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第8話 魔王サタナイル

 ――目論見は見事に成功し、私の秘法にて無事封印は破られた。


 その直後、大きな光の柱が天へと伸びて、しばらくしたのちに柱はガラスのように砕け散った。


 私は久方ぶりに心が踊った。


 これより中に存在するは、(いにしえ)より強力な魔力と暴力を代々兼ね備えた禍々しき魔族の王。


 もちろん幾ばくかの恐怖心も微かにあったが、私には死の制約とも呼べるルールがある。おそらく自害でもしない限り、めったな事で私は殺されない。


 そもそも論、封印系で縛られていた存在はそれを打ち破った者に逆らう事ができないようになっている。


 つまり、魔王は根本的に私に逆らう事はない、はずなのだ。


「お、お嬢様! こりゃあなんかまずいんじゃないすか!?」


 ガイルが後ろで何か言ってるが私は気にも止めず、待ち受けているであろう魔王のもとへと歩みを進めたのだった。




        ●○●○●




「久方ぶりの来客だ。なにゆえ我が封印を解いた……?」


 簡素な石造りの城内。


 封印を解いて中へ入り込むと、一切の光が遮断されていた。どうやら入り口には光を遮蔽する別封印もあったようだ。


 それに気づいた直後、そのおどろおどろしい声が小さな城内に響き渡る。


 私と後ろの馬鹿二人はその声に思わず身をすくませた。


「……暗くて何も見えませんが、貴方が魔王サタナイルですわね?」


「いかにも」


 と、返事をした瞬間、暗闇の中で鋭い真っ赤な眼光が私達を睨め付けた。


 それと同時にズン……ズン……と、こちらに近づく足跡が響き渡る。


「ひ、ひいいいいい!? ま、ままま魔王!? ほほほ、本物っすかお嬢様ぁ!?」


「か、かかか、帰りましょう帰りましょう! このままじゃ俺たち殺されちまいますぜ!? もう俺の足なんか治さなくていいんで帰りましょうよぉーーーッ!」


 私の背後で慌てふためく二人を無視し、私は近づく眼光に視線を逸らさず凛として構えた。


「……これはこれは。まだ随分と幼いな。ヴァネッサ、何故うぬはそのようにまだ熟す前に、我が前へと現れた?」


 鋭く赤い眼光の魔王、サタナイルは不思議そうに私へとそう尋ねる。


「ヴァネッサ……? 何を仰っておりますの? 私はメイリア。メイリア・リィン・アルノーですわ」


「メイリア……だと? どういう事だ……?」


「それはこっちのセリフでしてよ。何故私の事をヴァネッサだとお思いになられたのかしら?」


「そういう……取り決めだったからだ……」


「取り決め……?」


「そうだ。アルノー家の長女以外の者を我が花嫁にするのがアルノー家代々の習わし。此度の我が妻はヴィアマンテの次女、ヴァネッサではなかったのか?」


「なん……ですの……? その、習わしって……?」


「ふむ? 何やら色々と事情が交錯しているようだな。少し、ゆっくりと互いの事を語り合うとしようか」


 魔王はそう言うと、パチンと指らしきものを鳴らす。


 それと同時に城内のシャンデリアから各種燈篭が色とりどりの光を灯した。


 それによって私は初めて魔王の姿、素顔を拝む事が叶う。


「……え? う、そ……」


 体つきはやや細身ではあるがそれなりに逞しく引き締まった成人男性。


 肌の色が全体的に青みがかっていて、更に立派で強靭そうな二本の角を頭の髪の毛から覗かせており、それが魔族である特徴をよく示している。召し物も魔王、と呼ばれるに相応しい黒衣のマントと真紅の鎧に身を包んでいた。


 だが私が驚かされたのはそんな事ではない。


 魔王サタナイルのその素顔。


 私にはとてもよく見覚えのある、懐かしいあの顔だった事。


「けいすけ……くん!?」


 私がけいすけくん、と呼んだその人物は無論こちらの世界の人間ではない。


 異世界(日本)での、橘花家の近隣に住んでいた幼馴染である、あの啓介の事だ。


「え!? な、なん!? な、なんで、僕の……」


 私が思わず名を呼ぶと、彼はそれに呼応するかのように、先程まで魔王の威厳を一切無くして可愛らしい反応を見せる。


「これは一体……どういう事ですの……」


 困惑する私と魔王は、しばし互いの顔を見つめ合うのだった。




        ●○●○●




「……しっかし、なんだって俺らはこんな事してんだ?」


「うるせぇフランク。黙って獲物を捕らえろ」


 そんな会話が城の外から聞こえて来る。


 とは言ってもガイルとフランクは結構離れた海辺にいる。私のもとに彼らの声が届くのは、監視も兼ねてそういう魔法を彼らに掛けてあるからだ。


 私と魔王は二人きりで話がしたい為に、邪魔な彼らには夕食の確保を依頼しておいたのだ。


 そしてガイルたちがそんなぼやきをしている頃――。


「……にわかには信じがたいですわね」


「でも、本当だよ美来(みくる)ちゃん。ただこんな事、あまり口外はしてほしくないかな……恥ずかしいし」


 すっかり魔王の威厳とやらはどこへやら。


 魔王サタナイルはその口調を、異世界(日本)に居た頃の啓介のままとしていた。


 彼との会話で私達を取り巻く謎は少しだけ取り払われた。


 まず彼は魔王サタナイル本人で間違いはない。


 今より過去580年前まではこの大陸の覇者だった一族の末裔だ。


 魔王サタナイルの一族は今からおよそ580年前、当時の聖王との戦いに敗れ、この地に封印されてしまった。


 そして驚かされた事実として、この世界では封印された王へ、とある取り決めがされている。それは、王へ世継ぎの為の女子を上納するという事。


 過去に父、ヴィアマンテから聞かされた事がある。


 この世界には必ず『聖王』と『魔王』の両方が存在し、どちらか片方がこの世からいなくなれば、もう片方もその存在を消し去ってしまい、やがて世界の均衡は崩れてしまうのだとか。


 なので、世を統べる者が『聖王』なのか『魔王』なのかを決めた際、敗退した片方の一族もその後生存させておかなければならず、その為にこの封印の地に彼は身体を封じられていたのだ。


 しかし魔王とて不老不死ではない。


 なので封印されている間にも子孫を残さないと、それは『聖王』の存続にも影響してしまう。


 その為に存在しているのが我がアルノー家だったわけだ。


 我がアルノー家は『聖王』存続の為に、魔王を存続させるという大事な裏の役割を抱えていたのである。


 そしてそれは必ずアルノー家の長女以外でなくてはならなかった。何故なら長女はこの封印を一時的に解く秘法を扱ったのちに、再封印を施さなければならない。


 なので魔王サタナイルはここにアルノー家の次女であるヴァネッサがやって来たと思い込んだのである。




 だが、驚かされたのはそんな事よりも、もっと衝撃の事実の数々であった――。





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