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第42話 アイリスきっちん①

「なんか腹痛ぇ」


 最初にそうぼやき出したのはフランクだった。


「お前、変なもんでも拾い食いしたんじゃねーのか? 食い意地が張ってっから、そんな事になんだぞ」


「ち、ちげぇよガイルの兄貴ぃ。最近はアイリス(ねえ)さんが作ってくれる料理の他に変なもんは食ってねぇよ……うぐぐ、だ、駄目だ。ちょっと俺うんこ!」


「おー、いけいけ。漏らすなよー」


 フランクは片足だけでピョンピョンと跳ねる様に草むらの影の中へと消えていった。


 私は今、馬車の中でゆっくりとガーラングの用意してくれていた書物に目を通していた。


 今日はガーラングとデイトルトがいない。


 魔王の話では、彼らも周辺の情報収集や調査などで色々やる事が多く忙しいのだそうだ。


 そんな中、アイリスと私だけが今日は馬車内でくつろいでいた。


「……全く、下品ですわね」


 外から聞こえてきたフランクの声に私は小さく呟く。


「ホントにねー。ニンゲンってちょー下品」


 アイリスが自分のネイルを弄りながらケタケタと笑う。


「だいたいあの言い方ですと、アイリスのお料理でお腹壊したみたいですわ。アイリスのお料理は宮廷お抱えの最高級レベルの腕前だと言うんですのに」


「えっへへ、メイリア様ありがとー! 本当だよねー失礼しちゃう……って、いやあ、ちょっと待ってえ?」


 アイリスが何かを思い出したかのように視線を宙で泳がす。


「んー、あー、そういやぁアタシ、おとといだけ料理してないかもー」


「え? そうなんですの?」


「うん。アタシさ、おとといはちょっと近くの村の良いオトコの所から朝帰りしてたからー」


「あ、朝帰りって……一体何をしていたんですの!?」


「何って、そりゃあアタシ、サキュバスだし。そーゆー事だよー!」


 そーゆー事、という行為を想像して思わず私は顔を赤らめる。


「そんときさぁ、確か人間のジリングって奴に料理任しちゃった気がするんだよね」


「うーん? でもおとといの食事も美味しかったですわよ?」


「アタシ、朝帰りになっちゃうと思ったから、事前にある程度は用意しておいて、足りなかったらジリングになんとかしてーって頼んだの。もしかしたらフランクはその足りない分を食べたのかもねー」


 朝帰りを懸念して事前に料理も仕込んでおくとか、出来るサキュバスすぎるわよ、と内心でツッコんだ。


「……外にいるジリングに話を聞いてみましょうか」




        ●○●○●




「ええ。おとといの料理で足りない分は確かに俺が作ったっすよ、メイリアの(あね)さん」


 と、ジリングがあっけらかんとした顔で言った。


「その時、何を作ったんですの?」


「何ってそりゃあ、馬車の中にあった余り物の食材で寄せ集めの男料理ってヤツっすよ!」


「あっれぇ? おかしいよーソレ」


 アイリスが怪訝な顔をする。


「ん? 何がおかしいんすかアイリス(ねえ)さん?」


「いや、だってさあー。馬車の中の食材で使える物、あの時にはもう何にもなかったよ? だからアタシさーあんたに、もし食材必要なら適当に狩りするか、町で買ってきてーって言ったじゃーん」


「「え」」


 私とジリングが声を揃える。


「い、いやいや。何を言ってんすかアイリス姉さん! 俺ぁちゃんと馬車のあの籠に入ってるやつから取り出してですね……」


 と、ジリングが馬車の奥の大きな籠を指差す。


「……アレ、生ゴミ入れだよ?」


 それは私でも知ってる。あの籠はみんなの食べ残しとか、古くなった食材を放り込んで置く為の籠だ。


「……ま、マジすか?」


「まじ。あん中のもん使ったんだー。アハハ、やっば、ウケる」


 アイリスは笑っているが、フランクは大丈夫だろうか。


「ジリング。フランクが今、お腹を壊していますわ。様子を見てきなさい」


「は、はい!」


 ジリングは私に言われてすぐに様子を見に行った。


「ガーラングが戻ったら、何か良い薬がないか聞いてみましょう」


「そうだねー。っていうかジリングのやつ、パラギアの根っこ使って無ければいいけどナー」


「ん? なんですの? ソレ」


「パラギアの根っこはさ、すっごい美味しい根菜なんだけど、調理法を間違えると遅効性の毒物になっちゃうんだー。メイリア様も気をつけてネ?」


「そ、それは怖いですわね……」


「んー。メイリア様っておりょーり、する?」


 私はこう見えて料理はそんなにやらない。アルノー家のメイドやシェフたちに任せっきりだったのもあるが、私はどうも食材の見分けや扱いが苦手なのだ。


 それに異世界(日本)では……。


 ……ロクな記憶がない。


「……いえ。ほとんどしませんわ」


「んじゃ、最低限の事くらいアタシが教えるから、今から今晩の夕食作りの準備、一緒にしよー!」


 私は料理を覚える気はあまりなかったのだが、特にやる事もないしアイリスの知識を学ぶ良い機会だと思い、彼女の提案に頷いた。




        ●○●○●




「腹痛え」


「腹痛え」


「腹痛え」


 フランクから遅れる事1時間後。


 私がアイリスと料理に関するやりとりをしている最中、結局ガイルと他の元山賊たちも数人が不調を訴え、草むらに消えていった。






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