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第43話 アイリスきっちん②

「あの辺がよさそー」


 アイリスが軽い感じで指差した先は、街道近くにあった沼地付近。


 その沼地からは禍々しい魔元素が漂っている為か、遠目で見ても奇妙な魔物たちが何匹も彷徨いている。


 私たちは仲間たちの馬車を一時待たせておき、アイリスと共に夕食に使う食材探しをすると言って周辺を散策していた。


 アイリスは私に料理を教えてくれるとの事だったが、その為にまずは材料集めから一緒にやるという事になったのである。


「あの辺って……あまり綺麗な場所ではなさそうですし、変な魔物も多いですけれど、本当に良いんですの?」


「うんー。メイリア様ーこっち来てー」


「あ、ちょ、ちょっと!」


 アイリスはピョンピョンと跳ね回るように、沼地の奥へと進む。


 私はなるべく魔物に勘付かれないように彼女のあとを追った。


 紫色の沼地はボコボコと奇妙な気泡をところどころに噴き出し、えもいわれぬ異臭を漂わせており、その周辺には奇怪な草花などがあるばかりで、とてもこんなところに食材があるようには思えない。


 と、私が懸念していると。


「ほら! これこれー! メイリア様これ見てー」


 アイリスが嬉しそうに指差したそれは、沼地のあちこちに転がっていた岩の影にひっそりと生えている一輪の花。


 茎はトゲトゲしく、葉の形もギザギザしているが、なんと言っても花の部分。花は一見チューリップのような形をしているが、その色がまた毒々しい青と紫の混ざったような色をしており、更には花弁の中心部には妙な液体が溜まっている。


「こ、これはなんですの……?」


「これねー! 結構レアな花なの! グレープエディって花なんだけど、この花はね、上手く調理すると色々凄いんだよー!」


「へ、へえ……。ちょっと、あまり食したいとは思えない色合いですけれど……」


「この花はね、こういう沼地の岩場の影に咲いてる事があるんだけど、そんなに数が多くないのー。だから二人で手分けして、この辺で取れるだけ取ろー!」


「わかりましたわ」


「あ、それとね、取る時は根本から慎重に取ってねー。花弁の中の蜜もこぼしちゃ駄目だよー。はい、メイリア様、これ籠ね!」


 アイリスに言われ、私は籠を受け取り、私たちはグレープエディという花を採取し始めようとした。


「んじゃ、早速この花をまずはゲットーっと」


 その時である。


「アイリス、後ろ!」


 私が叫ぶと、アイリスはすぐに察してサイドステップでソレを回避する。


「うんうん。やっぱり来やがったねー」


 半ばわかっていたのか、アイリスは特に驚く様子もなくソレを睨み付ける。


 アイリスが居た地面はソレによる攻撃で円形に抉られているだけでなく、その部分が澱んだ紫色に変色していた。


「魔物、ですわね」


 その攻撃を仕掛けてきた魔物は、パッと見は巨大なカエルのような形状だが、二足歩行で立ち、爬虫類特有の丸い指先を開くように両手を広げていた。


「今のは魔法かしら? アイリスのいた所が綺麗に抉れていますわね」


「うんー。コイツはポイゾナスフログって言って、毒性の高い『(すい)』属性魔法を乱発してくるんだよー。『コラプションジェット』って言ってね、その魔法は水圧も去る事ながら、それに触れるだけで即効性の腐敗毒に犯されるから、マジ気をつけてー」


 なんか色々やばそうな説明なのに、相変わらずアイリスのノリは軽い。


「コイツさー、グレープエディの匂いに釣られてやってくる魔物なんだけど、こんなナリしてても結構難易度高めの魔物なんだよー。だからメイリア様、気をつけてネー!」


 と、言いながらポイゾナスフログが放つ『コラプションジェット』をアイリスは軽々しく回避する。


 どうやら奴の標的は今のところアイリスだけのようだ。


「メイリア様ー。ボーッとしないでー。メイリア様の方にも来てるよー」


 その言葉通り、いつの間にか私の背後にも二体のポイゾナスフログが迫っていた。


「メイリア様ー、今は昼間だから『暗黒』属性の『ダークフォース』が使えないでしょー? だから、なんとか気合い的なもので魔法を喰らわないように避けててー。アタシがこの目の前やつ片付けたらすぐそっちやるからー」


 アイリスが言いながら攻撃魔法の詠唱を始める。


 気合い的なもので魔法を避けていろとは、またテキトーな注文だ。


 しかし私とて、ただの守られるだけのお嬢様なつもりは毛頭ない。


「……要らぬ心配ですわ、アイリス」


 私はすぐ全身に魔力をみなぎらせる。


(ポイゾナスフログ。確かにあの魔法は少々厄介そうですわね)


 確かに私は『暗黒』属性魔法が滞りなく使える夜の方が真価を発揮するが、昼間でも出来ることはそれなりにある。


 ひとまずは敵の魔法攻撃を回避する為に、『(ふう)』属性の『シルフィード』という魔法を自身にかける。この魔法は自身の行動速度を何倍にも引き上げる魔法で、瞬間的に素早く動いたり、攻撃を回避したりする事が容易になるバフだ。


 すぐにポイゾナスフログたちが『コラプションジェット』を放ってきたが、先の魔法で回避率の上昇した私の脚力なら、かわすのは造作もない。


(とは言っても、この水魔法、結構な速度ですわね)


 私は思いながら、ステップを踏む様に『コラプションジェット』を華麗に回避し続ける。


「わー! メイリア様、避け方カッコイーじゃーん! 踊ってるみたい!」


 アイリスがケラケラと楽しそうに笑っている。


(避けるのもキリがありませんわね……さっさと片付けちゃいましょ)


 私は思うと同時に、


「『ストーンバレット』!」


 凝縮した魔力で両手の平から『()』属性攻撃魔法をそれぞれのポイゾナスフログに放つ。


「「ギィェェエェエェエェッ!!」」


 私が生成したいくつもの石つぶては、目にも止まらぬ速さでポイゾナスフログたちの頭へ目がけて全弾直撃。


 それだけであっさりと二体の魔物はその場に倒れた。


「アイリスー。終わりましたわよ」


 私が呼び掛けると、


「はやーい! っていうかメイリア様『()』と『(ふう)』属性も結構イケるクチなんだー。やっぱメイリア様、すごいよー!」


「大したことはありませんわ」


 と言いつつ私はふんっと小さく鼻を鳴らす。


「私も今ちょうどコイツを丸焼きにしたとこだよー!」


 アイリスは『()』属性魔法でポイゾナスフログを焼いていた。


「でもやっぱさすがだねー! 魔王サマのごれいじょーってだけあるよー。ストーンバレットも両手同時にあれだけの質量と速度で打ち出せるなんて、ふつーレベルじゃ無理だもん」


「んもう、そんなにたくさんのお世辞は結構ですわ。さっさとグレープエディを回収しますわよ」


 私は照れ隠しを言って、花の採取に戻る。


「はーい。ついでにこのポイゾナスフログの肉も少し切り取って持っていくー」


 アイリスはそう言うと、死体になったポイゾナスフログの一部をいくつかナイフで切り取り、それらも籠に詰める。



 こんな毒蛙の肉なんて何に使うんだろうと思いつつ、私は引き続きグレープエディの採取を続けるのだった。




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