能力や才能だけでいえば葉隠に軍配が上がるが、経験値や安心感では完二に天秤は傾く。葉隠を選ぶならその分チームを攻撃重視の編成にするし、完二を選ぶなら防御重視の編成にする。つまり、葉隠を選ぶなら、影は薄いが任された仕事はきっちり熟してくれる中野をMFのレギュラーとするし、完二を選ぶなら、遠慮したところがあったが基本的には良い働きぶりを見せた佐藤をDFのレギュラーとして配置する。
ここで現在の所感からすると、3年間頑張ってきてくれた完二には申し訳ないが勝ちに行くだけなら葉隠を選ぶ。だが葉隠は人間としてなっていない部分が多すぎるのが問題で、ないとは思うが、仮に葉隠の態度が悪すぎて相手がラフプレー上等といった試合展開にしてきたり審判の判定がこちらに対してだけ厳しくなるようなことがあってはたまったものではない。かといって万が一の危険性のない完二を選ぶとどうなるかといえば、今日のように多少のゴールを許してしまう試合が増えるだろう。
1年生の本入部後の練習を旧態依然とした走り込みやボール拾いだけに留めなかったことで高いポテンシャルを秘めた火暮や土御門といった有望選手を見出すことができたのは幸運だったが、部活動自体はじめての葉隠にはいわゆる“しごき”というものが必要だったのではなかろうか。もう今更遅いが。
……決めた。今回は完二に涙を呑んでもらうことにする。もし仮に葉隠が原因でウチが不利になったとしても、葉隠自身に責任を取ってもらえばいい。葉隠自身が原因で点を取られれば以後は完二をレギュラーにするし、取られなければレギュラーは葉隠のまま。そういうことにしよう。まだインターハイ予選が始まる前で良かった。
という訳で、蹴和30年度修徳高校サッカー部の布陣は。
FW:11番 火暮 真(1年)・10番 国松 聡(2年)・9番 栗田 茂(2年)
MF:8番 土御門 辰馬(1年)・7番 石川 颯太(3年)・6番 木谷 楓悟(3年)・5番 中野 瑛士(2年)
DF:4番 金田 望(2年)・3番 渡辺 一郎(2年)・2番 石清水 八幡(3年)
GK:1番 葉隠 和義(1年)
に決まった。
そういえば今回の選抜チームは両翼にサイドハーフとウィングを置いたとんでもない攻撃偏重のチームだったなと思わず今更ながらに苦笑いが浮かんでしまう。しかし防御が柔らかくなっている筈にもかかわらずそれでも1点も取れなかったのはやはり葉隠の守るゴールが固すぎたからだろう。うん、やはりキーパーを葉隠に采配して良かったな。
 




