第67話 新しい仲間
結局、ウィルスレインや私の体力を気にかけた魔王は大河川の付近にて小休止を取る事に決めた。
正気さを取り戻してきた私が何故ウィルスレインも私たちに付いてきているのかを尋ねると彼は、
「自分は魔王殿に命を救われた。そんな魔王殿に仮を返したい」
と言った。
それだけではなく、私の『MIDS』についてもまだまだ予断を許さない状況であるので見張っておきたいというのも本音だそうだ。
「……でも、まさか驚きだよ。さっきの僕の会話、全部聞かれていたなんて」
夜になり、小さな焚き火の前で魔王が恥ずかしそうな表情でそう言った。
「今まで私によくも黙っていましたわね」
私はわざと冷たい視線と冷たい口調で魔王に言い放つ。
「ご、ごめんメイリアちゃん。下手に変な事を言っても余計にメイリアちゃんを困惑させちゃうかと思って言い出せなくて……」
「で、サタナイル。貴方は一体いつ、そんな事実を知り得たんですの?」
「メイリアちゃんがグウェインに連れ去られてすぐくらいだよ。それまでずっとガーラングたちの部下たちが色々調査してくれてたからね」
そうだったんだ。
魔王は私の為に、陰ながら私の問題を解決する方法を探っていたんだ。
私はそんな事、全然知らなかった。
「……アテナさんにも言われた通り、僕が殺生を嫌うのはメイリアちゃんの……美来ちゃんの死を目の当たりにしてからだ。あれから僕は知性ある生き物を殺す事が恐ろしくてできなくなってしまった」
「私の死が貴方のトラウマになった、と」
「そういう事だね。恥ずかしい話だけど」
照れ臭そうに魔王は笑った。
「ごほん」
と、そこにウィルスレインがわざとらしい咳払いで介入。
「二人が熱々なところ申し訳ないが……私からもちょっと良いだろうか?」
「「あ、アツアツとかじゃないし!!」」
思わず魔王と同時に声を荒げた。
「……まあ、そういう事にしておく。で、この先のキミらの旅路についてなんだが、それに私も仲間に加えてもらっても良いかな?」
「さっきも貴方は言ってましたわね。魔王に仮を返したい、と。それはどういう意味なんですの?」
「うむ、それはだな……」
ウィルスレインは神妙な面持ちで語り出す。
それは先程魔王から語られた現聖王アルクシエルことフィラエル・ユア・フォルクハイムの事についてだ。
ウィルスレインはその持ち前の正義感の高さから、魔王の言っていた事が事実かどうかを直接聖王本人に確かめたいと言った。
そしてそれがもし事実だとしたのなら、ウィルスレインはメイリアの呪いを解く方法がないかを聖王に言い寄り、それが叶わなかった場合、その事を白日のもとに晒しフィラエルの聖王位を剥奪すべきであると憤怒した。
「私は今、とても恥じている。我が誇りあるフォルクハイムが私の父と言い聖王の叔父と言い、醜悪すぎる。まるで人間という種族自体の質を落としているかのようにすら思わされる。こんな愚行、許されて良いはずがない」
ウィルスレインはその怒りを表情と握り拳に表す。
「だから魔王殿、メイリアくん。私はキミたちと共に真実を見極めたい」
ウィルスレインが真っ直ぐな瞳で私たちに訴えた。
そして魔王も私を見る。
「……ウィルスレインよ」
私が返事に困っていると、魔王が先に言葉を発した。
「その真実の結果次第では、貴様が聖王になる可能性が高いと言えるな」
「そうだな。おそらくフィラエル様が失墜すればそうなるだろう」
「それはつまり、我と聖魔戦でやり合うという挑戦状として受け取っても良い、という事か?」
「そう考えてもらって構わん」
「……ふん。一歩も引かぬ、という顔だな。はっきり言うが、今の貴様程度の実力では我の足元にも及ばぬ。むしろ貴様が聖王になってくれれば願ったりだ。その時は容赦せぬが良いな?」
魔王はニヤリと笑う。
「言うな。魔王としての威厳、か。だが貴殿は殺生を恐れているのだろう? そんな引け腰の魔王など、私の恐れるところではない。存分に実力を発揮してもらって構わん」
ウィルスレインも笑った。
二人はしばし互いを見据え、そして握り拳を互いにコツンと軽くぶつけ合う。
「望むところだ、次期聖王」
「私の方こそ相手に不服はない、魔王よ」
そう言って二人は互いを認め合っていた。
男の友情、であろうか。私にはよくわからない。
「……ねえ」
私が呆れたように声を出す。
「あ……ご、ごめんメイリアちゃん。勝手に話を進めて」
「本当ですわ。私の意見は聞かないのかしら?」
「そんな事ないよ。メイリアちゃんの意見が最優先だ」
「そう。なら……」
私はウィルスレインの方を向き、
「ウィルスレイン。貴方には私の兄になってもらいますわ」
彼を指差す。
「あ、兄……? とはどういう事かな?」
「貴方も私たちと共に行くなら、身分や肩書きが必要でしょう? なので、私の兄、という設定ですわ」
「あ、ああ。そういう事か。つまりは……」
「ええ。貴方の事はもう充分によくわかりましたもの。よろしくお願い致しますわ」
こうして、私はウィルスレインを認め、彼を私の仲間の一人として受け入れたのだった。




