18. レギュラー戦 後
【朗報】俺氏、大活躍【初セーブ】
俺の脳内でエンドルフィンか何か知らないが快楽物質がドバドバ、そして脳汁がビチャビチャ出ているのを感じる。目を閉じて浮かぶ光景では、一面に大見出しの付いた記事が百億万部ぐらい売れて一躍お茶の間のヒーローになっている。それにエリーちゃんもあかりちゃんもチアガール姿で褒め称えてくれる。ありがとう、そしてありがとう!
……ボールを持ったままボーッとしていたら(激うまギャグ)笛を鳴らされてしまった。キーパーはボールを持ったまま6秒以上試合を止めてはならないというルールに違反しちゃったのだ。すまねえ、みんな。ま、でも君らが抜かれたんやから、悪いのは実質君らやで(責任感皆無)。
「すんませんっす。ぶっちゃけもっと凄いシュートが来ると思ってたんで戸惑っちゃいました。あ、でもこんなもんならどんだけディフェンスがヘボでも1点も渡さないんで心配いらないっすよ(笑)。」
これはあかん、学生時代に掲示板で煽りカスとして活動していた前世の人格が暴れてる。まあ人格は一つしかないんで実質俺な訳ですが。
それにしても一応形だけとはいえルール違反をしたことに対する謝罪と、味方への鼓舞と相手の士気を下げる為の言葉を発した筈だったのに。あれ、皆さん顔真っ赤っかやん。あっ、あっ、おやめ下さい、石を投げないでください。イエス様に訴えますよ。
都合の良い偶像崇拝で自己弁護を図っていると、間接フリーキックを与えられたレギュラー陣からFWとMF数名が、ゴール前で壁となっているウチのチームメイトたちの間に入り込んできた。
……さて。元はといえば自分で蒔いた種とも言えなくもないこともない気がしないでもない複雑かつ高度な政治的判断までは要求されない現状であるし、そもそも1ゴールたりとも許す気は無いのでパパッと止めてみせようか。
キッカーは俺がいつもリフティングの参考にしているMFの先輩と木谷キャプテン。木谷キャプテン大活躍かよと思わなくもないが、やはり総合力で見るとレギュラー陣の中では木谷キャプテンが飛び抜けている部分があるので仕方のないところか。
ホイッスルが鳴り響き、木谷キャプテンとリフティング先輩がほぼ同時に駆け出す。【未来視】によると先に辿り着くリフティング先輩がボールにタッチし、木谷キャプテンが直接ゴールを狙わずに壁の中に居る上背のないFW目掛けてライナー性の強い低弾道のパスを出している。
【未来視】の通り低弾道で壁を下から崩しにかかるレギュラー陣と思いもよらぬ弾道に一瞬動き出しが遅れた選抜メンバー。低身長先輩はゴールに背を向けたまま、斜め前から受けたパスを靴裏で軌道を変えて変則的なシュートに変えた。普通のキーパーからすると「くの字」に折れ曲がるシュートにはさぞ混乱するであろうが、お生憎様俺にはお見通しだった。たかだか地面を這うように飛んでくるだけのシュートにキャッチングは不要、前線に繋げることを意識しながらタイミングを合わせてループボールを蹴り上げた。
結局あれからも2度3度とDFを抜かれて攻められる展開はあったものの、その全てで俺が得点までの道をシャットアウトした。そのおかげでうちのチームは無失点のまま試合を終えることができた。そして向こうのチームもあの後は林先輩のナイスセーブと守備にも全力を注ぐようになったMF陣達によるインターセプトが上手く機能していたため結局1失点のままだった。まあ所詮前半後半の区別などない30分だけの紅白試合みたいなものだから参考記録にしか残らないと思うが、一応結果報告はこれにて終了。
レギュラー 0-1 選抜
7分 火暮 真
この試合のMVPは勿論、俺!と言いたいところだが、今回は火暮が妥当かな。石川先輩の戦術を速攻で見抜いたし、何より点決めてたし。とはいえコート上で存在感があったのは国松先輩だったな。結局一本もシュートは決まらなかったけど、なんだかんだで前線における殆どのプレーに関わってたし。ま、最初以外点取れてない(強調)から無駄だったけどね!
向こうのチームはあの中では飛び抜けて木谷先輩が上手かった。相手を抜くドリブルも囲まれた時のボール保持もシュートに行くかどうかの判断力も良かった。ただ正直なところチームメイトに恵まれてなかったな。連携は選抜チームより圧倒的に上手く取れてたのは認めるが、個々の実力では選抜チームの平均よりも劣っている人が数名居た。
……それにしてもレギュラー選定の基準は知らないが、今回のような結果なら俺たち選抜チームをレギュラーにした方が試合に勝てて全国制覇できる確率も上がるんじゃないか? そんなことを考えてそわそわしたまま今日の部活動は終了した。




