14. 本入部 後
1対1の練習は凡そ1時間という割と長い時間続いた。グラウンド組は皆、部活動初日のために休憩を碌に取らず動き続けた。結果、俺のペアであった高瀬は身も心もボロボロでグラウンドで大の字になっており、他の新入生も似たり寄ったりで大の字になって寝転がっていた。
コートから出て来たキャプテンからの指示で次はシュート練習に入ることになった。グラウンドにあるサッカーゴールはネットが破れかけているのも含めて4台あるのでそれぞれにキーパー志望が配置される。とはいっても新入生の中でキーパー志望なのは俺を含めてたった3人しかおらず、しかもそのうち2人が経験者側だったのでもう1人未経験者側からキーパーが適当に選ばれた。
経験者たちはキーパー経験者の2人のゴールへと別れて集まり、未経験者たちはキーパー未経験者の俺達2人の所へ集まった。
俺の前、凡そ11m離れた場所から最初のキッカーが手を挙げ準備が完了したという合図を送ってきたので、俺も一応手を横に広げて準備が完了しているという合図を送る。基本的にこれから始まるシュート練習の時は相手の癖や面白そうなシュート技を目に焼き付けることを主眼としているので特に止める気はないが、構えだけは一丁前に整えておく。また試合でもないので【未来視】は使わない。
1人目は、大きく助走を取り足も大きく振り抜いた。しかしその豪快な見た目に反して飛んでくるボールに威力は全くなかった。まあ軸足が思いっきり伸びてたし、何よりも靴裏でボールをスカるだけだったし。この虚仮威しシュート逆に狙ってやる方が難しいだろうが、なんだか面白いものを見れたので満足だ。真正面に転がって来たボールをそのままシューターに蹴り返す。
2人目は、片手でボールをつきながらタイミングを見計らって蹴ってきた。蹴り足の膝を曲げて、一瞬で蹴って一瞬で元に戻るその姿はなぜか空手家っぽくて非常に面白い動きだった。もしも目の前に人の模型があったら丁度金玉の位置を蹴っていたので金的シュートと呼ぼう。しかしこのボールも残念ながら真正面に飛んできたので胸でトラップをして地面に着く前に蹴り返した。
そうやって初心者相手といえども面白いシュートのアイデアを目の前でじっくり観察しながら仕事を熟していると、キーパー交代をすることとなった。といっても経験者側と未経験者側が入れ替わるだけの簡単なお仕事です。俺の目の前にサッカー経験者組が縦に整列している。
1人目は高瀬だった。ゴールの端を狙う訳でも股下を狙う訳でもなく思いっきり顔面目掛けて放たれたシュートはそこそこ強烈だったが、そもそも見切っているので下から掬いあげるようにしてクロスバーに当てておいた。運良く跳ね返ったボールがそのまま高瀬の元へ飛んで行ったので、列の後ろに掌を向けて「お帰りください」のジェスチャーも追加しておいた。
2、3人目と知らない奴の四隅を狙うシュートを敢えて見逃しつつ、4人目。俺の話を毎回遮ってくるチャラ男がきた。チャラ男はインサイドで擦るようにボールを蹴り、枠外左上部から右下にかけて急カーブをするボールを放ってきた。俺は見事に騙されてゴールの左側に寄っていたが、それでもこれを見逃すのは大変癪なので一瞬だけ本気を出して逆サイドに飛びつき伸ばした右足でボールを弾き出した。グラウンドの端を転がっていくボールを見て「お前が外したんだからお前が勝手に取りに行け」と言おうと思ったが、チャラ男は既にボールの方へ走って行った後だった。ぐぎぎぎぎ、コイツまたやりやがった……。
その後も経験者組のシュートを間近で見つつ、彼らのシュートを真似してコンパクトな振りで強いボールを返球できるようにした。……初心者組の方がシュートの発想が面白かっただけに、後半は少しだけ型に嵌っているように感じた。まあ経験者組の方が圧倒的にサッカーの体の使い方は上手かったので参考になったんだけども。
シュート練習が終わりそろそろミニ試合でもできるのかと思ったが、キャプテンに集合を掛けられてサッカーコートに集まった。なんだなんだと新入生がぞろぞろついていく。
「えー、新入生の皆さんには恐縮ですが、これから僕たち先輩のプレーを観てもらいます。これ一回で全てを理解しろとは言いませんが、今からやる試合が修徳高校サッカー部の試合方針であるということを覚えておいてください、試合に出ない先輩は新入生にどんなことをやっているか解説してあげて下さい。以上。」
シュート練習の時、サッカー初心者が色んな競技から参入してくるのを直に感じて、なんかマンガっぽいなとひっそり感じていたのだが、新入生が先輩達の伝統を観るという指令はその気持ちを粉々に打ち砕いてきた。ここは凄まじい才能を秘めた新入生を起用してこれまでの伝統を崩すシーンだろ!と前世のサブカルオタクの血が騒ぎ始めた。
とはいえ騒いでも仕方ないので、結局しっかりと解説を聞きながらサッカーコートで繰り広げられた接戦の一部始終をこの目に収めた。感想としては、確かにミニ試合の時の新入生とは比べ物にならないぐらいの練度でとても参考になったのだが、飛び抜けて個人技が上手な選手は残念ながら見受けられなかったので少し残念だ。




