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第7話 破聖の秘法

「くそ……くそッ! なんだって俺らがこんなみじめな思いをしなくちゃなんねーんだッ」


「あまりデカい声で言うなフランク。聞こえるぞ」


「だ、だってよぉ、ガイルの兄貴。そうじゃねえか!? 俺たちゃあのガキに殺されかけてんだぜ!? そんなヤツの言いなりにならなくちゃならないなんて、情けなくてよぉ!」


「……全ては俺らの力不足だ。この世は弱肉強食。それをわかって俺たちも野盗をしていたんだろう?」


「……くそが」


 と、言う二人の野盗のやりとりが隣の部屋から聞こえていた。


 この安っぽい宿屋の薄い壁ではガイルの言う通り、私には彼らの会話が丸聞こえである。


「とにかく辛抱だ。チャンスが来るのを待つんだ、いいなフランク? 今はお前の足を治す事が最優先だ」


「わ、わかったよガイルの兄貴……」


 愚痴を吐き終えた二人はそう言ってようやく就寝したようだ。


 私は馬鹿な男達の言動に呆れるように大きく溜め息を吐く。


「……想像以上にゴミを拾ってしまいましたわねぇ。とりあえず私に対するしつけはもう少し必要のようですわね」




        ●○●○●




 遡る事一週間ほど前。


 私はアルノーのお屋敷を燃やしてからオルクラ大陸最南端を目指し、街道をひたすらに走り抜けていた時、偶然野盗どもに襲われた。


 そんな野盗どもを返り討ちにした際、いつか私の目的が達成したならその野盗のひとりの足を治してやると約束してやった。その代わりに私の従者になれと命令した。


 私が恐ろしかったのか、存外素直に彼らは私に屈服した。


 便利な小間使いが出来たと私が喜んだのも束の間。

 

 彼らは想像以上に凡夫であった。


 従者にした二人の野盗の魔法適正はどちらも水属性でおまけに適正値は最低ランク。(水属性系の魔法は攻撃魔法が少なく、戦闘の相性はいまいち)


 その他のスキルや体術、剣術、武術の心得もわずかばかり。持っているアイテムや金品などほとんど無いに等しい。


 本当に底辺中の底辺な野盗を拾ってしまったと後悔している。


 だが、とりあえず動かせる駒は何かと必要だと考え、私は次までの繋ぎとして彼らを従者にした。


 何はともあれ私は魔王に会いに行く。その為には道中で色々な小間使いとして彼らは必要だ。


 そして今よりも大きな力をつけなければならない。


 そうしなければ迫る16歳の日の運命に打ち勝てないからだ。


 例えそれが人道から大きく逸れようとも。


「……私はもう、手段は選びませんわ」




        ●○●○●




 ――それから更にひと月ほどの月日を経て、私は無事魔王が幽閉されている孤島に到着。


 大陸内の移動手段は従者にした馬鹿どもに盗ませた荷馬車だ。私はそれに乗り楽をさせてもらったおかげで快適に移動が済んだ。


 オルクラ大陸から海を渡る手段も簡単だった。これも馬鹿どもに命じて、近くの港町に停泊させてある漁船を盗んでもらいそれを使った。


 その港町に着くまでに何度か魔獣や魔物に遭遇したが、小間使いのガイルとフランクは運が良いのか、大怪我すら負う事もなく生き延びた。(フランクはまだ足が使えないので、ガイルが必死に頑張った)


 基本的に戦闘は彼らに任せた。私は私で魔力を違う事に温存しておきたかったのもあるし、何より戦闘など男の仕事だと私は思っている。


 汗や血に塗れるなど、仮にも令嬢である私には似つかわしくない。まっぴらごめんだ。


 もしも仮に彼らの手に負えない凶悪な魔物でも出たら私が出張れば良いと思ったが、幸いそのような事はほとんどなかった。やはりオルクラ大陸は『聖王』が治めるようになってから本当に安全度の高い国になったのだろう。(と、アルノー家にあった文献で目にした事がある)


「そ、その……メイリアお嬢様」


「何?」


「こ、ここまで来てなんですが……その……ここはなんかヤバい気がするんですが……」


 孤島の浜辺へと盗んだ漁船から降り立った直後、元野盗のガイルが身体を震わせながら私にそう告げた。


「お、俺もそう思います……メイリアお嬢様……」


 同調するようにフランクもそう言った。


 私はこの孤島に向かうのが目的だとは彼らに告げたが、何を成すかまでは話していない。


 凡夫の彼らでもここの畏怖すべき気配を感じ取ったのだろう。


 そんな彼らの事など無視して、私は森に囲まれた魔王が幽閉されている城へと向かってずんずんと歩き始める。


「あ!? ちょ、待ってくださいよ!」


 私が孤島の深部、森の方へと進んでいく姿を見て彼らも結局着いてきたのだった――。




        ●○●○●




 城、と呼ぶには実にお粗末で簡素な造りの、高さが一階だけしかない石造りの建物が魔王の城であった。


 大きさも日本にある平家の一軒家程度しかないそこは、黄金色のオーラに包まれている。


 この黄金色のオーラこそ、聖光属性で作られた最高峰の封印術。これを代々守るのが『聖王』と呼ばれる者の使命。


 反してその封印術を解く技法を秘匿に受け継ぎ続けるのが我がアルノー家の使命。


 私の家系が『暗黒』属性の適正値が最高峰とはいえ何故、破聖の秘法というもの自体が存在しているかは不明だが、おかげで私がより大きな力を持つ為の手段となるのだから、甘んじて使わせてもらうとする。


 ちなみに本来なら代々アルノー家の当主にしか伝承されない秘法ではあるが、私は勝手にそれを会得した。父ヴィアマンテの書斎にあった封印された文献を読み漁って勝手に習得したのである。


 本来ならその封印された文献は複雑な魔法式を解かなければ読めない仕組みになっているのだが、幾星霜もの月日を過ごした私にとってそんなものはままごとレベルでしかない。


 とにかくそうして私は破聖の秘法を会得した。


 それを私は使い、今、まさに長きに渡る魔王の封印を解き放つのである。


「メイリアお嬢様! 一体ここは……!?」


「こ、こいつぁ聖なる封印じゃないすか!? こんなところで一体何を……!?」


 二人の愚かな従者が何か喚いているが、もはやそんなものはどうでもよかった。


 私はこの日の為に温存し、精錬させてきた体内の膨大な魔力を練り上げ、そして封印術のオーラに両手のひらを向ける。




「今こそ、解き放って差し上げますわ。魔王サタナイルッ!」



 



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