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第57話 残酷

「……うむ、どうやらまだ衛兵も父も私が屋敷から抜け出した事に気づいていないようだ」


 ウィルスレインが雑木林の中で背後を見ながらそう言った。


 まだ傷の癒切っていないウィルスレインと、身体の疲労でふらついている私は、走る事まではままならないので早歩きで林の中を進んでいる。


 魔王が私をおぶると散々言ったが、それは拒否した。


 なんだか今は無性に魔王を頼りたくなかったのだ。


「だが、屋敷の中にウィルスレイン、お前の姿が無ければすぐに周辺の捜索に来るだろう。この先は崖だと言っていたが、その先はどうするつもりだ?」


 魔王が尋ねると、


「林を抜けた先にある崖の少し手前に、大きな岩がいくつか転がっている。そのうちのひとつに昔、私が作った転移用魔法陣が刻まれていてね。それに魔力を流すと崖下にある壁まで転移できるんだ」


「ほう? 転移用魔法陣が何故そんなところに?」


「お忍びで遊びに行く時に使っていたんだ。私も窮屈な貴族生活には辟易していてね」


「っふ。窮屈、か。我に対するあてつけか?」


 魔王は皮肉を言いつつ小さく笑った。


「いや、そんなつもりではなかったんだけど、確かに封印され続けていた貴殿の前で言うべき言葉ではなかった。申し訳ない」


「冗談だ、気に召されるな」


「ところで魔王殿は言葉使いや一人称がコロコロと変わるのだな。それは先程少し聞いた異世界での影響なのか?」


「まあ……そんなところだ。あまり気にしなくても良い」


 魔王が少しだけ照れている。


 なんだか二人は妙に仲が良さそうに見える。


 そんな様子を見て、私はなんだか奇妙な気分だった。


「メイリアちゃん、本当に……身体の具合は平気? 無理してない?」


 魔王が不意に私へと声をかけてきた。


「……問題ないですわ」


 私は顔も合わせずに答える。


「メイリアくん、本当に無理をするな。マナバーストの後は強い目眩なども起こしやすい。視界がぐらつくようならすぐに言うんだ」


 今度はウィルスレイン。


「……そんな事、貴方に心配されるまでもありませんわ」


 彼にも顔を合わせず、突き放したように答えた。


 私は今、一体何をしているのだろう。


 ウィルスレインなんかと一緒に行動して、何をするつもりなんだろう。


 私は一体今、何にこんなにもイラついているのだろう。


 自分の感情がまともに理解できない。その事が余計にストレスになっている。


(メイリアちゃん、やっぱりウィルスレインに事情を話した事が気に入らなかった?)


 魔王が不機嫌そうな私を気にかけ、思念で尋ねてきた。


(別に)


 私は思念でもあしらうように答える。


(……勝手な事をしてごめん。だけど、今後の事やメイリアちゃんの事を考えると彼の話は聞くべきだと思うし、協力もしてもらえるなら、してもらうべきだと僕は)


(どうでもいい)


 魔王の思念を食い気味で遮るように、私は返す。


 駄目だ。イライラが収まらない。


「……まだもう少し距離がある。その間に私の方からいくつかお聞きしたい」


 沈黙を破ったのはウィルスレイン。


「まず、メイリアくんはアルノー家のご令嬢なのは間違いないんだね? そしてキミが両親たちを殺害したのも」


「そうですわ」


「それはキミが現状置かれている問題を解決する為に行なった、と」


「そうですわ」


「更には妹君であられるヴァネッサくんも始末したい、と?」


「そうですわ」


 ウィルスレインからの質問に淡白な返し方をしている私が心配なのか、魔王が不安そうな表情で私を見ている。


「ふむ。しかしそうなると、魔王の継ぐ子の問題はどうするつもりでいたんだい?」


「どうとも。そんな事より私は自分が生き抜く為に、やる事はやる、利用できるものはする。それだけですわ」


「なるほど。……ふむ。自らの死のさだめとなる原因を払拭していく為、か。8年後の誕生日である16年目を超える為に」


 ウィルスレインは考えるような素振りをした。


「それがなんですの?」


 私はその言い方がまるで自分勝手だ、と言われているみたいで彼にもまた不快感を覚える。


「……少し大切な事を見落としているようだから話しておく。このままではメイリアくん、キミはあと1年も生きられない」


「え?」


 私はウィルスレインの言葉の意味がわからず怪訝な顔をした。


「その原因は先程のマナバースト(魔力暴走)が証明している。メイリアくんはマナバーストを初めて味わった、と言っていたな?」


「そ、そうですわ。今まであんな風になった事はありませんでしたもの」


「なら尚更だ。初めて体験したマナバーストで気を失うほどに衰弱し、そこまで肉体疲労をあらわにするなど聞いた事がない」


「これは私が精神的に不安定だから気を失っただけで……」


「いや、それだけじゃないんだ。魔王殿はすでに気づかれていると思うが、メイリアくん、キミの瞳にそれが現れてしまっている」


「え?」


 私が魔王を見ると、彼は悲痛な面持ちで私から顔を晒した。


「瞳の色が全体的に紫がかっている。それが何を意味するか、キミならわかるだろう」


「わ、わからないですわ! 私だって『魔学』を深く学んだからと言って、なんでもかんでも知っているわけじゃないですもの! これがなんだと言うんですのよ!?」


「そうか。うむ……言いにくい事なんだが、ハッキリ言うとそれは……」


 私の中で警鐘が鳴り響く。


 私は何か大きな間違いをしているの?


 ウィルスレインは言いづらそうに口籠もっている。


 何。


 ウィルスレイン、ハッキリ言うと、それはなんなの!?




魔元素免疫不全(MIDS)の進行度ステージ4。つまり末期症状だ」


 




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