1. プロローグ
───転生して早10年。
前世の記憶のお陰もあり、学校ではそれなりの優等生として通っている。とはいえ知識を引き継いでいるということは性格も引き継いでいるということでもあり、そのせいで今世の高スペックの割には友達が少ないのが残念なところだろう。実際に親にも心配されたし。まあ別に今更友達が居ないぐらいで寂しくなるような精神年齢ではないので問題はない。
さて産まれ直した今世の世界観は前世と全く一緒なようで少しだけ違う。それは、スポーツの人気の偏りだった。前世では野球もバスケもアメフトも、様々な競技にはその競技特有の面白さ等があり全て人気があったのだが、今世ではなぜかサッカー人気が高かった。実際に今世において試合会場で見学した俺の主観でこの原因を説明するならば、サッカーという競技の熱狂度が2割増した分、他の競技の魅力が1割減したような感じ。そりゃサッカーが人気になるわい、というような感じだった。
だからといって転生者の俺がサッカーをするかといえば、それはまた別の話だ。確かに転生チートっぽい【未来視】の力を使えば余裕でスタープレイヤーになれるだろう。だけど違うのだ、俺がサッカーに限らずスポーツをやらない理由は。それは全て俺の高過ぎる身体能力を制御しきれていないことにある(自慢)。小学4年生にして50m走を6秒台で走れたり握力が60kg近くあったりと、これでも一応制御している方なのだが、そういった常識外れの記録が出てしまう。この力を同年代に向けるのは流石に危険すぎる。
というわけで帰宅部として一切運動に関わりのない生活を送っていた。偶にする運動も母親から夕食の買い物を頼まれる時に少しランニングする程度で本当に運動とは縁のない生活だ。最近の趣味は読書。前世の今と同じ年頃の時はゲームばっかりしていたが、俺の能力が高過ぎて苦戦することがなくなったせいで全く面白くなくなった。反射神経が良過ぎるのも考えものかもしれない。その点読書は良い。想像の世界では未知の風景が想起されるし、プロ作家の描く緻密な人間模様には心が高鳴る。前世で「趣味は読書です」と言ってた奴を全員根暗だと決め付けていたのは我が事ながら本当に見る目がなかった。俺もこれからは積極的に「趣味は読書です」を使っていく所存だ。べ、別に読書趣味の友達を増やそうとかは思ってないんだからね!
───時は流れて高校入学前日。
未だに使っている方が珍しいガラパゴス携帯でメールのやり取りをしている。その相手はなんと女子で、しかも俺唯一の友人だ。読書が趣味になり始めた時に学校の図書館で出会ったのが最初。向こうから声を掛けて来てくれたのだが、お互いに好きなジャンルが被っていたと思われたらしい。この時に俺が読んでいたのはミステリーで別に俺の趣味ではなかったのだが、この年代でミステリーを読む人が少なかったから誤解されたようだ。まあ否定はしなかった俺も俺だとは思ったけども。そこからダラダラと関係が続き今に至る。なお友達は出来なかった模様。一人だけなのに「達」はおかしいから仕方ないね。
因みにこの女子とは恋仲でもなんでもない。彼女には昔からサッカーをやっている幼馴染がいるらしくどうやらその彼に惚の字(古語)らしい。直接聞いたわけではないが態度を見ていれば分かった。流石に横恋慕するほど俺も子どもではない。何でもかんでも恋愛に直結するのは良くないと思います、と純真な子供の曇りなき眼()で訴えてみる。なおこの青年の主張は内心だけのものなので誰にも賛同を得られなかった模様。
今彼女とやりとりしている内容は、明日からもよろしくね的な内容だ。なんと彼女とは小中学一緒で、しかも明日から通う予定の高校も同じになるらしい。試験会場で出会った時にはお互い驚いた。それまでは図書館で会って本の話をするぐらいしか接点が無かったので受験のことなんてどちらも話題に出さなかったのだ。連絡先は後日学校の図書館で会った時に交換した。そして親以外で初めての個人の連絡先が彼女だった。
彼女との連絡を終えてもうそろそろ明日に備えて寝ようかとした時、俺の部屋のドアを叩く音とともに「ちょっと和義、下に来てくれない?」と母親にお呼ばれした。
今さらだが今世の俺の名前は、葉隠 和義、対戦よろしくお願いします。
母親についてリビングに降りると、なにやら深刻そうな顔をした父親が食卓で座っていた。なんだなんだと思って母親の方へ振り返ると、母親も険しい表情を浮かべていた。本当に一体なんなんだ? 脳内にはてなマークと一つの悪い予感が浮かぶ。母親に促されるままに俺も食卓につくと、父親が口を開いた。
「和義、あのな。父さんの会社、倒産したんだ。」
えっ……?