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第3話 堕ちた理由

 ――ヴァネッサに殺されたあと、私は恒例のように『日本』で橘花 美来として再転生する。


 その世界で私が決意した事。


 それは、


(……強くなる)


 ただそれだけだった。


 当然これまでも様々な研鑽を積み重ねてきたが、今度の目標は『全ての愛に対して』強くなる決意を固めたのである。


 私はアルノー領でも日本でも、家族は愛してやまないものだと思い込んでいたし、事実、私も家族も愛し合っていた。


 しかし時として、愛する家族は些細なきっかけで何度でも私に牙を剥く事を知った。


 日本での橘花家では、家族内で殺し合うような悲惨な事は起きなかった。むしろ私のもうひとりの父と母である橘花 和樹と橘花 美希はいつも、


「家族だけは何があっても縁が切れる事のない、最も愛すべき間柄である」


 という教えだった。


 私はこの言葉のせいでいつも事実と真実を見誤ってしまったのだ。


 家族だろうが、姉妹であろうが、所詮は他人なのだ。


 気に入らなければ殺す。


 弱ければ喰い物にする。


 動物とは違い、無駄に発達した脳を持つ人間という生き物は、自身の欲望の為ならば、家族すらも喰い殺すのである。

 

 それを前回でようやく学べた。


 だから私は『愛する事』をやめる強さを持つ決意を固めたのである。


 そこでこの日本で生きているうちに、私は心を冷たく暗く堕とす訓練を始める事にした。


 ()()()()()により私が8歳になった頃、暖かく優しい父、和樹と、母、美希を初めて殺した。台所の包丁で何度も何度も彼らの腹や背中を刺した。


 苦しむ彼らの、助けを乞う彼らの言葉にしっかりと耳を傾けて。


 本当は肋骨の合間を縫って心臓をひと突きにし即死させる術も知識も私にはあるのだが、私はあえて家族が苦しむ死に方を望んで行なった。


 そして私は泣き叫んだ。悲しくて悲しくて泣き叫び続けた。


 だが、最も優しかった日本での父と母を苦しませてこの手に掛けた事により、私は『愛に対する強さ』を手に入れる実感を得た。


 家族殺しを行なった私のこの人生は、それはもう悲惨なものであった。これまで平和に過ごしてきた日本で初めて地獄を味わうのである。


 辛い目に合いつつも、私はただ彼の地での復讐だけを胸に抱いて、地獄の余生を過ごす。


 復讐とは誰かに向けた物ではない。言うなれば私の運命への復讐である。16歳の誕生日を無事に迎える、という目的を果たす為だけの、運命への抗い。


 その対象はオルクラ大陸、アルノー領でなければならない。


 この『日本という異世界』はおそらく私に様々な知識を与える為に神が与えたもうた副産物なのだ。


 なので私の本懐はオルクラ大陸のアルノー領にある。


 それに『魔学』の発達と発展が汎用的であるオルクラ大陸での方が、何かと私にとっては都合が良いのだ。


 この『日本』では肉体年齢の武力による強さ以外、大きな能力や異能の力を得る事は容易ではない。しかしオルクラ大陸でなら、知識を……『魔学』を精通させればさせるほど、私の能力は飛躍的に向上していくからだ。


 つまり、私の繰り返しは『オルクラ大陸』での最強への道標だったのである。


 私が16歳で死を迎えるのが運命だとしたなら、その運命と戦える強さが必要だ。


 だからこそ、私はあちらの世界を滅ぼすくらいのつもりで運命に徹底的に抗う決意をしたのである。


「……久しぶりのシャバだわ」


 15歳になった私、橘花 美来は長らく児童相談所に軟禁状態であった。


 日本という国は実に優しい国なので、少年法という法律で未成年は守られている。だから私はあのような家族殺しを行なったにも関わらず、人としてそれなりには生きてこられた。


 むしろ愛する家族を殺した後の生活の方が、()()()清々しささえ感じていた。


 だが、児童相談所では得られる知識に偏向的である。


 なので、残り余生1年となった今日、児童相談所の監視員たちや共に過ごした仲間たちを計画的に殺害し、こうしてひとり街へと繰り出したのである。


 家族を殺せた私にとって他人を殺す事に引け目など感じなくなっていたので、躊躇う事なく皆殺しにしてやった。


 だがやはり『魔学』の通用しないこちらは何度繰り返そうと不便このうえない。


 物理法則に抗うような真似はどうあっても出来ないし、魔道具や精霊の加護なども無い。


 ゆえに知識と化学で作られた道具だけで私が居た児童相談所を壊滅させるのには、それなりに苦労をさせられた。


「さて、残りの余生でどのくらいできるのか試さなくちゃ」


 私はこの世界でアングラにその身を染める為に、私を軟禁していた児童相談所を潰して逃げるようにシャバへと出た。


 目指すは都内。新宿、歌舞伎町の裏路地。


 そこで可能な限りの処世術を身につけておきたいのである。


 私は生まれ持ったこの『女』という肉体を使って反社会的な勢力に潜り込み、様々な知識や道具を得た。


 だいたいの男は性交渉でなんとでもなる事もよく知っている。


 私は警察の手から逃れつつ、アングラな世界を生き抜いた事により『魔学』に乏しい日本でも、『化学』や『経験』による強さを覚えていく。


 銃やスタンガンなどの携帯武器。


 人をいとも容易く死に至らしめる薬剤(ドラッグ)の知識。


 そして金銭による人の掌握方法。


 たったの1年だったが、私は濃密な体験を熟せた。


 それに私は多少の無茶をしても自分が死なない事を知っている。


 16歳の誕生日を迎える日に死ぬのは確定的だが、それは逆説的に考えると『その日まで死ぬ事はない』とも思っていたからだ。


 そして。


 案の定、私は日本で16歳の誕生日に、恋人ヅラをしていたヤクザの下っ端の癇癪によって、無事殺されたのだった。




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