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第4話 復讐の牙

 ――そして私は再びメイリア・リィン・アルノーとして生を受ける。


 私はまたこの世界でも数年間だけは大人しく過ごした。


 何故なら人が『魔回路(まかいろ)』に滞りなく『魔元素(まげんそ)』を行き渡らせるようになるには、ある程度の年月が必要だからである。


 私の肉体成長は比較的に早く、初潮が来たのが8歳の頃。そして女性はそれに応じて魔力を解放する『魔回路』も体内で開口されるのだ。(ちなみに男性の『魔回路』の開口は精通が始まる頃だそうだ)


「お、おい!? メイリア!? お前、何をしている!?」


「……何、ってお父様。見てお分かりになりませんか?」


 私が8歳になり、『魔元素』が円滑に体内を巡る事を確認したのち。


 まずは母であるミランダをその手にかけた。


「た、助け……て……あなた……」


 私は魔力で強化した右手で母であるミランダの腹部を貫いていた。


 そして。


「う、ぁあああッ! い、痛い痛い痛い痛いッ! やめてやめてやめてぇぇえええ!! メイリアぁああああーーーッッ!!!」


 私は確実に母が死に至るように、念入りに貫いた右手をぐりぐりと抉る。


「や、やめろ! メイリアァーッ!」


 憤怒と悲壮感の両方を剥き出しにして、父であるヴィアマンテが私を止めにかかる。


 が。


「……ぁ、が……?」


 私は空いていた左手でヴィアマンテの首を瞬時に跳ね飛ばした。


「ご安心あそばせ、お父様。アルノーの爵位は(わたくし)の認めた者へとしっかりと受け継いで参りますわ」


 開き切った眼光のまま転がる父、ヴィアマンテの頭を一瞥(いちべつ)して、私は吐き捨てるように言った。


 残るは最愛の妹、ヴァネッサのみ。


「……あら?」


 だが、どうやら彼女は私の所業を見てどこかに逃げ隠れてしまったらしい。


 仕方なく私は目に入ったメイドや従者は可能な限り殺し、あとはアルノー家に火をつけ、私が長年愛し続けてきたこのお屋敷を燃やした。


 しかしそれでも結局妹やその他数人の従者たちを見つける事は出来なかった。


「困りましたわ。これでは私の伴侶となる者へアルノーの爵位を継がせる算段が狂ってしまいましたわね」


 おそらく父の従順な家来が彼女を匿って逃亡したのだろう。


 ヴァネッサは私が錯乱し家族殺しを行なった事をきっと通報する。そうなれば私はお尋ね者だ。


 アルノー卿の悪役令嬢どころではない。殺戮(さつりく)令嬢と言ったところか。


「……まあ、それも悪くないかもしれませんわね」


 元々の計画では私以外のアルノー家の血筋を潰えさせ、私の適当な下僕を夫とし、その者にアルノー伯爵位を継承させてしまう予定だったが、こうなってしまっては仕方がない。


「……それなら、と」


 私は燃え盛る屋敷を背後に、小さな手荷物を持って歩き始めた。


 たったひとつの目的の為に――。




        ●○●○●




 この世界には『魔王(まおう)』と呼ばれる者と『聖王(せいおう)』と呼ばれる者がいつの時代も必ず存在した。


 『魔王』は魔学や魔力に関するエキスパートであり、


 『聖王』は聖なる力に関するエキスパートであった。


 基本的にどちらの王が世を統べているかで世界の情勢はがらりと変わるのだと父、ヴィアマンテがよく教えてくれていた。


 現在は『聖王』が大きな力を持っており、『魔王』は貧しい土地の小さな孤島に追いやられている。だから、今は魔族や魔物が少なく比較的平和な世の中なのだそうだ。


 私はまず『魔王』に会いに行こうと思った。


 何故なら『魔王』は魔に関する豊富な知識を蓄えているからだ。


 『聖王』には会えない。


 何故なら私は犯罪者だ。この世界で家族殺しは重罪。


 アルノー家を燃やし、アルノー領の者たちを裏切った私は秩序を重んじる『聖王』のところへなど行けるはずもない。


 それに『魔王』や『聖王』には不思議な力があるとも聞いている。本当かどうかはわからないが、彼らにはたったひとつだけどんな望みでも叶える力があるのだそうだ。


「……っち、魔力切れですわね」


 私は俊足が可能になる魔法を自身に掛け、馬よりも速くオルクラ大陸を走り抜けていたが、アルノー家を燃やしてから数時間走り続けた結果、ついに魔力を切らしたのである。


「んー、数百キロは進んだかしら? ひとまずすぐに衛兵に追われる事もないですわね」


 私は遠く離れたアルノーの屋敷方面を見て、そう呟く。


 私の目的。


 それは、世を掌握するほどの権力と武力と知力を兼ね備える事。


 それには信用のおけない全てを排除する必要性があった。


 そうしなければ私の運命は変えられないのだと思ったからだ。


 その為に私は愛する家族を……この手に掛けたのだから。


「あら? もう靴が壊れちゃった」


 数百キロも連続で走り続けていれば当然なのだが、やはり異世界(日本)でのとても丈夫だった靴の事を思い出すと、この世界の品は貧相だと思わざるをえない。


 服装もヒラヒラと鬱陶しい白と薄い青のレース調のワンピースと簡素な下着を着ているだけだ。多少の着替えは持ってきているが、お屋敷にあった服はどれも動きづらいものばかりだ。


 適当にどこかの街で動きやすい服を調達しようと思った。


 何はともあれ私は自由である。


 これから何を成していくのかも。


「……魔王の孤島に向かうには、まずこのオルクラ大陸の最果てにまで行かなくちゃ」


 魔王は流島の刑に処され、オルクラ大陸の最南端、海を隔てた小さな孤島に幽閉されている。


 まずはそこに向かう。


 私は魔力が枯渇した為、のんびりと夜の街道を進む事にした。


 一見、齢8歳の少女である貴族の令嬢である私が夜道をひとりで歩くなど本来なら危険この上ない。


 だが、私は特別だ。


 もちろん百年以上も生きてきた知識や魔力の扱い方に長けているおかげでもあるが、一番の理由は死の運命の日まではおよそ何をしてもまず死ぬ事はないという経験則。


 それが私の強さの根拠だ。


 だから――。


「へっへっへ……可愛らしいお嬢ちゃん。こんな真夜中にどこに行こうってんだい?」


「何やら品の良さげな子供だなあ? こりゃあ高くて売れるぜ?」


「そ、そそそ、その前に、お、おでに遊ばせてくれよぉお」


 だからきっと、この先どんな事態に巻き込まれても、私が16歳になるその日までは確実に生き抜いていけるという自信が、ある。




 今みたいに、見知らぬ男たちに囲まれたとしても――。






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