15. 自己紹介
部活動初日から早1週間が経過した。その間、練習では部員から技をコピーして家では先輩の試合を脳内でシミュレーションするだけの毎日だったので割愛。まあちょっとは上手くなってるんじゃないんですかね?
話は変わり、今日の放課後は部員全員の自己紹介をすることになった。というのも、毎年本入部開始から1週間が経過するまではポツポツと新入生が来るらしく、一々練習を切って自己紹介するのは時間が勿体無いので慣例的に本入部から1週間後に自己紹介をすることになっているらしい。なおサッカー部の連中は皆それぞれ勝手に交流している模様。
そんな中俺はといえば、相変わらず真面目に授業を受けて昼飯をさっさと食った後は図書室で読書をする日々が続いている。俺にも会話する同級生の1人や2人は居ない訳ではないが、俺をサッカー部に誘って来ていた火暮とは入学式以降ほぼ会話ゼロ。なんだアイツ。
放課後になり教室をさっさと飛び出して視聴覚室へ向かう。誰にも気付かれることなく群衆に紛れて移動していると、なんだか自分が凄腕の暗殺者にでもなったかのようで気分が盛り上がる。内心でほくそ笑んでいると視聴覚室に着いた。
中に入ると既に何人か部員が居たが、各々が疎に座っているせいで物悲しさが漂っている。それぞれがやっていることといえば、読書に勉強もしくはスマホ。なんだコイツらクソ陰キャかよ、これからはブラザーって呼ぶわ。
俺は教室の中央の席に座って鞄から日本史の教科書とノート、問題集を取り出した。なんだかんだでもうすぐ中間テストが始まるからそれに向けて勉強しなければならない。前世でいう縄文弥生時代の歴史までは人物名や固有単語がほぼ出てこないからまあ余裕として、古墳時代からが問題だ。誰だよ万羽熊子、蘇我馬子でいいだろ。誰にも理解されないツッコミを入れながら問題集を解いていると、いつの間にか全員揃っていた。
教壇にはいつの間にか木谷キャプテンがマイクを握って立っており、もう1人先輩と思しき人がホワイトボードの横で直立していた。ホワイトボードには箇条書きで、『学年・名前・ポジション・サッカー部に入部したキッカケ・将来の夢』の項目が縦に並べられている。
「あ、あ。……っし。えー、準備が出来ましたのでこれより修徳高校サッカー部の自己紹介を始めさせていただきます。基本的な項目は前のホワイトボードに書かれているのでそれに沿った自己紹介をお願いします。」
『ウェーイ!』
俺がデスゲーム運営ならまずは世の中からウェイ系と呼ばれる人間だけ集めてゲームスタートさせるだろう。俺氏ピキピキで草。
「えー、それじゃあまずは自分から。えー、ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、3年でキャプテンの木谷 楓悟です。ポジションはミッドフィルダーでボランチを担当しています。サッカー部に入ったキッカケは、中学までもサッカーをしていたので、その流れでそのまま高校もサッカー部に入部しました。将来の夢というか目標は、このチームで全国制覇をすることです。これからよろしくお願いします。」
盛大な拍手と共に次の人へとマイクが渡る
「あー。……よし。皆さんこんにちは。3年で副キャプテンの林 完二です。ポジションはキーパー。入部したキッカケは誘われたからで、将来の目標は楓悟と同じく全国制覇。これからよろしくお願いします。……んじゃ次。」
そうして前の席から順々に自己紹介が始まった。
さて普段の練習では真面目な一般部活生達も、この場に至ってはハッチャケるような性根の者がそれなりにいるようで、場の雰囲気を盛り上げようとする者、狙い過ぎて滑り倒す者、目立ちたがり過ぎて五月蝿い者。様々な生徒がいた。まあそういう奴の自己紹介は聞き流したが。
そして俺の番が回って来た。
『こんにちは。1年の葉隠 和義です。ポジションはキーパーで入部した理由はサッカーが楽しそうで、やってみたいと思ったからです。将来の夢はプロの選手になることです。なにぶん初心者ですのでご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。』
昨日の寝る前に考えた挨拶文を読めばいいだけだから焦る必要はない。言えるな、俺。何でもかんでもオブラートに包めば世の中上手く渡っていけるって知ってるもんな、俺。よしっ!
「1年の葉隠 和義っす。一応キーパーやらせてもらってます。入った理由はサッカーが一番稼げるって聞いたからで、将来の夢はプロになることっす。ぶっちゃけ自分にキーパー任せて貰えれば絶対負けないチームにできる自信はあるんで、そこんとこよろしくっす。以上。」
異常。頭真っ白になったわけでもないのに、考えていた文章とは全く違う言葉が口から勝手に出て来た。あばばばば(白目)。
言い終えた直後は冷たい視線を浴びせられたが、誰かが噴き出したのを皮切りに会場が爆笑の渦に包まれた。……こ、これを狙ってたんやで。
俺の自己紹介の後はテンプレ挨拶の人とウェイ系とは異なるタイプのちょっとした捻りを混ぜる人が出て来た。
「あっ……えっと……。1年の佐藤 大地です。おっ……ぼっ……僕はセンターバックです。入部した理由はサッカーが好きだからで、将来の夢はどんなシュートでもブロックできるようにすることです(超早口)。……よろしくおなしゃす。」
「1年の火暮 真です。ポジションはライトウィングです。勝つためにプレイするよりも、楽しんでプレイする方が好きなのでサッカー部に入部しました。俺の将来の夢は被っちゃうんですけどプロになることです。これは正直いうか迷ったんですけど、この中の誰よりも上手いフォワードだという自信があります。レギュラー争いにもガンガン参加するので皆さんどうぞよろしくお願いします。」
「2年の川瀬 稔です。普段はサイドバックをメインにディフェンスとミッドフィルダーを行き来してます。入部した理由はこれまで10年間サッカーを続けて来たのでそのまま特に考えてないです。あはは。将来の夢は何かサッカーに携わるような仕事をしたいと思っています。皆さんよろしくお願いします。」
「1年の高瀬 豊です。中学まではサイドハーフやってました。入部した理由は高校でもサッカーがやりたかったからで、夢は全国制覇です。あと最近できた目標は、葉隠っていうめちゃめちゃボール止めてくるキーパーからゴールを奪うことです。よろしくお願いします。」
「あ、俺が最後ですね。えー、1年の土御門 辰馬です。ポジションはキーパー以外ならまあどこでもできますけど、最近はウィングバックが多いです。部活に入った理由は、クラブに所属していない才能がある人を探すことが目的で、将来の夢は日本を世界王者にすることです。よろしくお願いします。」
前世の俺に似たあがり症で困ってそうな巨人・佐藤大地は仮入部の時のおとなしDFくんで、やたら名前がかっこいいのに言ってることが大袈裟なのが絶許チャラ男だ。
なおチャラ男が名乗った瞬間視聴覚室全体(1年生は除く)がザワザワっとして、「土御門ってあの?」「おいおい、マジかよ。超大物じゃん!」みたいな会話が聞こえてきて思わず「マンガかよ」ってツッコミそうになった。
……なんか俺だけ波に乗れてない感じ本当にやめて下さい。その感想を残して自己紹介は終わった。
最後に中間テストで赤点取らないことやこれからの練習内容についてキャプテンから少し説明があった後に解散となった。……てか顧問いなくね(今更)?




