13. 本入部 中
よろしくお願いしますとは言ったものの、練習自体は仮入部の時とほとんど変化はなかった。強いていうならば基礎トレーニングを開始から30分全員でするようになったことぐらいだ。グラウンドの内周をキャプテン先頭に3周ランニング、2人1組で行う軽めのストレッチ、縄梯子のようなものでケンケンパ、自重での筋トレを2セット行った。ここら辺は先輩同級生全てを凌駕して無双したので割愛。ケンケンパは前世以来なので懐かしさを覚えた。あっ、2人組はもちろん川瀬先輩と組みました。
その後、上級生はサッカーコートに向かい、新入生はグラウンドにて新入生同士で1対1を行うことになった。この時新入生は経験者と未経験者に別れてそれぞれ相手を選ぶのだが、経験者組と未経験者組はそれぞれ奇数人ずつだった為に1組だけ例外が生まれた。それが俺とノッポくんだ。誰かに声を掛けようと思ってはいたのだが咄嗟に声が出ず、それぞれのグループのはみ出し者になった2人だ。くっ殺!
「どうも、俺は高瀬 豊って言います。そちらは?」
「あー。自分は葉隠 和義っす。よろしく。」
「ああ、よろしく。まだ未経験だろうけどやってみたいポジションとか仮入部の時に割り当てられたポジションって覚えてる?俺は中学まで右のサイドハーフやってた、んだけど葉隠はサイドハーフっていうポジション知ってる?」
「右側のMFでしょ?」
「そうそう。って言ってもインサイドハーフとの兼任みたいな感じだったんだけども。まあ中盤の人間だったって感じかな。そっちは?」
「自分は仮入部の時はゴールキーパーだったな。今後もゴールキーパーを続けるつもりだけど。」
「うーん、そうか……。今からやる1対1なんだけど基本的にドリブルで相手を抜く練習だから、キーパーか……。……まあいっか、とりあえずやってみよ。」
サッカーに関する基本単語は学習済みだ。なんだかんだで本入部までに一旦ゴールデンウィーク挟んでたからそこを使って図書館で勉強してきた。前世よりもサッカー関連の書籍が多かったので迷ったが、図書館に備え付けられているPCでポジション確認をしてからルールブックやブログでお薦めされていた本を読んだ。まあ今この瞬間とは全く関係ない話だが。
ジャンケンの結果、まずは俺が先攻となった。ぶっちゃけドリブルに関しては未だに「コレ!」といったものは見れていないが、それでも練習開始までにやっていたお手玉と、前世の体育の時間でやったバスケの技を組み合わせたものを考えている。
高瀬が右足で転がして来たボールを受け取ると、後ろ足でボールを蹴り上げ胸を逸らして体の前にボールを落とし、爪先で短感覚のリフティングを行う。高瀬が無防備に詰めて来たところでボールを顔の前に蹴り上げそれを額で打ち抜く。その際に高瀬の頭を越える程度の傾斜をつけることを意識して勢いよく頭を振る。高瀬がボールを目で追うと同時に右足を軸足にしてバックターンを行い、高瀬の腰位置に俺の背中を合わせる。また高瀬が軸足の左脚で踏ん張らせないように俺の左足の位置を調整しつつ、ボールが目の前の地面に落ちると同時にスクリーンアウトを解除してボールに飛び付いた。あっ、もちろん高瀬が怪我しないように力の調整はしている(後付け)。
ムキになった高瀬がこれまで培ってきたサッカー技術を惜し気もなく披露して俺を抜こうとして来たので純粋な身体能力でボールを奪った後、高瀬の見せた技術をも取り込んで組み上げたドリブル技で抜くということをしていたら心が折れちゃったみたいだ。……かわいそう(他人事)。ま、元気出せよ、そんでもっと技の引き出し見してよ(人間のクズ)。




